双子の弟に身長がとどかない‼︎

くっちー

文字の大きさ
上 下
1 / 13

俺の大嫌いな奴

しおりを挟む
俺の名前は虹間紀利兎。俺には大嫌いな奴がいる。

「ねえねえ、これ作ったの!よかったら食べて!」
「ズルい、私のも!」

下校中、女子たちのかん高いはしゃぎ声で、足を止めた。
目の前に数人同中の女子と、その真ん中に、アイツがいた。

「ねえ、これからウチらと遊ばない?亜紀兎君‼︎」

そう、亜紀兎だ。こいつこそ、俺の最も嫌いな相手。それであって、双子の弟。

「う、うん、でも…」

こいつは無駄にルックスと性格がいいために、異性にとても人気がある。
すらっと高い身長は、優に180はあるだろう。
凛と整った顔立ちは、どこか優しくて、黒い髪と制服が似合う。(そこも気に入らないんだけど。)
こいつは俺と違って穏やかで、ゆったりとした性格だ。
でも今は何故か、その長い足を仕切りにソワソワ動かして、落ち着きがない。
綺麗な額に、大量の汗が滲んでいる。

(あ、コイツトイレに行きたいんだな。)

双子の勘なのか、見た途端すぐにわかった。
きっとコイツのことだから、優しすぎて断れないんだろうな。

(勝手に困っとけ困っとけ。)

そう思った。

嫉妬しているだけだってことはわかっている。別に俺もモテたいとか、そんなんじゃなくて、ただただ気に食わない。
なんでって?うーん、なんでだろう?まあ、そんなことはどうでもよくて、とにかく俺は助けないぞ。

もう一度亜紀兎の方を見ると、さっきよりも切羽詰まった様子で、瞳にうっすら涙を浮かべていた。

この表情には見覚えがある。

それは小学四年生の頃だった。
亜紀兎は頼まれると断れない性格で、その日も鶏舎の掃除を任されていた。
気の弱い性格からか、女子の人気からか、その頃クラスの男子にいじめられていた亜紀兎は、鶏舎の掃除を半分強制的に押し付けられたのだ。
それを知って、一緒に鶏舎を掃除していると、「ガチャン」と、急に鍵がしめられた。
外を見ると、いじめっ子達が鍵を持ってニヤニヤ笑っていた。

「あはははは!閉じ込められた~笑」
「お、おい‼︎何やってんだよ返せ!」
「やーだよ!」

いじめっ子達は足早にその場を立ち去ってしまった。
しばらく呆然としていると、亜紀兎が隣で青ざめているのがわかった。

「亜紀兎、どうしたんだよ!具合わるいのか?」
「ううん、ちょっと、、、」
「なんだよ言えって。」
「トイレ…行き忘れた…。」
「え!?」

俺は慌ててドアや鶏舎のアミを壊そうと試みたが、結局ダメで、亜紀兎は鶏舎の中でお漏らししてしまった。
「ごめん…っご…めんなさい」
「何言ってんだ、閉じ込めたアイツらが悪いんだろ。お前は…その、悪くないよ。」
その時のアイツの泣き顔は、いくら嫌いな相手でも可哀想だった。

このままだとあの時みたいになりかねない。
中学二年になって流石にそれは恥ずかしいか。

(仕方ない、助けてやろう!)

「おいお前ら!」

俺は亜紀兎に群がっている女子軍団に近づいて行った。

「コイツ困ってんだろ。そこら辺にしておけよ。」

「は、はあ⁉︎何アンタ!」

すかさずリーダーと思われる人物が口を挟む。

「コイツのこと好きなら、困らせるなよ!」
「っ!あん…」
何か言いかけていたが、そのまま続ける。

「それから‼︎」
俺の大声に驚き、亜紀兎までも方をビクリとさせた。俺は亜紀兎の手からプレゼントのクッキーを奪って投げつける。

「コイツ卵アレルギーだからこれ食えんし。ちゃんと調べてから出直してきな‼︎」

流石に懲りたのか、女子達は何も言い返さなくなった。俺は急いで亜紀兎の手を取り、家に向かうため走り出す。しばらく進むと、後ろから悪口が聞こえてきた。

「ちょっ!何あの女‼︎」

その言葉に思わず立ち止まる。
誰が、誰が女だって⁉︎
確かに身長は亜紀兎の30センチ下だけど、声変わりもまだですけど、女じゃねーし‼︎
とっさに振り返って叫んでやる。

「誰が女だバカヤロウ‼︎」

「‼︎」

「あれだよ、亜紀兎君の双子の兄の!」
「え⁉︎兄弟なの?しかも兄⁉︎」
「ああ、あのインキャのチビねえ、通りで気づかなかった!」

女子どもがまた俺の悪口を言っているけれど、流石にこちら側はもう限界なもんで、無視して走った。

「き、紀利兎兄さんありがとう。」
「何言ってんだよ。間に合ってから言えって!」

コイツはいつもそうだ。自分より相手を優先する。
鶏舎での出来事だって、泣きながら、外に鍵を忘れていた自分が悪いって言っていたし。
そのせいで今見たく、自分が痛い目に遭ってるくせに!やっぱりそういうところも嫌いだ。

そうこうしている間に家に着いた。
「ごめんっ!先行くね‼︎」
玄関前まで来た時、肩に掛けていた鞄を投げ捨て、鍵を出してドタバタと中に入っていった。
アイツの投げ捨てた鞄を拾って、家に入り、しばらくすると、ジャーっという水の音が鳴って亜紀兎が現れた。
間に合ったようで、もとの穏やかな表情に戻っていた。

「紀利兎兄さん、助けてくれてありがとね。」
「別に助けたつもりはない。失敗されると俺まで恥かくからやったまでだ。」

あまりにも可愛げのある笑顔で言ってきたので、ついキツく当たってしまった。

「!…それでも、嬉しかったな。」
亜紀兎が、先ほどの笑顔よりももっと愛嬌全開にして、上目遣いでボソッという。

(!!!?)

なんだ⁉︎この胸のチクチクした痛みは!
突然胸に強烈な痛みが走り、心臓がバクバクする。

「…?どうしたの?紀利兎兄さん。」
「や、やめろ!お前に兄さん呼ばわりされると胸焼けがする‼︎二度と呼ぶな。それと、ズボンのチャック空いてるぞ‼︎」

亜紀兎は驚いた様子で急いでチャックを閉め始める。
その間に俺は、胸を押さえて急いで、二階の自分の部屋に駆け込んだ。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

最弱伝説俺

京香
BL
 元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!  有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

匂いがいい俺の日常

とうふ
BL
高校1年になった俺の悩みは 匂いがいいこと。 今日も兄弟、同級生、先生etcに匂いを嗅がれて引っ付かれてしまう。やめろ。嗅ぐな。離れろ。

処理中です...