25 / 39
1
再び湿地へ
しおりを挟む
翌朝、夜明け頃から釣りを始めた。早朝はよく釣れたのだが、日がある程度登ってしまうとぱったりと釣れなくなった。
魚の加工をしていたグリノルフが、釣りをしていた比呂人のところへやって来て言う。
「ここまでにしておこう。ねばってもこれ以上は難しいだろう」
「そうだな。結局、魚は何日分くらい獲れたんだ」
「三日半といったところか」
「思ってたより獲れなかったな」
「仕方ないさ。今回補充した食料が尽きたら一度街へ戻る」
「いいのか」
「陰鰐が捕まえられなければ一旦仕切りなおしたほうがいいだろう。ヒロトもそろそろ限界だろう」
「……うん」
疲れも溜まってきていて野外で活動できるのもそう長くはないことが自分でもわかる。
「狩りはいつでも成功するわけではない。なにも獲れずに終わることも多い。ヒロトが気にすることではないさ」
比呂人は黙ってうなずいた。
確かに狩りが必ず成功するものではない、というのはわかる。でも、比呂人の体力や技術のなさが足を引っ張っているのは事実だ。
「今回は俺が無理矢理連れてきたからな。旅の初めにくらべれば体力もついてきたし頑張っているさ」
グリノルフは優しい。でもその優しさは比呂人に何も期待していない優しさだ。
『悔しい』とはっきりと思う。
元の世界にいるときは悔しいという感情はすっかりなくなっていた。悔しいと思う前にあきらめ、投げ出していた。
久しぶりに感じる悔しさに、比呂人は戸惑う。戸惑うが、この悔しさは嫌な感じはしない。
「どうかしたか、ヒロト」
考え込んでいる比呂人にグリノルフが声をかける。
「ううん、なんでもない。早く飯食って出発しようぜ」
比呂人はグリノルフの二の腕をぽんと叩いてグリノルフが作業をしている場所へと向かった。
‡
早めに昼食をとり、湿地へと向かう。
湿地の近くの林へは日が落ちきる寸前に着いた。湿地の近くの林の中に、船を落ち葉で埋めておいたのでそれを掘り起こす。
グリノルフは携帯用の明かりで船底を調べる。木の皮を木の樹脂で接着してあるのでその部分を丹念に見ていく。
「ちょっと危ない箇所もあるが狩り場までは持つだろう」
ふたりで船を運び、湿地に浮かべる。そうしている間にあたりはすっかり闇に包まれる。
比呂人が明かりをもち舳に座り、櫂を持ったグリノルフが艫に乗り込む。出発したときと同様、グリノルフはかなり警戒している。
そんなグリノルフとは対照的に比呂人は、ぼんやりとした明かりに照らされた湿地の景色に目を奪われる。相変わらず胸が悪くなるような空気だが、幻想的だ。
程なくして狩り小屋に着く。相変わらず悪戦苦闘してロープを伝い木の上に登る。
小屋が破損していないことを確認すると、ふたりして無事に移動できたことにほっと息を吐く。
昼食のときに焼いた魚を焼き直し、遅めの夕食にする。
明日から干し魚の日々かと思うと、大事に食べようという気持ちになる。
夕食を食べ終わり、床に横になる。草布団の草は捨ててしまったので、布団にしていた袋だけを床に引き、マントを上からかぶる。
床は冷たいが、背中にグリノルフの熱を感じる。
「布団がなくて悪かったな。必要ならば明日草を取ってくるが」
「いいよ。それで半日潰れるだろ。今回は時間もないし、長い間じゃないからこのままでいい」
「悪いな」
「いいよ、別に。そんなに気を遣わなくても」
「別に気を遣っているわけでは」
「布団だってこの小屋だってグリノルフひとりだったらいらないものなんだろ」
「それはそうだが、それとこれとは」
比呂人は向きを変え、グリノルフと向かい合った。
「俺はグリノルフの足手まといになりたくないんだよ」
「足手まといなどではない。何も知らないヒロトを連れてきたのは俺だ」
「何も知らないからとか関係ない。陰鰐が出たときに俺がなんかやらかしたら……」
グリノルフは比呂人の言葉を最後まで待たず、比呂人の頭を抱え込み、ゆっくりととなでた。
「そんなに気にしなくていい。俺も見くびられたものだな」
「別に見くびってない。どんな奴にだって万が一ってあるだろ」
「そうだな。ヒロトは俺のことを心配してくれているのか」
「そりゃ……心配だろ」
「そうか」
グリノルフが比呂人の耳にちゅと口付けて耳朶を食んだ。比呂人の体がびくりと震える。
「グリノルフ、遊ぶなよ」
「遊んではいない。これで勘弁してやっている」
「勘弁って、全然勘弁になってない」
暗闇の中、声は聞こえないがグリノルフが笑っている気配がする。
それにむっとした比呂人は、グリノルフの首に腕を回し自分から口付けた。
グリノルフは一瞬驚いたが大きな手を比呂人の背中に回し、そっと抱きしめた。不安を溶かすような抱擁に比呂人は身をゆだねた。
魚の加工をしていたグリノルフが、釣りをしていた比呂人のところへやって来て言う。
「ここまでにしておこう。ねばってもこれ以上は難しいだろう」
「そうだな。結局、魚は何日分くらい獲れたんだ」
「三日半といったところか」
「思ってたより獲れなかったな」
「仕方ないさ。今回補充した食料が尽きたら一度街へ戻る」
「いいのか」
「陰鰐が捕まえられなければ一旦仕切りなおしたほうがいいだろう。ヒロトもそろそろ限界だろう」
「……うん」
疲れも溜まってきていて野外で活動できるのもそう長くはないことが自分でもわかる。
「狩りはいつでも成功するわけではない。なにも獲れずに終わることも多い。ヒロトが気にすることではないさ」
比呂人は黙ってうなずいた。
確かに狩りが必ず成功するものではない、というのはわかる。でも、比呂人の体力や技術のなさが足を引っ張っているのは事実だ。
「今回は俺が無理矢理連れてきたからな。旅の初めにくらべれば体力もついてきたし頑張っているさ」
グリノルフは優しい。でもその優しさは比呂人に何も期待していない優しさだ。
『悔しい』とはっきりと思う。
元の世界にいるときは悔しいという感情はすっかりなくなっていた。悔しいと思う前にあきらめ、投げ出していた。
久しぶりに感じる悔しさに、比呂人は戸惑う。戸惑うが、この悔しさは嫌な感じはしない。
「どうかしたか、ヒロト」
考え込んでいる比呂人にグリノルフが声をかける。
「ううん、なんでもない。早く飯食って出発しようぜ」
比呂人はグリノルフの二の腕をぽんと叩いてグリノルフが作業をしている場所へと向かった。
‡
早めに昼食をとり、湿地へと向かう。
湿地の近くの林へは日が落ちきる寸前に着いた。湿地の近くの林の中に、船を落ち葉で埋めておいたのでそれを掘り起こす。
グリノルフは携帯用の明かりで船底を調べる。木の皮を木の樹脂で接着してあるのでその部分を丹念に見ていく。
「ちょっと危ない箇所もあるが狩り場までは持つだろう」
ふたりで船を運び、湿地に浮かべる。そうしている間にあたりはすっかり闇に包まれる。
比呂人が明かりをもち舳に座り、櫂を持ったグリノルフが艫に乗り込む。出発したときと同様、グリノルフはかなり警戒している。
そんなグリノルフとは対照的に比呂人は、ぼんやりとした明かりに照らされた湿地の景色に目を奪われる。相変わらず胸が悪くなるような空気だが、幻想的だ。
程なくして狩り小屋に着く。相変わらず悪戦苦闘してロープを伝い木の上に登る。
小屋が破損していないことを確認すると、ふたりして無事に移動できたことにほっと息を吐く。
昼食のときに焼いた魚を焼き直し、遅めの夕食にする。
明日から干し魚の日々かと思うと、大事に食べようという気持ちになる。
夕食を食べ終わり、床に横になる。草布団の草は捨ててしまったので、布団にしていた袋だけを床に引き、マントを上からかぶる。
床は冷たいが、背中にグリノルフの熱を感じる。
「布団がなくて悪かったな。必要ならば明日草を取ってくるが」
「いいよ。それで半日潰れるだろ。今回は時間もないし、長い間じゃないからこのままでいい」
「悪いな」
「いいよ、別に。そんなに気を遣わなくても」
「別に気を遣っているわけでは」
「布団だってこの小屋だってグリノルフひとりだったらいらないものなんだろ」
「それはそうだが、それとこれとは」
比呂人は向きを変え、グリノルフと向かい合った。
「俺はグリノルフの足手まといになりたくないんだよ」
「足手まといなどではない。何も知らないヒロトを連れてきたのは俺だ」
「何も知らないからとか関係ない。陰鰐が出たときに俺がなんかやらかしたら……」
グリノルフは比呂人の言葉を最後まで待たず、比呂人の頭を抱え込み、ゆっくりととなでた。
「そんなに気にしなくていい。俺も見くびられたものだな」
「別に見くびってない。どんな奴にだって万が一ってあるだろ」
「そうだな。ヒロトは俺のことを心配してくれているのか」
「そりゃ……心配だろ」
「そうか」
グリノルフが比呂人の耳にちゅと口付けて耳朶を食んだ。比呂人の体がびくりと震える。
「グリノルフ、遊ぶなよ」
「遊んではいない。これで勘弁してやっている」
「勘弁って、全然勘弁になってない」
暗闇の中、声は聞こえないがグリノルフが笑っている気配がする。
それにむっとした比呂人は、グリノルフの首に腕を回し自分から口付けた。
グリノルフは一瞬驚いたが大きな手を比呂人の背中に回し、そっと抱きしめた。不安を溶かすような抱擁に比呂人は身をゆだねた。
10
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。


真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる