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樹上生活
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比呂人が目を覚ましたとき、グリノルフは火を熾そうとしていた。
相変わらず起きたときに体は痛いが、中身は草でも布団を使っていると思うと気分がいいし心なしか寝付きがいい気がする。
干し魚を炙り、朝食にする。グリノルフは食後にいい香りのする葉のはいったお湯を出してくれた。
お湯を飲みながら狩りの説明を聞く。
「ヒロトが身につけていた布と下履きをこの網に入れてここから見えるところに吊るしておく。あとは陰鰐が現れるまで待つだけだ。網は夜間は引き上げる。陰鰐は昼行性だから夜は気にする必要はない。陰鰐はここら辺りで一番強い生き物だから、警戒心は薄めだ。運が良ければすぐにでも出てきてくれるだろう」
「で、陰鰐ってどんな生き物なんだ」
「陰鰐は成獣だと俺より大きい。表皮は固く、力が強く、体の半分以上が尻尾で、これで攻撃してくる。歯も鋭く、食いつかれると腕ぐらいは簡単に持っていかれるから気をつけろ」
「気をつけろってそんなの俺じゃどうしようもねえよ」
「ヒロトは基本的にここにいればいい。陰鰐は俺が仕留める。布についた香りは一日ほどで弱くなってしまうから毎日身につけていた布をくれればいい」
「それは……わかったよ。でもそんな化け物みたいなのどうやって仕留めるんだ」
「口輪を嵌め、ひっくり返して腹を割く。表皮は刃が立たないが腹は柔らかいから刃物が使える。ヒロトの香りに酔えば付け入る隙はある」
「それって危なくないのか」
「安全ではないがヒロトには危険がないようにする」
「そういうことじゃなくて、グリノルフは大丈夫なのかって聞いてんの」
「俺は大丈夫だ」
「俺だってさ、狩りだから100%安全だとは思ってないよ。でもさ、」
「大丈夫だ」
グリノルフは比呂人に最後まで言わせず、比呂人の髪をくしゃりと撫でた。
「それで布と下履きをくれないか」
「え、今?」
「そうだ」
「ちょ、待って、今脱ぐから」
比呂人は立ち上がって銀のローブの下に手を入れてズボンを脱ごうとした。
「いや、むこう向いてろよ」
グリノルフは何事もないようにそこに座っている。
「ん?」
「ん、じゃねえ。やりずらいからあっち向いてろよ」
「ん、ああ」
グリノルフが背中を向けている間に下履きを履き替えて、胸に巻いている布を取り替える。
「もういいよ」
こちらを向き直ったグリノルフに脱いだ下履きと布を渡す。とてつもなく恥ずかしいが必要なことだと自分に言い聞かせて、努めてなんでもないもののように渡す。
「顔が赤いようだが大丈夫か」
グリノルフに指摘されますます顔が熱くなる。
「なんでもない。いいから早く準備しろよ」
比呂人はつっけんどんに言い返した。グリノルフは比呂人の下履きと布を網に入れて、狩り小屋の近くの枝に結び下へと下ろした。網は地面すれすれのところでゆっくりと左右に揺れている。
「あとは陰鰐が現れるまで待つだけだ」
そこからはただひたすら陰鰐が現れるのを待つ時間になった。木の上ということでできることも限られる。比呂人はまず弓を引く練習をしたが、体力がないのですぐ疲れてしまった。
グリノルフは道具の手入れをしながら比呂人に言う。
「はじめはそんなものだ。休んで引けるようになったらまたやればいい」
比呂人は座り込んでグリノルフが働く様子を眺める。今は天幕のほつれた部分を繕っている。
ぼんやりと眺めていると繕い終えたグリノルフと目が合った。
ぼんやりしていたのが気まずくて、グリノルフに慌てて聞く。
「俺にもできることある?」
「矢を作るので手伝ってくれるか」
グリノルフが拾ってきたまっすぐな木の棒を矢に加工することになった。グリノルフが棒を同じ長さに切り揃え、先端をナイフで鋭く尖らせた。
比呂人はその尖らせた先端を火で焙っていく。
「こういうのって尖った石みたいなのを付けるんだと思ってた」
「鏃か。確かにあったほうが威力があがるが数が限られているからな。先を尖らせるだけでも十分だ」
次は矢に矢羽を取り付けるのだが、あまり器用ではない比呂人には難しかった。
グリノルフが昨日の鳥の羽を矢羽の形に切り、比呂人がそれを糸で矢に取り付けるのだがなかなかうまくいかなかった。
「矢羽はなくてもいいがあったほうが安定する。遠くの獲物を狙うのだったらあったほうがいい。均等に取り付けてくれ。失敗しても構わない。練習だと思ってやってくれ」
グリノルフに言われた通り、何度も何度もやり直して、結局その日合格点をもらえた矢は二本しかなかった。
次の日もそのまた次の日も、合間に弓の練習をしながらほとんど一日中矢を作り続けた。不器用な比呂人も徐々にうまくなっていき、矢を作り始めて三日目の夕方にはグリノルフが拾ってきた木の棒はすべて矢に作り変えられてしまった。
湿地に移動してきて五日目、陰鰐はいまだ姿を現さなかった。
相変わらず起きたときに体は痛いが、中身は草でも布団を使っていると思うと気分がいいし心なしか寝付きがいい気がする。
干し魚を炙り、朝食にする。グリノルフは食後にいい香りのする葉のはいったお湯を出してくれた。
お湯を飲みながら狩りの説明を聞く。
「ヒロトが身につけていた布と下履きをこの網に入れてここから見えるところに吊るしておく。あとは陰鰐が現れるまで待つだけだ。網は夜間は引き上げる。陰鰐は昼行性だから夜は気にする必要はない。陰鰐はここら辺りで一番強い生き物だから、警戒心は薄めだ。運が良ければすぐにでも出てきてくれるだろう」
「で、陰鰐ってどんな生き物なんだ」
「陰鰐は成獣だと俺より大きい。表皮は固く、力が強く、体の半分以上が尻尾で、これで攻撃してくる。歯も鋭く、食いつかれると腕ぐらいは簡単に持っていかれるから気をつけろ」
「気をつけろってそんなの俺じゃどうしようもねえよ」
「ヒロトは基本的にここにいればいい。陰鰐は俺が仕留める。布についた香りは一日ほどで弱くなってしまうから毎日身につけていた布をくれればいい」
「それは……わかったよ。でもそんな化け物みたいなのどうやって仕留めるんだ」
「口輪を嵌め、ひっくり返して腹を割く。表皮は刃が立たないが腹は柔らかいから刃物が使える。ヒロトの香りに酔えば付け入る隙はある」
「それって危なくないのか」
「安全ではないがヒロトには危険がないようにする」
「そういうことじゃなくて、グリノルフは大丈夫なのかって聞いてんの」
「俺は大丈夫だ」
「俺だってさ、狩りだから100%安全だとは思ってないよ。でもさ、」
「大丈夫だ」
グリノルフは比呂人に最後まで言わせず、比呂人の髪をくしゃりと撫でた。
「それで布と下履きをくれないか」
「え、今?」
「そうだ」
「ちょ、待って、今脱ぐから」
比呂人は立ち上がって銀のローブの下に手を入れてズボンを脱ごうとした。
「いや、むこう向いてろよ」
グリノルフは何事もないようにそこに座っている。
「ん?」
「ん、じゃねえ。やりずらいからあっち向いてろよ」
「ん、ああ」
グリノルフが背中を向けている間に下履きを履き替えて、胸に巻いている布を取り替える。
「もういいよ」
こちらを向き直ったグリノルフに脱いだ下履きと布を渡す。とてつもなく恥ずかしいが必要なことだと自分に言い聞かせて、努めてなんでもないもののように渡す。
「顔が赤いようだが大丈夫か」
グリノルフに指摘されますます顔が熱くなる。
「なんでもない。いいから早く準備しろよ」
比呂人はつっけんどんに言い返した。グリノルフは比呂人の下履きと布を網に入れて、狩り小屋の近くの枝に結び下へと下ろした。網は地面すれすれのところでゆっくりと左右に揺れている。
「あとは陰鰐が現れるまで待つだけだ」
そこからはただひたすら陰鰐が現れるのを待つ時間になった。木の上ということでできることも限られる。比呂人はまず弓を引く練習をしたが、体力がないのですぐ疲れてしまった。
グリノルフは道具の手入れをしながら比呂人に言う。
「はじめはそんなものだ。休んで引けるようになったらまたやればいい」
比呂人は座り込んでグリノルフが働く様子を眺める。今は天幕のほつれた部分を繕っている。
ぼんやりと眺めていると繕い終えたグリノルフと目が合った。
ぼんやりしていたのが気まずくて、グリノルフに慌てて聞く。
「俺にもできることある?」
「矢を作るので手伝ってくれるか」
グリノルフが拾ってきたまっすぐな木の棒を矢に加工することになった。グリノルフが棒を同じ長さに切り揃え、先端をナイフで鋭く尖らせた。
比呂人はその尖らせた先端を火で焙っていく。
「こういうのって尖った石みたいなのを付けるんだと思ってた」
「鏃か。確かにあったほうが威力があがるが数が限られているからな。先を尖らせるだけでも十分だ」
次は矢に矢羽を取り付けるのだが、あまり器用ではない比呂人には難しかった。
グリノルフが昨日の鳥の羽を矢羽の形に切り、比呂人がそれを糸で矢に取り付けるのだがなかなかうまくいかなかった。
「矢羽はなくてもいいがあったほうが安定する。遠くの獲物を狙うのだったらあったほうがいい。均等に取り付けてくれ。失敗しても構わない。練習だと思ってやってくれ」
グリノルフに言われた通り、何度も何度もやり直して、結局その日合格点をもらえた矢は二本しかなかった。
次の日もそのまた次の日も、合間に弓の練習をしながらほとんど一日中矢を作り続けた。不器用な比呂人も徐々にうまくなっていき、矢を作り始めて三日目の夕方にはグリノルフが拾ってきた木の棒はすべて矢に作り変えられてしまった。
湿地に移動してきて五日目、陰鰐はいまだ姿を現さなかった。
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