異世界転移したらフェロモン系男子でした

七嶋璃

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樹上生活の快適化

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比呂人は寒さで目を覚ました。
目を開けると視界が白く霞んでいる。まだ寝ぼけているのかと目をこすってみたが視界は変わらなかった。起き上がると辺り一面に霧が立ち込めていた。
隣に眠っていたグリノルフはおらず、グリノルフのマントも比呂人に掛けられていた。霧のせいでマントはしっとりと湿っている。
何か用があってどこかに行っているのだろうが、視界が悪く少し先も見えず不安になる。
不安なまま膝を抱えてぼんやりしていると、グリノルフが木を登ってきた。
「起きていたのか」
グリノルフは登りきると、背中に括りつけていた大きな鳥を床へと下ろした。大きく首の長い鷺のような鳥だ。
「い!」
旅の間に動物を獲って食べるということに慣れたつもりでいたが、予期しないところで見るとぎょっとしてしまう。
グリノルフは湿地では瘴気のせいで狩りが出来ないと言っていたが、空を飛んでいる鳥は別なのだろう。
グリノルフは比呂人の反応に笑みをもらすと言った。
「高台に持って行って焼こう。羽は矢羽にする」
「お、おう」
取り繕うように比呂人が返事をする。
「寒くはないか」
「ちょっと寒いかな。にしても霧すごいな」
「いつも出るというわけではないのだが、珍しいことではないな」
言いながらグリノルフは床に座ると自分の足の間をぽんと叩いた。
「?」不思議そうにする比呂人にグリノルフは言った。
「霧が晴れないかぎり移動するのは危険だ。温めてやるからここに座れ」
「え、いや、え」
グリノルフは無言で自分の足の間を指し示す。恥ずかしいとか言ってもこれは座るまであきらめないやつだ、と観念してグリノルフの足の間に座る。
比呂人は平均身長よりちょっと低いくらいで取り立てて小柄というわけでもないのだが、グリノルフの体にすっぽりと収まってしまう。
グリノルフの体が風除けになり、体温も感じるので確かに温かい。
「やっぱり火は必要か。燃えにくい木で火床を作ろう。寝ている間は危ないから焚けないが、昼間に暖を取ったり食事を温めたり湯を沸かしたりできる」
「うん」
「基本的に狩りといっても待ち時間がほとんどだからヒロトには退屈かもしれないな」
「うん」
グリノルフが喋るたびに唇が首筋を掠める。そのたびに体がむずむずとして落ち着かない。
ついにグリノルフは喋るのをやめて比呂人の首筋に顔を埋めた。
「ちょ、グリノルフ」
「なんだ」
「なにしてんだよ」
「何って、匂いをかいでいるだけだ」
「俺はいいって言ってない」
「減るものではなしいいだろ」
「ん……」グリノルフが比呂人の耳の裏に口付けた。ちゅという音が耳朶を震わせ思わず声が出た。
グリノルフの腕に力がこもる。
「だめだ」比呂人はぐっとグリノルフの顔を手で押し戻す。
「そうだな、俺の我慢がきかなくなる」比呂人から顔は見えないがグリノルフが笑い声で言う。
「な、んだよ。性質たちわりい」暴れる比呂人を抑え込んでグリノルフが耳元で言う。
「そうだな、今はこうしているだけで満足だ」
「……」
比呂人は何か言い返そうと思ったが、何も浮かばずそのままグリノルフの腕の中へ納まった。
やがて霧が晴れて高台に移動することになった。船で湿原を出て高台に登る。
比呂人が鳥の羽と格闘している間に、グリノルフは柵用の木材を切り出し、燃えにくい木で火床を作った。
比呂人が苦労して羽をむしり取った鳥で、グリノルフは塩焼きと汁を作った。
グリノルフが食事の支度をしている間、今度は比呂人が布団代わりにする枯れ草を集めた。
早朝だと霧で湿っていたのだろうが、陽に照らされてすっかり乾いている。グリノルフに渡された大きな袋に乾いた枯れ草を詰めていく。
一通り詰め終わって、下になっていた枯れ草が表面に出てくる。湿っているので、乾かす間に昼食をとる。
たったの一日かそこら温かい食事をとらなかっただけなのに、そのありがたさが身に染みる。
温かい鳥の汁を飲み干して、比呂人はほうっと息を吐く。
「やっぱ温かい飯はうまいな」
「そうだな。火床を作ったので湿地に行っても、温かいものが食べられる」
「生活がしんどいんだからうまいもんぐらい食わないとやってられねえよ」
「お前の不満がひとつでも減れば結構なことだ」
昼食を終え、もう一度枯れ草を集める。比呂人が枯れ草を詰めた大きい袋を、グリノルフがそのほかの木材や火床を背負って船まで運び、湿地へと戻った。
グリノルフが持ってきた木材で、狩り小屋に高さ20cmほどの簡単な柵を取り付け、天幕を張る。火床を据え付け初日より大分快適に暮らせるようになった。
夕食も、干し魚を焙ることができたし、熱い湯を飲むこともできた。
いざ寝る段になって、枯れ草を詰めた袋がふたりが寝れるほど大きくないことに気付いた。
「ヒロトが使えばいい」
「グリノルフは?」
「俺はいい。床は硬いしなにより冷える。ヒロトに風邪でもひかれたら困る」
「確かに俺の体調が悪くなったらグリノルフが困るのはわかるけどさ、俺だけ布団を使うのはなんか嫌だ」
グリノルフは腕を組んで眉間にシワを寄せている。
「いやいやいや、難しそうな顔してるけど一緒に使えばいいじゃん。横にして、上半身だけのっけてさ。グリノルフは平気かもしんなけど俺が嫌なの」
「……わかった」
しぶしぶといった感じでグリノルフが承諾する。
「よし!」普段はなかなか折れないグリノルフから譲歩を引き出すことができて、比呂人は満足げに草布団に寝転がった。
「もう寝るぞ。明日からは待ち伏せだ」
グリノルフが比呂人にマントを放ってよこし、自身もマントを被って横になると、ぐっと比呂人を抱き寄せた。
「くっついてないと寒いだろう」
「うん」
相変わらずグリノルフに触れられると胸が騒ぐ。
無柄は騒ぐがグリノルフの腕は温かく、安心できる。比呂人はとろりと眠りに落ちた。
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