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樹上で就寝
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「夕食にしよう」
グリノルフに言われて比呂人は起き上がった。
グリノルフから干し魚を受け取り口の中でふやかすように食べる。
旨味が凝縮されているので味は申し分ないのだが、いかんせん冷たく硬い。しかし今は腹が減っているのでとにかくうまい。
干し魚を平らげ再び横になる。梢のあいだからちらちらと星が見える。月は三日月で月明かりは期待できない。
そこでふと気付く。今日はここで寝るのかと。
比呂人は起き上がりグリノルフにたずねる。
「壁と屋根がないけど明日作るのか」
「屋根は天幕を張る。壁は特に作る予定はないが」
「え、だってここで寝るんだよな。俺絶対落ちると思うけど」
グリノルフはしばらく考えてから言った。
「では壁とはいかないが簡単な柵をとりつけよう。それでいいか」
比呂人がうなずく。簡単な柵がどれほどのものかわからないがないよりはましだ。それにしっかりした壁を作るにはそれなりに労力が必要だろう。獲物が捕れれば長くはいないのだし壁を作らないというのも理解できる。
「でも今日は?今日もここで寝るんだろ」
「今日は……俺が捕まえておいてやる」
「へ?捕まえるって?」
「お前が幹側、俺が湿原側に寝ればいいだろう」
「ん、ああ、そうだな」
「今日は大変だっただろう。もう休んだほうがいい」
「ああ」
比呂人がマントを背嚢から取り出していると、マントをまとったグリノルフが先に横になった。明かりがなく作業ができないので休むのだろう。
体の大きいグリノルフが対角線のあたりに寝ているので比呂人はそれより幹側に横になった。
グリノルフは幹側を向いているので、比呂人も同じく幹側を向く。床は一片が2mないくらいで、グリノルフが横になれるくらいの広さはあるが広々というほどではない。
グリノルフと体こそくっついていないものの、体温が感じられるくらいには近い。
それにいつもは火を焚いて地面に寝ているのだが、火がない上に湿原ということで大分寒く感じる。木を組んだだけの床は地面とはまた違った硬さ、凹凸がありそれもいつもと違い落ち着かない。
ひどく疲れているはずなのになかなか寝付かれずもぞもぞと動いているとグリノルフに声をかけられた。
「眠れないのか」
「うん、なんだか落ち着かなくて。あと火がないと寒いな」
「そうだな」
グリノルフは言い終わる前に比呂人を後ろから抱きしめた。
「な、に」
「こっちのほうが温かいだろう」
「そう、だけど」
「明日、草の布団を作ってやろう。初日に言っただろう」
「覚えてたのか」
「覚えている」グリノルフがかすかに笑った気配がした。
比呂人はなんとか普通に会話したが、正直グリノルフが気になってそれどころではない。
「明日は一度高台まで戻って、柵用の木と湧き水と布団用の草を手に入れよう。お前にも手伝ってもらうがいいか」
「ああ」
グリノルフが喋るたびに耳に息がかかる。どくどくと息がかかった耳に血が集まってくるのがわかる。
次の瞬間、熱くなった比呂人の耳にグリノルフの鼻が押し当てられた。
「……っ」
思わず比呂人がびくりと震えた。鼓動が大きく早くなりグリノルフに聞こえてしまうのではないかと心配になる。
「お前はいい香りがする」
「……汗臭いだろ。今日いっぱい汗かいたし」
「そんなことはない」
グリノルフの腕に力がこもる。比呂人は背中からグリノルフの体温が移ってきたみたいに体が熱くなる。このままでは眠るどころの話ではない。
「グリノルフ、その……」
「なんだ」
「そんなにくっつかれると、なんというか、落ち着かないというか」
「嫌か」
「嫌っていうか、このままだと眠れないというか」
「どうすれば眠れる」
「どうすればって、そんなのわかんねえよ。とりあえず耳元で喋られるとくすぐったい」
「そうか。ではこちらを向けばいい」
「いや、それはちょっと」
「なぜだ」
「……なぜってこの距離で顔と顔を合わせんのは恥ずかしいだろ」
「ヨンナといいお前といい、天津国人はすぐ恥ずかしいと言う。俺以外誰もいないというのに」
「誰かが見てるとかじゃなくて俺が恥ずかしいんだよ」
「いいからこっちを向け、ヒロト」
「やだ」
拒絶したヒロトにグリノルフがため息を吐く。その息が耳を打ち、思わず反応してしまう。その隙にグリノルフは比呂人の体の向きを強引に自分のほうへと変えた。
グリノルフの厚い胸に顔を押し付けるような格好になる。どくどくとグリノルフの鼓動が聞こえる。
比呂人はグリノルフの胸に顔を埋めたままくぐもった声で言う。
「グリノルフは俺をどうしたいんだよ」
「どうもしない。俺はただ……」
グリノルフが言いかけて途中でやめた。しばらく沈黙が続き、不安に思った比呂人が顔を上げるとグリノルフの唇が降ってきた。音を立てグリノルフが比呂人の唇を吸う。
グリノルフの不意打ちに比呂人ははじめこそ体を固くしたが、やがて身を委ねた。
長いとも短いとも感じられる時間が過ぎ、グリノルフの唇が比呂人から離れた。グリノルフはそのまま比呂人をそっと抱きしめる。
三日月の弱い光がただふたりを照らしていた。
グリノルフに言われて比呂人は起き上がった。
グリノルフから干し魚を受け取り口の中でふやかすように食べる。
旨味が凝縮されているので味は申し分ないのだが、いかんせん冷たく硬い。しかし今は腹が減っているのでとにかくうまい。
干し魚を平らげ再び横になる。梢のあいだからちらちらと星が見える。月は三日月で月明かりは期待できない。
そこでふと気付く。今日はここで寝るのかと。
比呂人は起き上がりグリノルフにたずねる。
「壁と屋根がないけど明日作るのか」
「屋根は天幕を張る。壁は特に作る予定はないが」
「え、だってここで寝るんだよな。俺絶対落ちると思うけど」
グリノルフはしばらく考えてから言った。
「では壁とはいかないが簡単な柵をとりつけよう。それでいいか」
比呂人がうなずく。簡単な柵がどれほどのものかわからないがないよりはましだ。それにしっかりした壁を作るにはそれなりに労力が必要だろう。獲物が捕れれば長くはいないのだし壁を作らないというのも理解できる。
「でも今日は?今日もここで寝るんだろ」
「今日は……俺が捕まえておいてやる」
「へ?捕まえるって?」
「お前が幹側、俺が湿原側に寝ればいいだろう」
「ん、ああ、そうだな」
「今日は大変だっただろう。もう休んだほうがいい」
「ああ」
比呂人がマントを背嚢から取り出していると、マントをまとったグリノルフが先に横になった。明かりがなく作業ができないので休むのだろう。
体の大きいグリノルフが対角線のあたりに寝ているので比呂人はそれより幹側に横になった。
グリノルフは幹側を向いているので、比呂人も同じく幹側を向く。床は一片が2mないくらいで、グリノルフが横になれるくらいの広さはあるが広々というほどではない。
グリノルフと体こそくっついていないものの、体温が感じられるくらいには近い。
それにいつもは火を焚いて地面に寝ているのだが、火がない上に湿原ということで大分寒く感じる。木を組んだだけの床は地面とはまた違った硬さ、凹凸がありそれもいつもと違い落ち着かない。
ひどく疲れているはずなのになかなか寝付かれずもぞもぞと動いているとグリノルフに声をかけられた。
「眠れないのか」
「うん、なんだか落ち着かなくて。あと火がないと寒いな」
「そうだな」
グリノルフは言い終わる前に比呂人を後ろから抱きしめた。
「な、に」
「こっちのほうが温かいだろう」
「そう、だけど」
「明日、草の布団を作ってやろう。初日に言っただろう」
「覚えてたのか」
「覚えている」グリノルフがかすかに笑った気配がした。
比呂人はなんとか普通に会話したが、正直グリノルフが気になってそれどころではない。
「明日は一度高台まで戻って、柵用の木と湧き水と布団用の草を手に入れよう。お前にも手伝ってもらうがいいか」
「ああ」
グリノルフが喋るたびに耳に息がかかる。どくどくと息がかかった耳に血が集まってくるのがわかる。
次の瞬間、熱くなった比呂人の耳にグリノルフの鼻が押し当てられた。
「……っ」
思わず比呂人がびくりと震えた。鼓動が大きく早くなりグリノルフに聞こえてしまうのではないかと心配になる。
「お前はいい香りがする」
「……汗臭いだろ。今日いっぱい汗かいたし」
「そんなことはない」
グリノルフの腕に力がこもる。比呂人は背中からグリノルフの体温が移ってきたみたいに体が熱くなる。このままでは眠るどころの話ではない。
「グリノルフ、その……」
「なんだ」
「そんなにくっつかれると、なんというか、落ち着かないというか」
「嫌か」
「嫌っていうか、このままだと眠れないというか」
「どうすれば眠れる」
「どうすればって、そんなのわかんねえよ。とりあえず耳元で喋られるとくすぐったい」
「そうか。ではこちらを向けばいい」
「いや、それはちょっと」
「なぜだ」
「……なぜってこの距離で顔と顔を合わせんのは恥ずかしいだろ」
「ヨンナといいお前といい、天津国人はすぐ恥ずかしいと言う。俺以外誰もいないというのに」
「誰かが見てるとかじゃなくて俺が恥ずかしいんだよ」
「いいからこっちを向け、ヒロト」
「やだ」
拒絶したヒロトにグリノルフがため息を吐く。その息が耳を打ち、思わず反応してしまう。その隙にグリノルフは比呂人の体の向きを強引に自分のほうへと変えた。
グリノルフの厚い胸に顔を押し付けるような格好になる。どくどくとグリノルフの鼓動が聞こえる。
比呂人はグリノルフの胸に顔を埋めたままくぐもった声で言う。
「グリノルフは俺をどうしたいんだよ」
「どうもしない。俺はただ……」
グリノルフが言いかけて途中でやめた。しばらく沈黙が続き、不安に思った比呂人が顔を上げるとグリノルフの唇が降ってきた。音を立てグリノルフが比呂人の唇を吸う。
グリノルフの不意打ちに比呂人ははじめこそ体を固くしたが、やがて身を委ねた。
長いとも短いとも感じられる時間が過ぎ、グリノルフの唇が比呂人から離れた。グリノルフはそのまま比呂人をそっと抱きしめる。
三日月の弱い光がただふたりを照らしていた。
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