異世界転移したらフェロモン系男子でした

七嶋璃

文字の大きさ
上 下
19 / 39
1

狩り小屋の建築

しおりを挟む
次の日はグリノルフの言った通り、朝食後に木の伐採にとりかかった。
グリノルフが鉈のような刃物で、あまり太くない木を次々と切っていく。切った木はグリノルフによって枝葉を落とされ同じくらいの長さに切り揃えられる。
比呂人はそれを崖淵まで運んで下の湿原へと落とす。
「体ごと落ちるなよ」
「わかってるよ」
崖淵から落ちれば助からないことは比呂人でもわかる。切り出された木材は、比呂人が見たことのないもので木というよりも竹に近く思っていたよりも軽かった。
この木材を板状にはしないでそのまま組んで狩り小屋の床にするらしい。イメージとしては筏に近いだろうか。
グリノルフは狩り小屋に使う木材とは別の種類の木の樹皮を剥ぎ取り始めた。
その樹皮でグリノルフは簡単な船を作った。軽くて耐久性がなく狩りの間だけの船らしい。
午前中いっぱいかけて木材を切り出し湿原へと落とした。
昼食を兼ねた短い休憩をとり、いよいよ湿原へと出発する。荷物を背負い、木材運搬用の船をグリノルフと比呂人で担いで行く。船はそれなりの大きさがあるので動きずらくはあるが船自体は軽く、それほど負担にはならない。
高台を下り、湿原へとはいる。むっとした草いきれとも違った澱んだ空気が漂っている。
なんだか息苦しいというか息がしずらい。吸っても吸ってもうまく吸えていない気がする。呼吸の仕方を忘れてしまったような感じだ。
「グリノルフ、なんか息苦しいんだけど」
「これが瘴気だ。今すぐ体に害があるものではないが、長時間いるのはよくない。瘴気が漂っているのは水面近くだけだから木の上まで登っていしまえば楽になる」
「わかった。しばらく我慢するよ」そう答えたものの呼吸が浅く早くなる。
木材運搬用の船に乗り込み、木材を落とした地点まで移動する。木材を船へと乗せ、次は狩り小屋を作る木へと向かう。
比呂人には一面緑の草叢に見えるのだが、グリノルフは船が通れる水路と通れない湿地を見分けて船を操っていく。
程なくして湿原の中ほどのひときわ大きな木に着いた。
「少し休憩しよう」
言なりグリノルフはその木に登り始めた。木肌こそごつごつしているが、特に手がかりがあるわけでもない。にもかかわらずあっという間に木の股まで登ってしまった。
グリノルフは木にロープを取り付けると下ろした。ロープには等間隔で輪が作ってありこれを頼りに登れということらしい。
ロープをつかみ自分の体を持ち上げる。輪っかを使いながら少しずつ登っていく。かなりの時間をかけ苦労の末、なんとか上まで登ることができた。ただのロープだったら上まで登れなかっただろう。
木の股に両の手足を着き荒い息を吐く。下にいるときより随分と息がしやすい。大きく深呼吸を繰り返す。
「大丈夫か」
グリノルフが汗で額に張り付いた比呂人の髪をかき分ける。比呂人は言葉がまだ出ず、ただうなずいた。
息が整うと、見計らったようにグリノルフから水筒を渡された。
水筒を受け取り夢中で飲む。気のすむまで飲んだあとに、水はどうするのだろうと気付く。
「ごめん、結構飲んじゃった」
「別にかまわない」
「そういえば水ってどうするんだ」
「日に一度汲みにいく。さっきの高台に湧水がある」
「じゃあ俺が汲みに行こうか」水汲みくらいなら自分にもできるかもしれない。そう思って比呂人は口にする。
「いや、ヒロトだと狙われる可能性がある。気持ちだけ受け取っておこう」
餌になる自分があちらこちらとうろつくのはかえってグリノルフの迷惑になる。
考えが至らなかった自分が恥ずかしく、比呂人はちいさく「わかった」とだけ言った。
比呂人の返事にグリノルフはただ黙ってうなずいた。
守られるだけのポジションは楽だと思っていたが、いざ自分がそうなってみるともどかしいものがある。全く役に立っていないわけではないが、単純な作業しかできない。その単純作業も、力や体力が必要でそれらがない比呂人にとってはなかなかつらいものがある。
しばらく休んで比呂人は再び木の下へと降りた。船の上でロープの端に木材をくくりつけ、反対側の端を引っ張って木材を木の上へと上げる。ロープは木の枝をまたいで掛けてあり、枝にはなにか装置が取り付けてある。たぶん滑車の原理で木を持ち上げるようにしているのだろう。普通に持ち上げるより随分軽いがそれでも重労働には違いない。これも単純作業を比呂人が担当する形だ。
グリノルフは木の上で木材を受け取り組み立てていく。
比呂人は空気が悪い中、20本近く木材を木の上へと上げた。終わったころには腕が震えて力が入らなくなってしまったが、再びロープをよじ登らなければならない。
途中まで頑張って登ったものの、それ以上動けなくなって結果グリノルフにロープを引き上げてもらった。
比呂人が木の上に引き上げられたときには木材は既に組み上げられていた。
木の股は大人二人がゆったり座れるくらいには広いが、作業をするには狭いだろうにどうやったのだろうと比呂人はぐったりしながら思う。
グリノルフはそんな比呂人を横目に組み立てた木材を木の枝と木の枝の間に固定していく。夕闇がせまり作業ができなくなる前に固定を終えることができた。
比呂人は恐る恐る固定されたばかりの床に乗ってみる。切りたての木材のいい香りがする。
作業の途中で自分は無力だと感じることもあったが、実際自分が手伝ったものがこうやって出来上がると達成感がある。
比呂人は床に座り、さらにごろりと横になった。床はひんやりと心地よかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。 果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

処理中です...