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転落
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比呂人とグリノルフは森を抜け、二日前から大きな川を上流へとさかのぼっている。
川から大人二人分ほど高い場所を歩いている。道というほどではなく、獣道のような辛うじてほかの場所より歩きやすい場所だが、木陰で川面から冷たい風が吹いてきて心地よい。
川沿いを歩き始めてから、比呂人は大分気が楽になった。なんといっても魚を釣って食べられるのがいい。
森や山だと、保存食やなんだかよくわからない小動物や野草や茸を煮込んだシチューを食べることが多く、まずくはないのだが、知らない食材を食べるのは比呂人にとって地味にストレスだった。
その点魚は、見たことのない魚だが形自体は向こうの魚と変わらないし、たくさん取れれば腹いっぱい食べられるのもよかった。その場で食べきれない魚はグリノルフが干して保存食にした。
そんな魚の保存食と黒パンで昼食をとったあと、再び歩き始めた。
歩いているうちに吹き付ける風が急に冷たくなった。雨が近いことが比呂人にもわかった。
「雲行きが怪しい。休める場所を見つけたら早めに休もう」陰り始めた空を見上げてグリノルフが言う。
それからいくらもたたないうちにぽつりぽつりと大粒の雨が落ち始めた。あっという間に土砂降りになる。
雨の中での移動は体力の消耗が激しい。グリノルフは比呂人に決して無理はさせなかった。
それが単なる優しさではなく、必要なことだからだということは比呂人にはよくわかっていた。
足手まといになりたくない、そう思い急いだのがよくなかったのか、比呂人は濡れた草で足を滑らせバランスを崩してしまった。
前に倒れればよかったのだが、背負っていた荷物の重みで後ろに引っ張られるように倒れた。
伸ばした手はむなしく宙をかき川へと落ち込んでいる斜面を滑り落ちる。まずいと思ったときには水に落ちていた。
息を吸おうと思って顔を出すがすぐに水に沈んでしまう。泳ごうにも流れが速くて岸にたどり着ける気がしない。
このまま下流に流されて、うまくいけばどこかで引っ掛かることができるかもしれないが十中八九溺死することだろう。
こんなよくわからないところで死ぬのか、つまらない人生だった。
努力するだけ無駄だとすべてを諦めて川の流れに身をゆだねようとした比呂人の耳に、ドボン、と大きなものが水に落ちる音が聞こえた。
音のほうを見ると、グリノルフがこちらへと泳いできている。
「な、んで」
思わず声が出て、その反動で水を飲んでしまう。
比呂人もなんとかしようと思うがなすすべもなく流されるだけだ。
そうしているあいだにもグリノルフは比呂人との距離をじりじりと詰め、ようやく比呂人の足首をつかんだ。
グリノルフは比呂人を引き寄せ、自分の胸に掻き抱いた。
グリノルフは比呂人が水をなるべく飲まないように抱え、川の流れと直角に向きを変えて、岸に向かって泳ぎだす。
比呂人は、意識が朦朧としていて暴れることなく大人しくグリノルフに抱えられたままになっている。
グリノルフは川の途中の小さな川原を見つけ、そこを目指して泳ぐ。
いくらグリノルフが数々の危険をかいくぐってきたとはいえ、成人男性を抱えて川を泳ぐのは生半可なことではない。
グリノルフは目的の川原へ泳ぎ着き、最後の力を振り絞り自分と比呂人の体を岸に上げると気を失った。
‡
比呂人は圧迫され息苦しくて目が覚めた。
グリノルフが比呂人に覆いかぶさるように気を失っている。
慌ててグリノルフの様子を確かめると、雨で表皮は冷えてはいるが密着している面はしっかりと温かい。呼吸もしっかりしている。
とりあえずグリノルフの下から這い出す。体が離れた途端、風が比呂人から体温を奪っていく。
ただでさえ全身ずぶ濡れな上に、雨脚は弱まったものの相変わらずしとしとと霧のような雨が降っている。
とりあえずどこか雨の当たらない場所に移動したい。
比呂人とグリノルフが泳ぎ着いた川原はさほど大きなものではなく、一目で見渡せるくらいの広さだ。川原の端は低い川崖となっている。
川原に木などは生えておらず、川崖から数本空を目指して曲がりながら生えているだけで、ぱっと見ただけでは休めるような場所は見当たらない。
グリノルフと離れるのは不安だが、雨で視界が悪く実際歩いて確認するしかないようだ。
とりあえず川崖まで行って、川崖沿いに歩いてみる。さほど行かないうちに洞窟というほどではないが横穴が開いているのを見つけた。
高さはぎりぎり比呂人が立って通れるくらいで、自然にできたものというより人か獣が作ったもののようだ。何も出てきませんようにと願いながら覗いてみる。
当然のことながら中は真っ暗でなにも見えない。どのくらい奥行きがあるかもわからない。しかし何かがいるような気配も感じられない。そもそも襲ってくるような獣ならば比呂人が迂闊に覗いている時点で襲われているのではないだろうか。
とにかく体が冷えるので一刻も早く移動したい。多少の危険があったとしても体温が奪われないことが優先だ。
グリノルフの所へ戻って横穴へと移動する。
比呂人がグリノルフを抱えあげることは到底不可能なので、脇の下に手を入れて少しずつ引きずっていく。
川原は大きいものでこどもの拳くらいの石から小さいものは親指の爪くらいの石まで大小様々な石が堆積している。
その中を大柄なグリノルフを非力な比呂人が引きずっていくのはなかなか大変なことだった。グリノルフにも申し訳ないと思ったが他に方法がなかった。
ようやく横穴にたどり着いたときには感じた肌寒さもどこへやら、比呂人は肩で息をしていた。
川から大人二人分ほど高い場所を歩いている。道というほどではなく、獣道のような辛うじてほかの場所より歩きやすい場所だが、木陰で川面から冷たい風が吹いてきて心地よい。
川沿いを歩き始めてから、比呂人は大分気が楽になった。なんといっても魚を釣って食べられるのがいい。
森や山だと、保存食やなんだかよくわからない小動物や野草や茸を煮込んだシチューを食べることが多く、まずくはないのだが、知らない食材を食べるのは比呂人にとって地味にストレスだった。
その点魚は、見たことのない魚だが形自体は向こうの魚と変わらないし、たくさん取れれば腹いっぱい食べられるのもよかった。その場で食べきれない魚はグリノルフが干して保存食にした。
そんな魚の保存食と黒パンで昼食をとったあと、再び歩き始めた。
歩いているうちに吹き付ける風が急に冷たくなった。雨が近いことが比呂人にもわかった。
「雲行きが怪しい。休める場所を見つけたら早めに休もう」陰り始めた空を見上げてグリノルフが言う。
それからいくらもたたないうちにぽつりぽつりと大粒の雨が落ち始めた。あっという間に土砂降りになる。
雨の中での移動は体力の消耗が激しい。グリノルフは比呂人に決して無理はさせなかった。
それが単なる優しさではなく、必要なことだからだということは比呂人にはよくわかっていた。
足手まといになりたくない、そう思い急いだのがよくなかったのか、比呂人は濡れた草で足を滑らせバランスを崩してしまった。
前に倒れればよかったのだが、背負っていた荷物の重みで後ろに引っ張られるように倒れた。
伸ばした手はむなしく宙をかき川へと落ち込んでいる斜面を滑り落ちる。まずいと思ったときには水に落ちていた。
息を吸おうと思って顔を出すがすぐに水に沈んでしまう。泳ごうにも流れが速くて岸にたどり着ける気がしない。
このまま下流に流されて、うまくいけばどこかで引っ掛かることができるかもしれないが十中八九溺死することだろう。
こんなよくわからないところで死ぬのか、つまらない人生だった。
努力するだけ無駄だとすべてを諦めて川の流れに身をゆだねようとした比呂人の耳に、ドボン、と大きなものが水に落ちる音が聞こえた。
音のほうを見ると、グリノルフがこちらへと泳いできている。
「な、んで」
思わず声が出て、その反動で水を飲んでしまう。
比呂人もなんとかしようと思うがなすすべもなく流されるだけだ。
そうしているあいだにもグリノルフは比呂人との距離をじりじりと詰め、ようやく比呂人の足首をつかんだ。
グリノルフは比呂人を引き寄せ、自分の胸に掻き抱いた。
グリノルフは比呂人が水をなるべく飲まないように抱え、川の流れと直角に向きを変えて、岸に向かって泳ぎだす。
比呂人は、意識が朦朧としていて暴れることなく大人しくグリノルフに抱えられたままになっている。
グリノルフは川の途中の小さな川原を見つけ、そこを目指して泳ぐ。
いくらグリノルフが数々の危険をかいくぐってきたとはいえ、成人男性を抱えて川を泳ぐのは生半可なことではない。
グリノルフは目的の川原へ泳ぎ着き、最後の力を振り絞り自分と比呂人の体を岸に上げると気を失った。
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比呂人は圧迫され息苦しくて目が覚めた。
グリノルフが比呂人に覆いかぶさるように気を失っている。
慌ててグリノルフの様子を確かめると、雨で表皮は冷えてはいるが密着している面はしっかりと温かい。呼吸もしっかりしている。
とりあえずグリノルフの下から這い出す。体が離れた途端、風が比呂人から体温を奪っていく。
ただでさえ全身ずぶ濡れな上に、雨脚は弱まったものの相変わらずしとしとと霧のような雨が降っている。
とりあえずどこか雨の当たらない場所に移動したい。
比呂人とグリノルフが泳ぎ着いた川原はさほど大きなものではなく、一目で見渡せるくらいの広さだ。川原の端は低い川崖となっている。
川原に木などは生えておらず、川崖から数本空を目指して曲がりながら生えているだけで、ぱっと見ただけでは休めるような場所は見当たらない。
グリノルフと離れるのは不安だが、雨で視界が悪く実際歩いて確認するしかないようだ。
とりあえず川崖まで行って、川崖沿いに歩いてみる。さほど行かないうちに洞窟というほどではないが横穴が開いているのを見つけた。
高さはぎりぎり比呂人が立って通れるくらいで、自然にできたものというより人か獣が作ったもののようだ。何も出てきませんようにと願いながら覗いてみる。
当然のことながら中は真っ暗でなにも見えない。どのくらい奥行きがあるかもわからない。しかし何かがいるような気配も感じられない。そもそも襲ってくるような獣ならば比呂人が迂闊に覗いている時点で襲われているのではないだろうか。
とにかく体が冷えるので一刻も早く移動したい。多少の危険があったとしても体温が奪われないことが優先だ。
グリノルフの所へ戻って横穴へと移動する。
比呂人がグリノルフを抱えあげることは到底不可能なので、脇の下に手を入れて少しずつ引きずっていく。
川原は大きいものでこどもの拳くらいの石から小さいものは親指の爪くらいの石まで大小様々な石が堆積している。
その中を大柄なグリノルフを非力な比呂人が引きずっていくのはなかなか大変なことだった。グリノルフにも申し訳ないと思ったが他に方法がなかった。
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