そのまさか

ハートリオ

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42.オーダー通り(*嫌な話です。ご注意ください。読まなくても大丈夫です。)

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ベナ・マギネ拉致後拷問殺害を依頼した女は目出し頭巾の下でニヤリと醜く笑います。 (これであの憎い女に復讐できる! 本当は自分で手を下したいけど、1秒でも多くキヤギネと楽しみたいから・・・クックックッ・・・)


満足げに椅子から立ち上がろうとしますが、いつの間にか背後にいた犯罪者集団の男の一人に押さえつけられ、立てません。


「!? ちょっと!? 何のつもり!?」

頭巾の女は目の前に座るボスに鋭い視線を向けます。
いつもなら誰もが恐れる自分の睨みに、目の前の男は無表情で、


「そう急ぐことはねえだろう。 ひとつ、俺の昔話でも聞かせてやろう。 その前に、お互い腹を割って話そうぜ。 オイ」


とボスが言うと、頭巾の女を押さえつけていた男が乱暴に女から頭巾を剥ぎ取ります。 現れたのは、赤くうねる長い髪・・・


「お前! この私を誰だと・・」


「やっぱり。 我が国の第一王女クニンニ様。」


「・・無礼者ッ! この私を、お前ごときが名前で呼ぶなど・・ハッ・・」


言いながら第一王女は気付きます。 護衛に連れて来ていた屈強な3人がいない!?
いつの間に!? 音も、声も立てずに!?
サッと蒼ざめた第一王女に構わずに、ボスが話し始めます。


「昔話・・・ちょうど1年前の話だ・・・俺は女房と一緒に街中まちなかで買い物をしてた。 女房は臨月で、もうすぐ赤ん坊が生まれるってんで、その準備だ。 俺は女房には家で休んでろって言ったんだが、どうしても自分で選びたいって言ってな。 一度言い出したら聞かねえ、気の強い女で・・・でも俺にとってはたった一人の家族・・・可愛い女・・・」


(1年前・・・買い物中の妊婦・・・ハッ!)
記憶力のいい第一王女は、ある事に思い当たります。


「女房が疲れたってんで俺達は道脇のベンチで一休みしてた・・・おや、思い出したか? そうだよ、その時お前さんが馬車で通り掛かった。 お前さんは同乗していた男達・・・今日連れて来た奴等だったなぁ、さっきまでお前さんの後ろに並んでた・・・その男達に命じて、俺達を無理矢理馬車に乗せて、“水の宮殿”って所に連れて行った。 お前さんは無理矢理拉致するのが好きなんだなぁ・・・」 


第一王女はさっきまで聞こえていた獣の咆哮を思い出しています。 この黒い森には色々な獣が住むという・・・その獣の雄たけびだろうと思っていた・・が・・
まさか・・・あんな恐ろしい咆哮が人のモノであるはずが無い・・・

ふと窓の外を見ます。 大きな木に何かが吊るされています・・・3つ・・・
赤い液体がボタボタと滴り落ちて・・・あれは・・・あの肉塊は・・


「・・ハッ!!」
第一王女はそれが足首を紐で縛られ、逆さ吊りにされ多分既に息絶えているヒト――護衛に連れて来ていた側近達だと気付きます。


「どうしてそんな事が出来るんだろうなぁ・・臨月の妊婦の服を引っぺがして、寄ってたかって乱暴するなんてよォ・・皆母親から生まれて来てるはずなのになァ・・・“水の宮殿”であの男達にさんざんやられて、女房は血の涙を流した・・もう充分地獄だったのに、お前さんは言ったんだよなァ・・・“あの膨らんだ腹の中がどうなってるか見たい”って・・」


「ちッ・・違う!! あれは、側近が勝手にやった事! 私はただ“見たい”と言っただけよ! それを勘違いした側近が・・・」

そうよ・・ただ純粋にそう思っただけ・・私は2人の夫との間に子供が出来なかった・・占い師によると、前世の障り、前世の悪い行いのせいだと・・冗談じゃない、何で前世の責任を私が取らなきゃいけないの!? それで頭に来てる所に幸せそうにデカい腹を見せびらかしてる女がいたから・・そうよ、私は悪くない!


「・・・いくら欲しいの?」

低い声で第一王女が訊きます。


「あ?」 ボスが訊き返します。


「好きなだけ要求しなさい! 私はこの国の次期国王・・・第一王女よ!」

吐き捨てる様に第一王女は言い放ちます。

・・・言い放ちました。

・・・言い放った・・のですが・・


(・・・・??)


第一王女は事態が判断できません。
いつもなら、どんな状況になろうとも自分が出て行き名乗りさえすれば、一瞬にして空気が変わり、その場を収める事が出来るのです。 だからこそ、少数の供のみ連れただけで身軽に行動してきました。 今日もそうです。


(私は今確かに自分の尊い身分を明かした・・・なのになぜ誰もひれ伏さない!? こいつ等、バカなのか!? この私の機嫌を損ねたらどうなるか想像する事すら出来ないのか!?)


「何アレ? 何か名乗ってるけど・・」 「知ってるつーの。 さっきボスがクニンニって言ったら激怒してたクセにもう忘れてるのか」「バカなのか?」


部屋の隅で交わされている到底許す事の出来ない会話が第一王女の耳に届きます。
第一王女はクワッと目の前のボスを睨みつけますが、言葉が出せません。
背後にいた男にスッと猿ぐつわをかまされてしまったのです。

「ッ!? ッ!?? ッッッ!???」


(わ・・私に何て事を!? この私に・・ま・・まさか・・この私を・・)


やっと事態が飲み込めて来たらしい第一王女に対して、向かいに座るボスが無表情なまま静かな声で言います。


「“まさか”って顔をしているなぁ・・・そのまさかだよ。 と言っても別に大した事じゃねえ、俺はただ。 それだけだ・・」


それから約1か月後――オーダー通りの惨殺死体が黒い森付近の草むらで発見されました。
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