そのまさか

ハートリオ

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41.オーダー(*嫌な話です。ご注意ください。読まなくても大丈夫です。)

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「キェェェェェ~~~~~ッッ!!」


スキャーリオン王国との国境付近で大騒ぎしているのは第一王女、クニンニ。
どうしても国境を越える事が出来ません。


「あぁ~~~~~ッ!! 悔しい!! 悔しい悔しい!! クゥ~~~ッ、・・」

小さい子供でも中々しないぐらい、地べたをゴロゴロ転げ回って、手足をバタバタさせて、奇声を上げ続けます。 “叱ってくれる優しいお母さん”は、彼女が子供の頃、叱ってきたので腹が立ち・・ピ――――・・ってしまったのでもういません。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ、・・・」

道の真ん中に大の字で寝転がったまま、荒い息をしながら空を凝視します。

側近達も、一般の民も、誰でも通れるのに、自分だけが分厚い透明の壁に阻まれ通れないのです。 こんな屈辱は初めてです。


(・・ッ、キヤギネ・・・欲しい・・! 狂いそうなほどお前が欲しい!! お前が隣国へ行ってしまったとヤカフ伯爵に聞いて、こうしてすぐにお前を追って来たのに・・! 会いたい! 会えるだけでもいい! それなのに、それなのに・・ッ)


「ヴァ~~~~~ッヴゥァア~~~~~ッガァ~~~~~ッ」

今度は獣の咆哮で泣き出しました。 仰向け状態のまま大量の涙が流れ、耳の中にも入っているようです。


(あの時ギネオア邸で会ったのが最後・・こんな事になってしまうなら、あの時彼の足元にこの身を投げ出して愛を乞えば良かった・・・愛を乞う・・ですって!? あぁ、この私にこんな事を思わせるなんて、何て男なの・・・憎らしい・・それ以上に欲しい・・じっくり楽しみながらモノにするつもりだった・・・余裕だった・・いつでも会えると・・権力で服従させられると・・何よりもまさか・・まさか自分が、こんなになってしまうなんて・・・これじゃぁ何処にでもいるただのバカな女じゃないの・・・)


第一王女は他者に恐怖感を与える為、自己演出で奇異を装う事はあるけれど、実際に狂っているわけではありません。 恐ろしいほど性格が悪いだけです。
彼女は本当の天才だし、今までは自分の感情も見事にコントロール出来て来ました。 だからお気に入りのヤカフ伯爵にも陰で事業を手助けするぐらいで、強制的な事は時折要求するぐらいで抑えて来ましたし、他者よりも強すぎる性欲も側近達を使って上手く処理出来て来ました・・・それなのに・・

(・・ッ、もう、側近達じゃダメ・・彼本人じゃなくちゃダメ!! 彼が欲しいッ!! 彼の全てを・・・あぁ、本当に頭がおかしくなりそうッ・・・キヤギネの事となると、私は本当の狂人になってしまうッ・・・)


ムクリ。 第一王女が体を起こします。
泣きはらした目が危険な光でギラついています。


(・・あの女のせい・・あの白髪の・・アイツが、私のキヤギネを攫って行ったんだ! あの顔と体・・・男を垂らし込む為だけに生まれて来たようなあの下品な体でキヤギネを誘惑したに違いない・・ヤカフ伯爵もガックリ項垂うなだれていたっけ・・・本当に、男ってのは・・・! 若さも美貌もあっという間に失うもの。 そんなものに価値を置くとか・・・でも、それならそれを利用させてもらうまで・・・私が国境を越えられないなら、あの女をこっちに誘拐して、キヤギネを呼び出せばいい・・・そしてキヤギネを手に入れたら、あの女は・・・クックックッ)



黒い森。 魔物が出ると恐れられ、誰も近寄らなかったこの場所ですが、最近魔物がどこかへ移動したらしいということで・・・(*どうやら、キヤギネの従者セボジェタ・プエーロ親子が強すぎる為、“魔物”とみなされ、恐れられていたようです。)

その森に、早速闇世界を暗躍する怪しげな連中がアジトを作り、今までは“誰も近付けない場所”でしたが、今は“良からぬ目的を持つ者”が近付く場所となっています。


今日もここに、黒いヴェール付きの目出し頭巾姿の女が、3人の屈強な男達をお供に仕事の依頼の為に訪れています。
彼女が訪れたのは、3つあるアジトの中でも特に人々に恐れられている悪の集団のアジト。 金さえ積めばどんな汚い仕事でも請け負い、キッチリとこなすという、依頼する側からすれば好都合な集団。


その集団のアジトである粗末な建物の中の殺風景な一室。 部屋の真ん中に木を組み立てただけの長方形のテーブルに椅子が2脚。 家具(?)はそれだけ。 椅子の一脚には犯罪者集団のボスが、テーブルを挟んだ向かいの一脚には客である頭巾姿の女が座り、その背後には女のお供の屈強な3人の男が女を守る様に立ち、その周りをグルリとボスの手下のならず者達15~16名が囲み、女の話を聞いています。


「隣国から“ベナ・マギネ”という娘を攫ってくればいいんだな。 容易たやすい事だ。」
そう口を開いた犯罪者集団のボスは、意外にも静かで無表情・・どこかで見た様な・・どこにでもいそうな男だと頭巾の女は思います。


「ふっふ・・あんた達にも楽しい仕事になるでしょうよ。 ベナ・マギネは16才とは思えない、男を悦ばす為に生まれて来たようなイイ体した美少女よ・・攫う際、どこに何を突っ込んで楽しんでもいいけど、表面には分からない様にしてちょうだい。 目的はその女を使って男を呼び出す事なんだから。 見た目で傷物になった事がバレちゃぁ困るんだからね。 ソコはちゃんとして。 ま、見えない所に何したっていいけど・・・」


「そいつは楽しみだな・・」

と犯罪者集団のボスが言えば、その後ろに控えているならず者達が唸るような下品な笑い声をあげます。


「クックク・・楽しい話はここからよ。 目的の男が手に入れば、用済みになったその女・・・この方法で殺してほしいのよ。」


そう言って頭巾の女は丁寧なイラスト付きの指示書を渡します。 いかに長時間、いかに苦しませて殺すか・・・練りに練った頭巾の女渾身の指示書です。
内容は酷過ぎて、R15対応不可です。


「どう? たっぷり楽しめそうでしょ? あ、女が苦痛のあまり舌を噛み切らないようにちゃんと猿ぐつわをかませるのよ。 あの女には苦しみ抜いて死んでもらうわ! 私の男を奪った罰をちゃんと受けさせてやるのよ!!」


「必ず注文通りに女をなぶり殺そう。」


犯罪者集団のボスは低い声で仕事を請け負いました・・・
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