そのまさか

ハートリオ

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32.全てを見ていた○○○○○○(*嫌な話なので注意して下さい)

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「俺が知ってるのは、麗華が10才の頃からだ。」
そう前置きしてキヤギネが話した内容は、耳を塞ぎたくなる様な酷いものでした。



麗華と純也、二人は同級生で幼なじみで初恋同士だった。 社長の交代劇が起こる13才までは二人は幼い恋を育んでいた。
だが、大学を卒業した環が父の会社に入社し、偶然見かけた13才の純也を見染めた事で、麗華の地獄が始まった。 麗華と純也の可愛い恋に嫉妬した環は、自分の取り巻き達に麗華を集団レイプさせた。 それによって妊娠してしまった麗華を、自分が父親かもしれない事を恐れた男達は、怪しげな薬を無理矢理飲ませて堕胎させた。
麗華は13才で、医師に「将来子供は難しい」と言われてしまった。
純也との恋を諦め、全てに絶望した麗華を環は執拗に攻撃し続けた。 純也の気持ちが麗華にあるせいで、純也が手に入らないのだと麗華を憎み、男達にレイプさせ続けた――


『それは・・それは違うぞ? 俺は、いや純也は何度も男達とベッドに居る麗華を・・・無抵抗で男達に抱かれている麗華を見てる・・・レイプじゃない・・・』


真っ蒼な伯爵が、絞り出す様に否定します。 が――


「何度も見てる? その時点で何でおかしいと思わない? お前は今世で何度他人のベッドシーンを目撃した? せいぜい1~2回だろう。 前世の日本だったらもっと目撃する確率は低いはずだ。 普通、他人に見せるものじゃないからな。 それを何度も見てるなら、環が画策してわざと目撃させたんだろう。 純也が麗華を嫌う様に、な。 純也は何故それに気づかなかった? お前は何故それに気付けない?」


『・・そう言われれば、確かに変だとは思う・・でも、麗華は確かに無抵抗だったんだ・・! 無抵抗で、複数の男達に色々されてて・・・っ』


「それで? 麗華は楽しんでいたか?」 キヤギネが苦々しく訊きます。


『・・えっ!?』 伯爵は、何を訊かれているのか一瞬戸惑います。


「まるで人形の様だったろう?」


『あぁそうだよ! 麗華は男達に“生きてるラブ・ドール”って呼ばれ・・ハッ!』
そうだった・・“死体”と言っていい程、麗華はまるで無感覚の人形の様だった――目を開けたまま気絶しているような状態で・・そうする事で耐えていたのか!? 


『・・楽しんでなかった・・死んだようだった・・俺は、何度も見たのに・・こうして、思い出そうと思えば思い出せてしまう程、はっきり見たのに、何で気付かなかった!? だが、何で麗華は警察に届けなかったんだ・・告発しなかったんだ・・』


「最初のレイプを動画で撮られてた。 泣き叫ぶ顔から性器まで大写しになってる酷いものだ。 環はそれを繰り返し麗華に見せては喜び、男達はネットに流すぞと脅してはレイプを繰り返した。
だが、そんな動画がなくても、麗華は環を告発しなかっただろう。 病弱な妹の治療費の為に、左遷されたとはいえ父親が失業するわけにいかなかったから――」


『――ハッ・・アァッ・・俺は・・・俺は何も気付かずに・・気付いていれば、』


「お前は気付こうと思えば気付けたはずだ。 環はズサンだった。 感情をコントロール出来ずに、ちょいちょいボロを出していたし、嘘も下手だった。 今世の第一王女と同じだ。 本来気付けたものを気付かなかったのはお前の罪だ。重罪だ。
助けられたはずなのに見捨てたんだ! 麗華は環に殺された。 だが、半分は純也に殺されたようなものだ!」


『そ・・ ッ、じゃぁ、お前はどうなんだよ!? そんなに何もかも分かってて、何で麗華を助けなかったんだ!? お前だって同罪だろ!? なのに何で純也だけを責めるんだよっ!? ・・お前は、誰だったんだ!? “マロ”なんてヤツ、どこにいたんだ!? そんなに麗華の側にいて、何もかも分かってて・・・』


伯爵は頭を押さえながら前世の記憶をめぐらせます。 頭の中でずっと犬の声がしています。 吠え続ける犬の声――あぁそうだ、麗華が飼っていた・・・はっ・・!!

『キ、キヤギネ・・・お前の前世は・・・まさか・・・』


「あぁ、そのまさかだ。」


そうだ・・麗華が10才の誕生日にプレゼントされたんだ・・・それ以来、いつも麗華の側にいた・・・そうだそうだ、名前は“マシュマロ”だった。 で、“マロ”って呼んでた・・・真っ白で、フワフワで、モフモフの―――


「白いポメラニアン――それが俺の前世だ。」
ポメラニアンの面影が1ミリもない男が静かに肯定するのでした。
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