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21.不気味な侵入者
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キヤギネがテキパキと縄をほどきます。
ヤカフ伯爵の両手をベッドに拘束していた縄です。 実はヤカフ伯爵自身がある方向に引っ張れば簡単に解けるようになっているのですが、ベナの手前、そうするわけにはいきませんので。
「大丈夫ですか? 手は、問題なく動きますか?」
そう訊ねながらキヤギネがヤカフ伯爵の腕を揉み解すと、ヤカフ伯爵は何故か少し赤面してしまいながら、『あ、ああ、大丈夫だ・・』と答えます。
「では、旦那様は奥様をお守り下さい。 私が奥様の部屋を確認致します。 奥様、失礼ながら入室させて頂きます。」
「え・・えぇ。 気を付けてね、怪我しては嫌よ!? ね、気を付けて・・」
『ベナ、こっちへ。』
ベナはヤカフ伯爵に抱き寄せられますが、その瞳は不安げにキヤギネだけを見つめます。
ベナには“奥様の部屋”のドアへ向かうキヤギネの後ろ姿がスローモーションの様に見えています。 強い足取りに揺れる逞しい肩、毛先まで尊い揺れる黒髪・・・嫌だ、もしも彼に何かあったら・・・そうなるくらいなら、自分がどうかなってしまった方が全然いい・・・思わずキヤギネに駆け寄ろうとしますが、ヤカフ伯爵に引き止められます。
『・・ベナ・・』
ヤカフ伯爵は、妻の細い腰にしっかりと手を回し何とか引き止めたものの、その華奢な体では考えられない程の力強さに何か胸を抉られる様に感じます。
キヤギネが“奥様の部屋”へ入って数分後、ドアから二人を手招きします。
3人で部屋に入ります。 サッと一見すると、特に変化は無い様に見えます。
『ふぅ・・物音は気のせいだったか・・』 「はぁ・・良かったですわ・・」
夫婦は胸を撫で下ろしますが、キヤギネがベッドを示します。
『「・・なっ・・!」』
ベッドにはベナの夜着が広げられ、その心臓部分にナイフが刺さっているのです!
「侵入者はもう去った後です。 ・・どうやら侵入者は、この屋敷の秘密の通路を使って移動している様なのです。」
「?! 秘密の通路・・そんな物があるのですか!?」
そんなワードは初耳のベナは、驚きを隠せません。
『あぁ・・ある。 すまない、君にはまだ教えてなかったな。 何せ、会話が不可能だったから・・』
ヤカフ伯爵が申し訳なさそうにベナに謝ります。
「あ、いいえ! そう、私がいけなかったのですわ。 何度も話しかけて頂いたのに、お答えしなかったのですもの。 そんな、大切なお話し、出来ようはずもありませんわ!」
『・・これからは何でも話そう。 ここが、その通路の入り口になる。』
ヤカフ伯爵が壁の一部を押すと、ただの壁だと思っていた壁がクルリと半転し、壁の奥へと進む通路が現れます。 仄かな残り香が、そこに人が居た事を証明していますが、先の方まで灯りで照らしてみても、もう人影はありません。
『この香り・・・第一王女様で間違いないな。 さて、どこへ行ったのか・・・それにしても、秘密の通路を、第一王女様が知っているはずないのだが・・・』
「・・いいえ、ご存じなのです・・」
『・・何ッ!?』 「リーク・・?」 「あぁ、リーク! 帰っ・・大丈夫?」
いつの間にかリークがドアの所に立っています。 酷く顔色が悪いのが分かります。
ズザッ!! リークはいきなり土下座すると、震えながら叫びます。
「申し訳ございません! モカは、第一王女様のスパイだったのです!」
ヤカフ伯爵の両手をベッドに拘束していた縄です。 実はヤカフ伯爵自身がある方向に引っ張れば簡単に解けるようになっているのですが、ベナの手前、そうするわけにはいきませんので。
「大丈夫ですか? 手は、問題なく動きますか?」
そう訊ねながらキヤギネがヤカフ伯爵の腕を揉み解すと、ヤカフ伯爵は何故か少し赤面してしまいながら、『あ、ああ、大丈夫だ・・』と答えます。
「では、旦那様は奥様をお守り下さい。 私が奥様の部屋を確認致します。 奥様、失礼ながら入室させて頂きます。」
「え・・えぇ。 気を付けてね、怪我しては嫌よ!? ね、気を付けて・・」
『ベナ、こっちへ。』
ベナはヤカフ伯爵に抱き寄せられますが、その瞳は不安げにキヤギネだけを見つめます。
ベナには“奥様の部屋”のドアへ向かうキヤギネの後ろ姿がスローモーションの様に見えています。 強い足取りに揺れる逞しい肩、毛先まで尊い揺れる黒髪・・・嫌だ、もしも彼に何かあったら・・・そうなるくらいなら、自分がどうかなってしまった方が全然いい・・・思わずキヤギネに駆け寄ろうとしますが、ヤカフ伯爵に引き止められます。
『・・ベナ・・』
ヤカフ伯爵は、妻の細い腰にしっかりと手を回し何とか引き止めたものの、その華奢な体では考えられない程の力強さに何か胸を抉られる様に感じます。
キヤギネが“奥様の部屋”へ入って数分後、ドアから二人を手招きします。
3人で部屋に入ります。 サッと一見すると、特に変化は無い様に見えます。
『ふぅ・・物音は気のせいだったか・・』 「はぁ・・良かったですわ・・」
夫婦は胸を撫で下ろしますが、キヤギネがベッドを示します。
『「・・なっ・・!」』
ベッドにはベナの夜着が広げられ、その心臓部分にナイフが刺さっているのです!
「侵入者はもう去った後です。 ・・どうやら侵入者は、この屋敷の秘密の通路を使って移動している様なのです。」
「?! 秘密の通路・・そんな物があるのですか!?」
そんなワードは初耳のベナは、驚きを隠せません。
『あぁ・・ある。 すまない、君にはまだ教えてなかったな。 何せ、会話が不可能だったから・・』
ヤカフ伯爵が申し訳なさそうにベナに謝ります。
「あ、いいえ! そう、私がいけなかったのですわ。 何度も話しかけて頂いたのに、お答えしなかったのですもの。 そんな、大切なお話し、出来ようはずもありませんわ!」
『・・これからは何でも話そう。 ここが、その通路の入り口になる。』
ヤカフ伯爵が壁の一部を押すと、ただの壁だと思っていた壁がクルリと半転し、壁の奥へと進む通路が現れます。 仄かな残り香が、そこに人が居た事を証明していますが、先の方まで灯りで照らしてみても、もう人影はありません。
『この香り・・・第一王女様で間違いないな。 さて、どこへ行ったのか・・・それにしても、秘密の通路を、第一王女様が知っているはずないのだが・・・』
「・・いいえ、ご存じなのです・・」
『・・何ッ!?』 「リーク・・?」 「あぁ、リーク! 帰っ・・大丈夫?」
いつの間にかリークがドアの所に立っています。 酷く顔色が悪いのが分かります。
ズザッ!! リークはいきなり土下座すると、震えながら叫びます。
「申し訳ございません! モカは、第一王女様のスパイだったのです!」
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