そのまさか

ハートリオ

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19.奥様は混乱中

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どうしたらいいの・・・私、キヤギネさんに対して、かなり変・・・よね?


最初から、随分と失礼な物言いをしてしまっているし・・今思えば、“悪い子ね”とか“おバカさんね”とか初対面で年上のイケメンに言っていいセリフじゃなかったわ・・でもスッと自然に出ちゃったのよ・・キヤギネさんも一瞬もムッとせずにスッと自然に聞いてた気がするの・・・

それに・・・キヤギネさんに対して謎の独占欲があるみたい・・・何か、彼は私のものって・・・そんなワケないのに! なのに抑えられない・・いけない、と思いながらも、気持ちを抑え込めない・・・

私の前世の記憶はかなり曖昧だし、キヤギネさんには前世の記憶は無いようだから、キヤギネさんが前世の私にとっての“大切な彼”だったのか、確認のしようもない・・・第一、もしそうだとして、前世は前世、今世では今世の別な人生なのだから、変に馴れ馴れしくするのも、独占欲を持つのも、違うわよね・・・
頭では分かっているのよ、分かっているのに・・・

こ・・こんな風にキヤギネさんの事を考えるだけで・・・
ベナは羞恥に赤くなります。
どんどん強くなる欲望・・・性衝動・・・正直すぎる体の反応に驚き、戸惑い、狼狽えているのです。

あぁ、ダメよ! 絶対に気付かれてはダメ! こんなにイヤラシイ子だとキヤギネさんに知られてしまったら、嫌われてしまう!
きっともう異常な女と思われてる・・厄介だと、迷惑だと・・嫌、泣きたい・・・

何の自覚も無しにバルコニーからキヤギネさんの姿を探し、追った日々・・憧れだったのだと・・今、憧れ以上になってしまっている事を突き付けられて・・それなのに、そのキヤギネさんの側に居続ける為には、夫と円満にならなければならない・・

自分ではどう処理したらいいのか分からない複雑な思いのまま目を上げると、キヤギネさんは、ヤカフ様をベッドに寝かせ、テキパキと両手を拘束し終えたところ・・・はあぁ・・・仕事が早くて正確だわ・・ステキ・・!!


「はっ、あ、待って! 足までは拘束しなくていいわ! 手だけで充分、逃げられないだろうし、あんまり動けない様では可哀そうよ! ・・あ、手も・・もうちょっと緩めてあげた方が・・これでは手首が痛いのではなくて?」


「大丈夫ですよ! 繊細そうなお顔立ちですが、中身はガサツなヤローで・・グフッ」


「キヤギネさん? どうしたの?」


「あ、いえ、ちょっと蹴りが・・・いえ、」


何故かキヤギネさんがヤカフ様から距離をとったわ・・・あ、そうね、ココからは、全て私がやらなきゃいけないものね・・!


「ありがとう、キヤギネさん・・上手くいく気が全然しないけど、私、頑張るわね・・! 今までの3年間を思えば、いつ離縁されても仕方のない私だけど、実際に離縁されるまでは、悪あがきでも何でも頑張ってみようと思うの・・・・・側に・・“奥様の部屋”に居続ける為に・・・」


「きっと大丈夫ですよ、奥様。 心配ぜずに、全て旦那様にお任せになれば・・・あ、でも・・“俺はアレに対して、そういう興味は一切ない。”と仰ってましたっけ・・」

ビュンッ!


「あら、何かしら? 今、空気が動いたようだけど・・?」


「・・ハハ、まるで誰かが蹴りを入れようとしたけど目的物が遠かった為空振りしたかのようですな・・(全く・・殺す気ですか? それに、何故怒るんです? 旦那様が実際に仰った事ではないですか・・)」


・・・私に対して、そういう興味は一切ない・・・かぁ・・もう、完全な負け戦ね・・だけど・・私、諦めるわけにはいかない・・・だって・・

チラリとキヤギネさんを盗み見・・はっ・・! ドキッ!! 目、目が合っ・・


「では、奥様、私は下がります。 (大声で)旦那様がそろそろお目覚めになる頃合いでございますからなぁっ!」


そう言って、優しく笑って(キュンッ)、キヤギネさんは部屋から出て行ってしまったわ・・え~~~、キヤギネさぁん、一緒に居てぇっ! でも、ダメよね、キヤギネさんに一緒に色仕掛けしてもらうワケにはいかないもの・・・はっ・・!


『う、うぅ~~ん、あれ? 俺は転寝をしてしまっていたようだなあっ! ここは、寝室のベッドのようだなあっ! あれ? 手が動かせないぞ? これは、一体、どういう事なのだろうなあっ・・』


あぁ、ヤカフ様が目覚めましたわ! 驚きのあまり、口から出る言葉がまるで超棒読みの様になってしまっていますわ!


『・・おや? そこにいるのは、ベナではないか! そこで一体、何をしているのかな? まさか・・?』


「・・はっ・・! え、ええ、そうですとも! そのまさかですとも!!」


『・・・・・・』

「・・・・・・」


『・・ベナ、まさか・・(ここから先、ノープランか!?)』


はっ・・! ヤカフ様の顔が、不安と恐怖に染まります・・え・・、えと・・・


「・・そっ、そうよ、そのまさかですわ・・!(どうしましょう、ここまで持ってくるのに必死で、色仕掛けの方法とか一切考えてませんわ! ていうか、リーク・・帰ってるのかしら? 情報は集められたかしら? もしそうでも、今からレクチャーしてもらうワケにはいかない・・あ―ッ、もう! そもそも“色仕掛け”って言葉が曖昧に過ぎますわ! いざとなったら何をどうすればいいのか、具体的なヒントが何も無いのですもの! あぁ、足開いて寝てただけの前世の記憶は本当、役に立ちませんわ! 殿方をその気にさせる方法なんて、前世 + 今世16年間、合わせても、鼻血も出ませんわ!!)」


あっ・・くっ、ヒリヒリ致します・・寝室の空気が乾いていくのを感じますわ・・


ベッドに体を拘束され動けない夫・・・
何をどうしたらいいか分からず動けない妻・・・


今、この空間は、夫婦の寝室とは思えない緊張感で満たされているのですわ・・
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