そのまさか

ハートリオ

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11.奥様に頭部強打疑惑発生中

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「・・まぁっ! 旦那様は、私をお見舞い下さりたいと・・・! 何と寛容なお方なんでしょう!」


旦那様からの手紙をやっとご覧になった奥様は、感動した御様子です。
両手をグーにして大鏡の前に立ち、鏡の中のご自分を打つかのように鏡に向かって何度か左右交互に正拳を繰り出すと、ふぅーーーっと何かを吹っ切る様に大きく息を吐き、キッと私の方へ向き直ると、


「私は、これ程に寛容な旦那様に報いる為、なりふり構わず努力する所存ですわ!
ねぇ、執事・・・という事は、旦那様の事、よく知っているのよね? だったら、お願い! 色々と相談に乗ってほしいのよ!」


こちらへ勤め始めてから5年ほど・・旦那様とそれ程親しく話をしたことはございません。 

「よく知っている、という程では・・・」 答える私に、奥様が言葉を被せます。

「早速だけど、旦那様は、睡眠薬にアレルギーなんかないかしら? 少しなら盛っても大丈夫かしら?」


・・・とんでもない相談でございます。 私の立場を分かって仰っているのか・・私は伯爵家の忠実なる執事・・・突然何処かから連れて来られた引き籠り幼な妻にそんな相談を持ち掛けられて、旦那様に報告しないワケがない・・・とは思わないのでしょうか? それともこれは何かの罠なのでしょうか・・・


「・・それは、旦那様に睡眠薬を盛ろうとしているが、アレルギーなどの心配は無いかを確認している――という認識で間違いないのでしょうか??」


「ええ、そうですわ! だって、もし薬が体に合わなかったらお可哀想でしょう?」

・・・妻に突然睡眠薬を盛られるだけで十分お可哀想でございます・・!

私は忠実なる執事として、直ちに奥様の身柄を拘束し、旦那様に奥様の謎の企みを報告せねばなりません。

ですが不思議な事に、私は何かこの少女に親しみ・・・というか、何か、言葉では説明し難い何かを感じており、きっと何か理由があるのだ、この少女の真意を確かめるべきなのではと思い悩みます。

私の心の葛藤に気付かぬ様子のベナ様は、夢中で言葉を継いで来ます。


「今夜の旦那様のお食事に、少しだけ睡眠薬を盛って欲しいのですわ・・食後、ほんの短い間転寝うたたねしてしまうくらいの、少量。」


「奥様、なぜ、そのような事を?」(やはり、頭を強打・・)


「わ・・私は・・その・・ヤカフ様を逃げられない様に拘束した上で、ヤカフ様に色・・ン、コホン、色仕掛けを仕掛けたいのですわ!」


・・決定です。 奥様にお医者様を!
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