そのまさか

ハートリオ

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7.主人と執事の攻防その1

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俺はフザケたノックが聞こえた執務室のドアを睨みつけ、言い放つ。


『・・キヤギネか・・。 何度も言わせるな。 俺は別に、ベナが目覚めたと聞いて戻ってきたわけではない! ちょっとした用事があったのだ!』


キィ~・・・  やはり。
静かにドアが少しだけ開き、優秀で忠実(?)な執事、キヤギネが半分ほど顔をのぞかせる。 目も半目になっている。 ・・・どーゆー表情だっ!?


執務室のドアから顔を半分だけのぞかせたまま、キヤギネが提案して来る。


「・・・はぁ、では、ちょっとした幼児・・いえ、用事のついでに、奥様に声を掛けられては? 旦那様がお戻りになった事は、リークを通してご存じのはずですからなぁ・・・お待ちなのではないでしょうか・・・」


何ッか気に障る! 顔半分だけのぞかせてるのが気に障る! 半目なのが気に障る! 10分間隔でしつこくベナに会えと要求して来るのが気に障る!!!


『“命の恩人”に礼を言いたいなら、それこそお前が聞いてやればいいだろう!』


「私の優秀な妹が、“命の恩人”は旦那様だとお伝え済みでございます。(ニコニコ) ささ、妻の話を聞くのも、夫の大切な務めでございますぞ。」


『・・知っているだろう! アレは、俺を嫌っているのだ・・連れてきた当時、何度か話し掛けたが、完全無視された・・今回だって、15才最後の日に出て行こうとしたのは、16才になったら、大人として扱われ、俺に求められるかもしれないからだろう。 俺に触れられたくないからだろう。 そもそも、俺は彼女の同意も得ずに勝手に妻としてしまった・・そんな俺を夫だなんて、認められないんだろう・・』


「おやおや、“ガラスの少年時代”返りでございますか? 繊細な美少年時代に戻っても、何もいい事はありませんぞ?」


『・・う、うるさい! お前、俺をからかって遊んでいるだろう!? 俺は、塩対応されるのが分かっているのに、アレに会うつもりなんか・・』


ドアから半身をのぞかせていたキヤギネが、不意に室内に入り、俺の机の前まで来ると、俺の眼を見据えながら静かに言う。

「会っておあげなさい・・・あまり女性を待たせるものではありません。」

今までのどこかふざけた声音よりずっと低い、重厚で威厳のある声。 キヤギネの地声、ムカつくほどのイケボだ。


『・・・!!!』
 出た! イケメン! 男前発言! この男は、いつもはヒラヒラしてるのに、突然こういうイケメンを発動する厄介な男なんだ・・・そりゃモテるわな・・俺も女なら惚れてただろう(くそッ)・・すましたイケメン面しやがって・・・あぁもう!


『と、とにかく、まずは手紙を書く! で、ベナが本当に俺に会いたいなら、日時を決めるとしよう!』

俺はその場でサッと手紙をしたため、キヤギネに渡す。


『まずは、その手紙をベナに渡してくれ。 どうだ、これでいいだろう?』


「・・・あーーー、・・・ですか・・・。」


・・なっ、何だ、その反応は!? おまっ、お前、顔に“ヘタレですか・・”って書いてあるぞ!! 失礼だろうが! 俺は年下とはいえお前の主人なんだぞ!?


「ちなみにコレ、私がお届けするので? この3年間、奥様の部屋には、たとえ私であっても子供であっても小動物であっても男は一切近づけない様にしてきたのに・・」


『いいんだ! メイドに託して中を見られたらどうする!? お前にしか頼めないだろう!?』

ちょ・・ 見るな! 俺を可哀想な子を見る目で見るな! サッサと行け!

ん? 何か変だな? 何か、俺が頼み込んで手紙を届けてもらおうとしているていになってないか? 俺は、キヤギネがあんまり煩いから、仕方なく、キヤギネを黙らせるために、ベナに手紙を書いたのだ! べ、別に、無理に届けてもらわなくても・・


「すぐにお届け致します。 では。」
カッカッカッカッ・カチャッ・キィッ、パタン、カッカッカッカッ・・・




キ、キヤギネ! 何て頼りになる男だっっ!!
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