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キール
12 ステラが引き籠っていたあの一ヶ月に
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その日は朝から空が黄色に霞んで見えた。
ザワザワと落ち着かないキールの許へソールとステムが訪ねて来た。
ミッドシップ王国で不穏な動きが加速しているとの報せを持って。
その同じ日、ステラが婚約を解消され、スタード公爵邸を出て行く事となった。
『私とずっと一緒に居て欲しい』と言ってくれたステラに、キールはかねてより用意させていた安全な場所で待つ様に伝えてミッドシップ王国に向かった。
旅の途中でキールの呪いが解け、ミッドシップ王国ではキールの異父兄である第一王子が18才の成人を迎えた。
ミッドシップ王国では、成人を迎えた王族は王位を継ぐ資格を得たとみなされる。
第一王子はキールが行方不明となりずっと棚上げされていた王太子の座を国王に要求したが。
王は行方不明になって6年のキールをいまだに諦めておらず、どんなに正妃や第一王子が望んでも第一王子を王太子に据える事に難色を示し続けて来た。
『第一王子はきっと自分の胤ではないイヤ絶対』というのも大きな理由だろう。
第一王子は意思を曲げない王を拘束、牢に繋ぎ、新国王となる事を宣言した。
勿論、影で糸を引いていたのは正妃だが、実は正妃は6年ほど前、キールが呪いの一部を解いて言葉を取り戻したのと同時に言葉を失った。
キールが弾いた呪いが呪った側の正妃に返ったのだ。
期間を決められた呪いは期間を満たさず解かれれば呪った側に返る。
同様に少なかった魔力(キールが魔力を取り戻した分には遠く及ばなかったが)も全て失うと、起きているのが辛いほど体調不良となった。
魔力を持つ者は生命維持に自然に魔力を使う為、魔力を失えば生命維持に不都合が生じるのだ。
呪いを掛けた実行役の呪術師が存命なら何らかの対処をしてもらえただろうが、正妃自ら殺してしまった為、救済措置は無く、正妃はただ生きているだけで辛い体となった。
それでも生き続けたのは、愛する弟の忘れ形見である第一王子にどうしてもミッドシップ王国を獲らせる為だった。
6年間で容姿も体調も老婆の様に衰えた正妃。
呪いの期間は満ちた。
キールに弾かれ自分に返って来ていた呪いも消えたはず。
なのに言葉はカタコトしか話せず、体調不良も改善しない。
一度衰えてしまった体は戻った魔力を受け付けない様だ。
言葉も、強い意志と少しの努力で元に戻るはずなのだが。
生まれた時から努力など無縁だった正妃には逆立ちしても ”少しの努力 ”など出来ないらしい。
失ったものを失ったままに、第一王子をたきつけ、事を起こさせたのだ。
第一王子は新王就任後の最初の仕事として、前王の公開処刑を行うと決めた。
王宮広場に処刑用のステージを作り、前王が引っ立てられて来るのを待つ第一王子。
だが、前王は現れず、逆に第一王子一派は取り押さえられる事となる。
強大な魔力を持つ第二王子が帰還したのだ。
実は、呪いによって行方不明となっていた第二王子は、もし見つかっても、もう王子としての価値を失っているだろうと囁かれていた。
長期(1年以上)に呪いを掛けられた者は、呪いが解けても完全に元通りとはならないからだ。
普通は。
今までは。
だが、キールは元通りどころか――
まず、呪いで獣に変えられた者はその精神までも獣化してしまうと言われているが、人間の超絶美少女と友達になったせいか、キールの精神は一切獣化しなかった。
そして魔力。
父王の魔力を受け継ぎ元々強い魔力を持っていたが帰還時の魔力は次元が違った。
この変化にも超絶美少女ステラが関わっている。
ステラが一時死んでしまった事件は、キールの精神を大きく変えた。
と同時に、キールの魔力量も爆発的に増えたのだ。
ステラを助けたいという強い想いが魔力に変化をもたらしたのだと思われる。
精神面も魔力も格段に進化し別次元の強さを手にしたキール。
完全に呪いが解けたその姿は、長い白銀髪を風に靡かせ、神聖な光を放つロイヤルパープルの瞳を持つ神々しいまでの美丈夫。
美形揃いの歴代王家でも、ここまで美しく威風堂々といった有難い姿を持つ者はそうそういない。
今では外国でも神格化されて信者が世界中にいるミッドシップ王国を興した最初の王と同等――いや、それ以上かもしれない。
宮廷魔導騎士を中心に武装した第一王子一派は王都を完全に掌握しはずだったが。
キールは先ず牢に繋がれた父王を救い出し、その後第一王子一派の武力を一瞬で、たった一人で無力化した。
魔力にしろ肉体的な力にしろ無力化するには高魔力で高度魔法を掛ける必要があるのだが、キールはさらにそれを広範囲――王都中に掛けた。
父と同じ魔力量のままだったらとても出来ない芸当だが、今のキールにとっては眉一つ動かす事も無くサクッと出来てしまう、『何でもない事』だった。
魔力を持つ種族とは言え、普通の戦術、戦いを想定していた双方はたった一人が一瞬で闘いを決してしまった事に揃って呆然とした。
皆がまだ呆然としている中。
キールはすぐにでもステラに会いに戻りたかったのだが。
事後処理のゴタゴタに巻き込まれ、何だかんだで王立高等学校卒業パーティーの日までステラに会いに行けなかったのだった。
ちなみに、捕まった第一王子は当然処刑を言い渡されたが、最後の願いとして母に面会し、隠し持っていた小刀で母を殺した後自害した。
彼は母に小刀を突き刺す際、
【僕にとってはキールもアンタも父親も、自分さえも完全に無価値だ!】
――そう絶叫したという。
溺愛されていたはずの第一王子にとっても、元正妃は毒親でしかなかった様だ――
ザワザワと落ち着かないキールの許へソールとステムが訪ねて来た。
ミッドシップ王国で不穏な動きが加速しているとの報せを持って。
その同じ日、ステラが婚約を解消され、スタード公爵邸を出て行く事となった。
『私とずっと一緒に居て欲しい』と言ってくれたステラに、キールはかねてより用意させていた安全な場所で待つ様に伝えてミッドシップ王国に向かった。
旅の途中でキールの呪いが解け、ミッドシップ王国ではキールの異父兄である第一王子が18才の成人を迎えた。
ミッドシップ王国では、成人を迎えた王族は王位を継ぐ資格を得たとみなされる。
第一王子はキールが行方不明となりずっと棚上げされていた王太子の座を国王に要求したが。
王は行方不明になって6年のキールをいまだに諦めておらず、どんなに正妃や第一王子が望んでも第一王子を王太子に据える事に難色を示し続けて来た。
『第一王子はきっと自分の胤ではないイヤ絶対』というのも大きな理由だろう。
第一王子は意思を曲げない王を拘束、牢に繋ぎ、新国王となる事を宣言した。
勿論、影で糸を引いていたのは正妃だが、実は正妃は6年ほど前、キールが呪いの一部を解いて言葉を取り戻したのと同時に言葉を失った。
キールが弾いた呪いが呪った側の正妃に返ったのだ。
期間を決められた呪いは期間を満たさず解かれれば呪った側に返る。
同様に少なかった魔力(キールが魔力を取り戻した分には遠く及ばなかったが)も全て失うと、起きているのが辛いほど体調不良となった。
魔力を持つ者は生命維持に自然に魔力を使う為、魔力を失えば生命維持に不都合が生じるのだ。
呪いを掛けた実行役の呪術師が存命なら何らかの対処をしてもらえただろうが、正妃自ら殺してしまった為、救済措置は無く、正妃はただ生きているだけで辛い体となった。
それでも生き続けたのは、愛する弟の忘れ形見である第一王子にどうしてもミッドシップ王国を獲らせる為だった。
6年間で容姿も体調も老婆の様に衰えた正妃。
呪いの期間は満ちた。
キールに弾かれ自分に返って来ていた呪いも消えたはず。
なのに言葉はカタコトしか話せず、体調不良も改善しない。
一度衰えてしまった体は戻った魔力を受け付けない様だ。
言葉も、強い意志と少しの努力で元に戻るはずなのだが。
生まれた時から努力など無縁だった正妃には逆立ちしても ”少しの努力 ”など出来ないらしい。
失ったものを失ったままに、第一王子をたきつけ、事を起こさせたのだ。
第一王子は新王就任後の最初の仕事として、前王の公開処刑を行うと決めた。
王宮広場に処刑用のステージを作り、前王が引っ立てられて来るのを待つ第一王子。
だが、前王は現れず、逆に第一王子一派は取り押さえられる事となる。
強大な魔力を持つ第二王子が帰還したのだ。
実は、呪いによって行方不明となっていた第二王子は、もし見つかっても、もう王子としての価値を失っているだろうと囁かれていた。
長期(1年以上)に呪いを掛けられた者は、呪いが解けても完全に元通りとはならないからだ。
普通は。
今までは。
だが、キールは元通りどころか――
まず、呪いで獣に変えられた者はその精神までも獣化してしまうと言われているが、人間の超絶美少女と友達になったせいか、キールの精神は一切獣化しなかった。
そして魔力。
父王の魔力を受け継ぎ元々強い魔力を持っていたが帰還時の魔力は次元が違った。
この変化にも超絶美少女ステラが関わっている。
ステラが一時死んでしまった事件は、キールの精神を大きく変えた。
と同時に、キールの魔力量も爆発的に増えたのだ。
ステラを助けたいという強い想いが魔力に変化をもたらしたのだと思われる。
精神面も魔力も格段に進化し別次元の強さを手にしたキール。
完全に呪いが解けたその姿は、長い白銀髪を風に靡かせ、神聖な光を放つロイヤルパープルの瞳を持つ神々しいまでの美丈夫。
美形揃いの歴代王家でも、ここまで美しく威風堂々といった有難い姿を持つ者はそうそういない。
今では外国でも神格化されて信者が世界中にいるミッドシップ王国を興した最初の王と同等――いや、それ以上かもしれない。
宮廷魔導騎士を中心に武装した第一王子一派は王都を完全に掌握しはずだったが。
キールは先ず牢に繋がれた父王を救い出し、その後第一王子一派の武力を一瞬で、たった一人で無力化した。
魔力にしろ肉体的な力にしろ無力化するには高魔力で高度魔法を掛ける必要があるのだが、キールはさらにそれを広範囲――王都中に掛けた。
父と同じ魔力量のままだったらとても出来ない芸当だが、今のキールにとっては眉一つ動かす事も無くサクッと出来てしまう、『何でもない事』だった。
魔力を持つ種族とは言え、普通の戦術、戦いを想定していた双方はたった一人が一瞬で闘いを決してしまった事に揃って呆然とした。
皆がまだ呆然としている中。
キールはすぐにでもステラに会いに戻りたかったのだが。
事後処理のゴタゴタに巻き込まれ、何だかんだで王立高等学校卒業パーティーの日までステラに会いに行けなかったのだった。
ちなみに、捕まった第一王子は当然処刑を言い渡されたが、最後の願いとして母に面会し、隠し持っていた小刀で母を殺した後自害した。
彼は母に小刀を突き刺す際、
【僕にとってはキールもアンタも父親も、自分さえも完全に無価値だ!】
――そう絶叫したという。
溺愛されていたはずの第一王子にとっても、元正妃は毒親でしかなかった様だ――
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