絶望？いえいえ、余裕です！ 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

第三章

35 真剣な顔の男

「あ‥‥あの、
ドレス‥‥」



『まだ脱ぎたくない』とステラが続ける前に、キールが答える。



「あぁ、とても似合っている。
すごく、綺麗だ」

「‥‥えッ！？
あ有難う！
嬉し‥‥はッ！
そう言えば、まだお礼を言ってなかった！
ステキなドレスをありがとうございます！」

「うん‥‥想像以上に美しくて驚いた‥‥
危険レベルだよ？
誰の目にも触れさせず閉じ込めてしまいたいほどに」

「えぇ？」

（はッ！
さっきと同じ目！
卒業パーティー会場で私に向かって歩いて来た時、笑顔なのに目が恐かった‥‥
あの時と同じ目をしている！？）



危険な色を帯びるキールの瞳に、ステラはブルりと震える。

キールはハッとして、美しい紫の瞳からサッと危険な色を消す。



「ごめん‥‥
大切な君を恐がらせるなんて。
勿論、閉じ込めたりしない我慢する。
絶対、君を苦しめたりしないと誓う！
‥‥あぁ、君は本当に可愛いね。
そんな目をするから、俺は自分を抑えられなくなる」

「‥‥え？
『そんな目』ってどん
ンンッ‥‥」



どんな目をしたらいけないのか聞こうとすれば唇で唇を塞がれる。

今度は、優しいキス

――と思っていたら

やはりどんどん激しくなって――

ステラが気絶しそうな刹那、キールはチュッと名残惜しそうに唇を離すと、仕事をしているのかと思うくらい真剣な顔でステラのドレスを脱がしにかかる。



「‥‥はッ！‥‥あ、
せっかくの、キール様とお揃いの素敵なドレス、まだ脱ぎたくない！」



必死に気持ちを伝えるものの、キールは一向に手を止めようとしない。


（どうして？
キール様の衣装と対だと示す種類の違う高級生地でデザインされ構成され、美しいグラデーションで白から紫へと色が変化するドレスには紫糸で芸術的な刺繍が施され至る所に配されたロイヤルパープルのレースががアクセントになっていて。
キール様の色で作られた素敵なドレス、ずっと着ていたいくらいなのに‥‥）


自分の声が聞こえていないのか、

聞こえているのに無視するのか、不安に戸惑うステラに、キールが仕事上の質問をしているのかと思うくらい真剣な声で問い掛ける。



「ステラ、女性がドレスで着飾るのは、美しさのためだろう？」

「えッ？
‥‥あぁ、うん。
着飾って、綺麗になりたいと思う。
す、好きな人（チラッ、ジィッ）の為に」

「‥‥ッッ」



ステラから『好きな人』というのと同時にチラッと手から顔に視線を移され、さらにジィッと見詰められて意識が遠のくキールだが、何とか言葉を続ける。



「そ、そう。
だったら、ステラ。
君は素肌が一番美しい」

「‥‥えッ！？」

「何も着けていない姿が、一番綺麗だよ」

「！！！」



仕事をしているのかと思うくらい真剣な顔でそんな事を言うキール。

ステラは少し恐くなる。



「‥‥よしッ！」



キールが小さく叫ぶ。

と同時に、ドレスの上半身のボタンが全て外れて。



「‥‥ハゥッ‥‥」



ステラの豊満な胸が弾ける様に解放され、急に呼吸が楽になったステラが小さく声を上げる。


（す、凄い！
侍女2人が布を押さえ、残りの侍女が3人がかりで止めていたボタンを一人で外すなんて‥‥
‥‥あッ、ちょッ）


手こずっていた上半身のボタンをクリアした後は、物凄い速さでステラを全裸にしてしまうキール。

勿論、仕事をしているのかと思うくらい真剣な顔で。

そして、羞恥で涙目のステラの前で自分も物凄い速さで衣装を脱ぎ捨てる。


（‥‥はッ！！
何てゴージャスなボディ！
輝きを放つ美しい肌！
見事過ぎる筋肉ッ！
凄まじい色香ッッ！
何も着けていない方が逞しいって、どういう事！？）


自分の裸体を隠そうと、ベッドの上でシーツに簀巻きになり小さくなっていたステラは思わずガバと半身を起こして美しい男の裸体に見惚れてしまう。

服を脱ぎ終わったキールがステラが体に巻き付けたシーツを引っ張ると、ステラは広いベッドの上をゴロゴロ転がる事となり、『なッ！？』と焦るキールが『ひッ！？』と焦るステラを捕まえ、ベッドから転がり落ちるのを回避する。



ベッドの上。

お互いに全裸で。

荒い呼吸と。

潤む瞳。

眩しい人。

愛しい人。

愛しい人！



「あぁ、キール様、
お願いッ‥‥」




堪らずステラは掠れた声で訴える。