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第三章

14 惜しい男

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卒業式場へ向けて必死に走っていくステラ。

背後の事には気付かず、あっという間に廊下の先に消えて行く。

ステラを追い掛けたいカロンであったが‥‥


カロンに剣を向けるステラの侍女2名。

その構えを見ただけで、二人が相当の手練れだと分かる。

ただの侍女ではない!



「君達は何者だ?
何故、ステラ嬢に付いている?
‥‥誰に雇われている?」

「「ステラ様の事はお諦め下さいませ!」」

「‥‥『白クマさん』とやらの命でステラ嬢の侍女を?
『白クマさん』とは何者だ?
ステラ嬢の新たな婚約者というワケではないだろう?
私が見掛けた時は完全に白熊だった。
白熊では人間と結婚出来ない」

「あれは呪いのせい。
その呪いももう解けているはずですわ!」

【呪い、解けたの?】

【ちょ、今言わないで、ここは合わせてよ!
『呪いは解けました』体で頼むわよ!】

【あなたこそ、本人の前で『本当は未確認』てバラしてるけど?】

【大丈夫よ!
ミッドシップ王国語を分かるティスリー人なんていないわよ】

【外国人だとは思っていたが‥‥
ミッドシップ王国人だったか。
『白クマさん』はミッドシップ王国の高位貴族か?】

【【‥‥!?
あなた、ミッドシップ王国語が話せるの!?】】

「呪いが解けたとして、私がステラ嬢に恋する邪魔をする権利など無いはずだ。
放っておいてもらおう。
――退け。
退かぬなら女性であろうと容赦しない」



そう言ってカロンは帯剣している剣の柄に手を置く。


グッッッ!!


カロンの流れる様な所作の美しさに思わずハートを掴まれる侍女2名。


実に、カッコイイ!
女子的に大好物ッ!
罪よ罪罪罪過ぎる!


侍女2名がそう心の中で絶叫し、思わず頬を真っ赤に染めてしまった時、何とも気の抜けた声が背後から聞こえて来る。



「あれ、カロン?
何やってるんだ?
女性相手に‥‥
まぁいいや。
後でスタード公爵邸に寄ってくれ。
仕事で聞きたい事が山ほどある。
特に領民を落ち着かせる方法、それと再雇用の話も。
とにかく私は今忙しいから、後で、必ず来てくれ。
じゃあなカロン、失礼、レディ達」

「ディング様‥‥
いや、公爵令息!
何故ここに!?
あなたはもうステラ嬢とは何の関係も無いんです!
彼女に近付かないで頂きたい!」

「不敬だぞ、カロン。
誰に向かって口をきいている?
私はステラの元婚約者だ。
何の関係も無いとは何事だ!?」

「ステラ嬢の晴れの卒業の日に、元婚約者など最も目にしたくない存在です!
公爵令息!
お待ちを!
あぁもう、相変わらず、人の話を聞きもしない‥‥」

「‥‥あの御方がステラ様の元婚約者なのですか!?」

「よ、よくもまぁこの場に‥‥!」



言うだけ言って軽い足取りで会場に向かうディングを見ながら、侍女2名も呆れた声を出す。



「彼はスタード公爵令息。
ステラ嬢の『不誠実極まりない元婚約者』だ。
常識の無い男にステラ嬢を傷つけられたくない。
あの男を止めなければならない。
穏便に退いてくれないか?」

「私達はステラ様の許へ駆けつけますので、自動的に穏便に退きますわ。
ですが、ステラ様に近付く男は全て排除致します。
あなた様もステラ様にお近づきにならない様にご忠告申し上げますわ!」

「『白クマさん』の指示?」

「主の為に。
ですが、あくまで自主的に、ですわ!」



そう言い置いて侍女2名は猛スピードで会場へと向かう。



【‥‥惜しいわ。
排除対象でなければ絶対逆ナンするのに】

【難し過ぎて他国民には習得不可能と言われるミッドシップ王国語を話せるなんて、相当優秀よね】

【ステラ様を諦めて下さらないかしら。
そうすれば国に連れて帰れるのに‥‥】

【あの様子じゃムリでしょうね】



自分達の後をやはり追いかけて来る黒目黒髪の超絶美丈夫をチラリと見ながら、侍女2名は残念そうに声を揃える。



【【‥‥惜しいわ】】
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