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第二章

18 ディングの母

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私――ディングは記憶から抹消したはずの女――母親の事を思い出す。


大変美しい女だった。

容姿だけは。

内面は自分しか愛せない、貧しい心の我が儘な女だった。


幼い頃の私には、母の機嫌が人生の最重要事項だった。

機嫌が良ければキス責めにして来たり、

機嫌が悪ければ暴言を吐きながら殴り続けて来た。

暴言の内容から、父が愛人のもとを訪れているのだと分かった。

母は嫉妬からではなく、プライドを傷つけられた事に怒っていた。

『隣国の第五王女であるこの私を蔑ろにするなどあーだこーだ』

貧しい小国の第五王女って‥‥

子供だった私から見ても残念な感じなのに、母にとっては自慢だった。

そして一番の自慢は容姿だった。

私を見ずに鏡ばかり見ていた母。

私は一人でいる時は、そんな母を否定し憎んでいた。

それなのに母の前に出れば必死になって媚びへつらわずにいられなかった。

決して私を愛する事の無い母の愛を求めずにいられない自分。

幼いながらも己の惨めさと不毛さに苦しみ抜いた日々だった。

父の愛人が平民だと知った母が憤死した時は、正直ホッとした‥‥


母への複雑な思慕と憎しみ。

それは美しい女性への執着と、揺るぎない考えを育てた。

『美しい女性は内面が酷いが、生まれつきではない、はず。

チヤホヤされるうちに真っさらだった魂は傲慢に歪み腐るのだろう。

だからまだ汚れていない幼いうちに囲って、自ら育てなければならない』と。


美しいが気位が異常に高かった母に疲れ果てていた父は私の考えに賛同してくれた。

それで6才のステラとの婚約も、10才になったステラをスタード公爵邸別邸に囲う事も叶ったのだ。



「化物‥‥化物令嬢?
ステラ‥‥
何故私はステラへの執着が突然消えたのだった?
たった10才でわざわざ呼び寄せたのだ、
きっと相当の美少女だったのだろうが‥‥
私は化物になったステラしか思い描けない。
何故、美しかった頃のステラを思い出せないのだろう‥‥?」

「‥‥日記読め!」

「‥‥へ?」



空耳かな。

今、カロンに何か命令された様な‥‥
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