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第一章

22 早く!

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森の奥深く。

崖の上から蹴り落としたステラの首が有り得ない方向を向いているのを確認して、クレアは喜びに打ち震える。

これでディング様は自分のものになるはず!

根拠のない自信がクレアを幸福の絶頂へ引き上げる。

狂った様に笑い出すクレア。

狂気の大声に、誰かに気付かれるのではと恐れたメイドが、ソソクサとクレアを連れて森を出る。

メイド達も気持ちは同じ。

むしろ、ハッキリ言ってクレアより自分達の方が可能性がある。

平民出身のクレアと違い、自分達は伯爵令嬢。

ディング様の相手として相応しいのは自分達‥‥

第一、クレアはディング様に嫌われているしね―――






白クマは森の異変に無表情な顔をしかめた。

オゾマシイ笑い声がした方向へ確認に行き―――



「‥‥ッッ!?」



崖の下に何かが――

妙な髪形をしたステラが倒れているのを発見する。


慌てて崖を滑り降り何とかステラのもとへ辿り着くとその惨状に絶句する。

頭が有り得ない方向に

折れてしまっている?


ブワリと総毛立つ。

目に映っているものが信じられない。


嘘だ嘘だ嘘だ!


壊れた人形の様に横たわる体を抱き上げようとしてその頭部に愕然とする。

美しいシグナルレッドではなく濃グレーでカチカチに固まった髪が地面に深く突き刺さっており、無理に動かそうとすれば首が完全にもげてしまいそうだ。

細い首は完全に折れており、心臓も‥‥呼吸も止まって‥いる。


嫌だ嫌だ嫌だ!



《‥‥て‥》

「ガウッ!
ガウガウッ!
ガウ‥‥ハッ!」

《逃‥げ‥て‥
出‥るだ‥け‥
‥くへ‥‥》



膝をついた白クマの前に横たわるステラの体。

その体から抜け出てしまっている魂が必死に白クマに訴えている。



《‥‥逃げて!
出来るだけ私から離れて!
魔力の封印が‥‥
壊れてしまったの!》

「‥‥だガウッ!
ガウガウガウッ!んだ
ガ戻ウるんガウだ!
ガ体へ戻るんだ!」

《早く逃げてッ!
私の解き放たれた魔力が暴走を始める前に!
白クマさんを巻き込む前に!
お願い、逃げて!
白クマさんッ!》

「‥体へ戻れ!
今ならまだ生き返れる!
早く!」


《逃げて!》

「戻れ!」


《「早く!!》」
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