Man under the moon

ハートリオ

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45.ユニの決意

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「カンデラ君、どうした? 大丈夫か?」


と聞くと、カンデラ君はやっと顔を上げて、まだ震える声で話しだす。


「ぼ、僕はあの瞬間、人生が変わったんです。 僕はそれまで、皆にバカにされてきました。 字が読めなくて、体も弱いし、家では家族の厄介者で、外ではからかいの対象でした。 そう言ったらユニさんは『そうか・・辛かったね』って言って、僕を抱きしめてくれて、僕は大泣きしてしまったんです。 ユニさんは僕が泣き止むまでずっと抱きしめてくれてて、僕が落ち着いた時に、僕に字の読み方を教えてくれたんです。
インプットの際に書き換わってしまう信号の修正の仕方を。 それで、僕は急に全てのシステムが分かって、僕の脳の他人と違う部分とその合わせ方が・・それで、それで僕は研究者になれました。 ユニさんの研究を手伝えるようになれて、幸せで・・・自分の命が尽きるまでユニさんを手伝おうと決めていたのに・・」


――― 情けない事に俺は叔父やカンデラ君に嫉妬を覚えている。 2人は、俺よりもずっと長くユニと会い、話し、一緒の時間を過ごせている。

・・・特効薬開発から食事・生活習慣の改善まで・・ユニは俺の全てに寄り添ってくれていた・・・大きな愛を注いでくれていた・・それなのに・・


「・・ッ、何でユニは、俺には会ってくれなかったんだ・・こんなに・・近くに居たのに・・何で、俺にだけ・・・」


思わずそう漏らす俺の前にカンデラ君が膝をついて座る。 椅子に座っている俺を見上げ、静かな口調で言う。


「あなたは、本当はもう答えに辿り着いてしまっているのではないですか? ・・・あなたがそういう人だから、ユニさんは会えなかった。 凄く会いたかったはずなのに、我慢した。 凄い人です。 凄い愛です。」


「・・俺が悪かったという事か? 俺が・・ハッ!」


不意にカンデラ君が俺の腹に・・・ユニの命星が移植された場所に手をかざす。


「・・この為ですよ。 僕達は誰も気付けなかった・・でもモルさんなら、きっと気付いて絶対に阻止したでしょう。 それを避ける為に、ユニさんはモルさんと会えなかった。」


「・・カンデラ君・・言ってる意味が分からない・・」


「分かっているはずです。 だからあなたは、ずっと辛そうだ・・ 僕も辛いです・・! 自分より、ユニさんに生きていて欲しかったのに。 こんな事、望んでなかったのに・・! あと少し、時間があれば・・!
ユニさんと僕は、ずっと人工命星の研究をしていて、あと一歩だったんです。 あともう少し時間があれば、間に合ったはずなのに・・っ 僕が、もっと頑張れれば・・僕が、もっと役に立てていれば・・・」


「言ってる・・意味が・・」――― いや、そうだ、俺はとうに気付いている・・・
列車の中でピコさんの手紙を読んだ瞬間から、気付いていた・・信じたくなくて、気付かないふりをしていた・・・


「・・ユニは最初から・・君の病気を知った瞬間から決めていたんだ。 君を救うと。 とりあえず延命できる特効薬を開発して時間を作り、次に複数の命星を同時に移植する方法を開発し、その後は人工命星の研究に没頭した。 延命特効薬と違い、人工命星の開発は困難を極めた。 だがあと少し・・という所までこぎつけていたんだ。 だが・・」


だが・・・俺が最後となるであろう大きな発作を起こした・・・


「私も気付かなかった・・・ユニの動向には気を配っていたつもりだった。 だがユニは私の目が届かない所で着実に準備していた。
研究に没頭する ――― その一方で研究が間に合わず、君に何かあった時に移植手術を行える環境を整え、執刀医を準備し・・・何もかも、この私の目を欺き完璧に整えていた・・・そう・・最初から決めていたんだ・・・」


叔父は一呼吸ついて、俺が一番聞きたくなかった事を口にする・・・


「君に、自分の命星を差し出そうと。」
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