Man under the moon

ハートリオ

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29.分かった・・・

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「姉貴は恐れたんだよ、モルさんを。 モルさんはひとつ残らず、1パーセントも残さずユニを攫って行っちまうって。 そんなのはイヤだって、許せないって・・
全部なんてズルいって・・まぁ、よく分かんねえ事言ってたよ。」


それで自分が全部持ってったのか? 許せないのはこっちだ・・!


「ユニは最初からハッキリ宣言した。 子供の父親にはなるけど、姉貴の夫にはならねえって。 結婚は子供の為、書類上だけだって。 姉貴は承諾した。
・・・また浅はかに、そんな事言ったって、一緒に居れば男と女、なるようになる、って思ってたんだ。 でもユニは宣言通り、ピコの父親として、それだけの存在でい続けた。 ・・・ずっと、モルさんを想い続けてた・・・」 


・・でも、今は別の誰かと居る。 別の誰かを想っている・・・
多分、3年前から・・・


「・・1か月後のピコさんの誕生日、成人の祝いの日、多分ユニは来ないと思います。 あのスーツは多分、ユニのではなくて、フットさんの為にあつらえた物でしょう・・・ユニからフットさんへのプレゼントですよ。 あれを着て、フットさんが父親としてピコさんとダンスを踊る為の・・」


「えぇっ!? 何言って・・はっ・・ 
あの時ユニはスーツを俺に見せて『どう思う?』って訊いて来た。 俺は『いいじゃねえか! いい色だ! 俺、この色大好きだよ!』って言ったら『良かった! きっと似合うよ!』って・・・ まるで俺に似合うって言ってるみたいでちょっと変に思ったけど、『ユニなら何でも似合うさ!』って返して・・ユニはニッコリ笑った・・・あれ・・まさか、だって・・」


「・・スーツを見せてもらった時、色がフットさんに似合いそうだと感じました。 ・・帰ったら袖を通してみて下さい。 ユニとフットさんでは体型が違う。 着てみれば分かります。 きっとピッタリだと思います。」


叔父としてピコさんを見守るフットさんに父親としての幸せを返そうとユニなら思うだろう。 ピコさんもユニが実の父でないと知っているのだから、受け入れるだろう・・実際、フットさんとピコさんは仲の良い実の親子にしか見えない・・


「俺は・・俺は父親失格なんだ・・! 俺は恐くて、ピコが生まれても遠くの村に逃げてずっと会わなかった・・なかった事にしたかった・・でもピコが2才になる少し前、ユニがピコを抱いて俺に会いに来た。 俺はあんなに恐かったのに、ピコを見た途端、可愛くて可愛くて、夢中になっちまった。 それでユニがよ、一緒にピコを守ろう、育てようって言ってくれて・・・だから、今があるんだ・・・!」


大柄なフットさんが体を丸めて俯く姿は、長い間の苦悩を感じさせる。


「・・・その頃だと思う。 ユニがピコは自分の子じゃないと確信したのは。 体が弱いのを心配して、大きい病院でピコを診察してもらって・・医者に言われたんだろう、親子関係は無いって。 ハッキリとじゃないけど、そんな事言ってたような・・それに、ピコの病気が・・」


リリリ~~ン、リリリ~~ン・・・

その時、シティ行きの列車の到着を報せるベルが響き渡る。


「はっ・・、あ、じゃモルさん、また・・。 あ、コレ、スーツの箱の裏に貼ってあった受取証! ユニが出稼ぎに出る日の朝、スーツ預けにウチに寄る直前に、仕立物屋さんから受け取って来たって言ってたから、その受け取りの日がユニが出稼ぎに出た日だよ! あと、これ、ピコから手紙・・列車の中で読んでやってくれ。 ホラ、乗り遅れるともう今日の便はねえよ? じゃ、気を付けてな、」


フットさんに急かされ、バタバタと列車に乗り込み、ブンブン手を振るフットさんに手を振り返す。 きっとフットさんもこれから急いで反対方向行きの列車に乗り、オーム街のアパートの部屋に大事に保管しているスーツに袖を通してみるだろう・・

・・ふぅ・・動き出した列車の中で、ピコさんの手紙を開ける。
ありあわせの紙に大急ぎで書いた様な文字・・・何かピコさんらしくないな・・

『モルさんへ。 叔父さんから、モルさんが私の入院先と入院期間を知りたがっていたと聞いたので、手紙を。 今聞いたので、時間が無くて、汚い字でごめんなさい!』


・・ああ、そういう事か・・

・・フッ・・ 何かあの二人のドタバタ劇が想像出来ておかしい・・・
妙にほっこりしながらピコさんが大急ぎで書いてくれた手紙に目を通し ―――


背筋がゾクリとする。

慌ててフットさんが渡してくれたスーツの受取証の日付を確認する。


・・・ッッ!!?・・・


・・な、何だ!? この符合は!? 何を意味している!?

イヤ待て・・嘘だ! 違う、そんな事あるはずない!! 違う! そんな・・

考えまいとするのに頭はどんどん一つの可能性に向けて突き進んでしまう。
重要じゃないと見逃していたモノ、聞き逃していた言葉・・・何よりも・・


自分が持っている証拠・・・


・・・あぁ・・・


分かった・・・


分かって・・しまった・・・


ユニが、今、どこにいるのか・・・


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