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12.浮かれる男
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ユニを攫う ――― あの笑顔を、もう一度俺のものにする ―――
――― 二人で、生きる ―――
19年前には、そんな望み、持てなかった。
あの頃俺は病気を抱えていて、早死にする事が分かっていた。
だから強気になれなかった。
いつ死ぬか分からない自分に、そんな資格は無いと ―――
でもその後、奇跡が起きて、病気が治った。 そうだ、今なら・・・
甘美な想いにとらわれて、どうやってホテルへ戻って来たのか覚えていない。
軽食を取り、シャワーを浴びる。
ホテルに高度な通信システムは無いから、自分の小型機器で3年前から現在までのビット村住民の出稼ぎなどによる一時転出情報にアクセスする。
地方の人の出入りに関してはシティが特に厳しくチェック・管理している。 それはもう厳重だから、誤魔化す事は不可能だ。 だから必ず記録されているはず。
これでユニが今どこで働いているのか分かるはず。 ・・・ん? じゃ4年前から・・ やっぱり記録無し? そんなはず・・もしかして偽名使ってる? いや、そんな事したらシティにはじかれるだけじゃなく、村から出られないはず。 じゃ画像・・裏技で見れるのは文字までか・・これ以上は家にある機器を使わないとアクセスできないな。
仕方がないので医療データにアクセスする。 ピコさんが入院したという病院を調べる為だ。 ビット村周辺で大きめの病院・・・記録無し。 無いと思うけどシティの病院・・・同。 ・・・え?
・・・まぁ、明日フットさんとピコさんに訊けばいいか。
俺は深く考える事も無く寝る事にする。
翌朝。 いい天気だ。 随分と暖かい。
この地方は冬から春に変わるこの時期、朝から昼過ぎまでは春の様に暖かく、午後から夜にかけて寒くなる。
なのでまだ早朝といえる今の時間、ちょっと朝食をとりに出かけるだけならシャツ1枚で大丈夫なのだが、一応上着を持って出掛ける事にする。
ホテルの朝食サービスを断って、街に朝食をとりに行く目的は、犬。
犬料理ではない。
ホテルの“犬の散歩サービス”を利用してみる事にしたのだ。
ホテルで犬を借りて、犬を散歩させながら街を散策出来るという観光者向けサービス。
街のどの店も犬の入店OK、犬連れ客にはちょっとした記念品をくれる店もあるというので、このサービスを利用する旅行客も多いそうだ。
昨日チェックインした時に強く勧められた時は利用する気は無かったのだが・・・
俺は動物に全く興味無いが、ユニは動物好きだ。
二人で暮らす様になれば、絶対何かしら飼いたがるはず。 その時の為の練習も兼ねて、俺はいつもなら決して興味を示さないサービスを利用する事にしたのだ。
・・・そう。 俺は浮かれている。
ユニを攫うなんて、実際出来るかどうか分からない。 ユニがどう出るかは・・
それでもその可能性を手にしただけで、俺の心はどうしようもなく浮かれてしまうのだ。 ユニへの想いは、19年経ってもその温度を失っていない・・・
ホテルが用意している犬の中からテキトーに1頭選び、朝のまだ澄んだ空気の中を大股で歩く。 犬は見事に訓練されており、まるで俺を本当の飼い主の様に従順に、よく懐いている雰囲気を醸しながらついて来る。 へぇ、カワイイもんだな・・
街のカフェは朝食を求める客の為にどの店ももうオープンしている。
観光客だけでなく、街の住民とおぼしき人の姿も多い。 だいたいどの地方でも、これぐらいの規模の街なら、住民も勤め人が多くカフェなどで朝食を取る人が多い。
俺もどこかで軽く朝食を ―― と物色していると、
「モルさん! モルさん!!」 とオッサンの声がする。
ん? フットさん? あ、やっぱり。 オープンカフェで朝食中のフットさんがニコニコしながらブンブン手を振っている。 今日もいい人そうだね・・
「いやぁ~~、今日もシュッとしてるねぇ、あぁ、その犬、あのホテルのかい?
こんな犬種もいたんだ・・借りてる人見掛けた事無かったな・・きっとこの犬、今日が初仕事じゃないかな・・・いやぁ~~、この怖そうな軍用犬がこんなに似合う人初めて見たよ・・何かシティの尖ったファッション系の広告みてえだな!」
・・・ディスられてるのか褒められてるのか判断がつかない。 ・・犬が恐い?
俺は犬を見る。 犬は小さく「クゥン」と鳴いて俺を見上げる。 どこが恐い?
色々判断つかないが、丁度良かった。 ピコさんの前では訊けない事を訊いてしまおう。 そう思い、
「朝食、一緒にいいですか?」 と訊く。 フットさんは嬉しそうに、
「どうぞどうぞ、この店は俺のイチオシなんだよ! ・・あ、犬はなるべく遠くへ・・いや、恐くて・・あ、で、おすすめはパンケーキセット・・ひ、何か今犬が唸ったようだけど、俺何かしちゃったかな?」
ニコニコビクビク顔で快諾してくれる。
・・・それにしても可哀想に・・この犬、女の子なのにな・・・
――― 二人で、生きる ―――
19年前には、そんな望み、持てなかった。
あの頃俺は病気を抱えていて、早死にする事が分かっていた。
だから強気になれなかった。
いつ死ぬか分からない自分に、そんな資格は無いと ―――
でもその後、奇跡が起きて、病気が治った。 そうだ、今なら・・・
甘美な想いにとらわれて、どうやってホテルへ戻って来たのか覚えていない。
軽食を取り、シャワーを浴びる。
ホテルに高度な通信システムは無いから、自分の小型機器で3年前から現在までのビット村住民の出稼ぎなどによる一時転出情報にアクセスする。
地方の人の出入りに関してはシティが特に厳しくチェック・管理している。 それはもう厳重だから、誤魔化す事は不可能だ。 だから必ず記録されているはず。
これでユニが今どこで働いているのか分かるはず。 ・・・ん? じゃ4年前から・・ やっぱり記録無し? そんなはず・・もしかして偽名使ってる? いや、そんな事したらシティにはじかれるだけじゃなく、村から出られないはず。 じゃ画像・・裏技で見れるのは文字までか・・これ以上は家にある機器を使わないとアクセスできないな。
仕方がないので医療データにアクセスする。 ピコさんが入院したという病院を調べる為だ。 ビット村周辺で大きめの病院・・・記録無し。 無いと思うけどシティの病院・・・同。 ・・・え?
・・・まぁ、明日フットさんとピコさんに訊けばいいか。
俺は深く考える事も無く寝る事にする。
翌朝。 いい天気だ。 随分と暖かい。
この地方は冬から春に変わるこの時期、朝から昼過ぎまでは春の様に暖かく、午後から夜にかけて寒くなる。
なのでまだ早朝といえる今の時間、ちょっと朝食をとりに出かけるだけならシャツ1枚で大丈夫なのだが、一応上着を持って出掛ける事にする。
ホテルの朝食サービスを断って、街に朝食をとりに行く目的は、犬。
犬料理ではない。
ホテルの“犬の散歩サービス”を利用してみる事にしたのだ。
ホテルで犬を借りて、犬を散歩させながら街を散策出来るという観光者向けサービス。
街のどの店も犬の入店OK、犬連れ客にはちょっとした記念品をくれる店もあるというので、このサービスを利用する旅行客も多いそうだ。
昨日チェックインした時に強く勧められた時は利用する気は無かったのだが・・・
俺は動物に全く興味無いが、ユニは動物好きだ。
二人で暮らす様になれば、絶対何かしら飼いたがるはず。 その時の為の練習も兼ねて、俺はいつもなら決して興味を示さないサービスを利用する事にしたのだ。
・・・そう。 俺は浮かれている。
ユニを攫うなんて、実際出来るかどうか分からない。 ユニがどう出るかは・・
それでもその可能性を手にしただけで、俺の心はどうしようもなく浮かれてしまうのだ。 ユニへの想いは、19年経ってもその温度を失っていない・・・
ホテルが用意している犬の中からテキトーに1頭選び、朝のまだ澄んだ空気の中を大股で歩く。 犬は見事に訓練されており、まるで俺を本当の飼い主の様に従順に、よく懐いている雰囲気を醸しながらついて来る。 へぇ、カワイイもんだな・・
街のカフェは朝食を求める客の為にどの店ももうオープンしている。
観光客だけでなく、街の住民とおぼしき人の姿も多い。 だいたいどの地方でも、これぐらいの規模の街なら、住民も勤め人が多くカフェなどで朝食を取る人が多い。
俺もどこかで軽く朝食を ―― と物色していると、
「モルさん! モルさん!!」 とオッサンの声がする。
ん? フットさん? あ、やっぱり。 オープンカフェで朝食中のフットさんがニコニコしながらブンブン手を振っている。 今日もいい人そうだね・・
「いやぁ~~、今日もシュッとしてるねぇ、あぁ、その犬、あのホテルのかい?
こんな犬種もいたんだ・・借りてる人見掛けた事無かったな・・きっとこの犬、今日が初仕事じゃないかな・・・いやぁ~~、この怖そうな軍用犬がこんなに似合う人初めて見たよ・・何かシティの尖ったファッション系の広告みてえだな!」
・・・ディスられてるのか褒められてるのか判断がつかない。 ・・犬が恐い?
俺は犬を見る。 犬は小さく「クゥン」と鳴いて俺を見上げる。 どこが恐い?
色々判断つかないが、丁度良かった。 ピコさんの前では訊けない事を訊いてしまおう。 そう思い、
「朝食、一緒にいいですか?」 と訊く。 フットさんは嬉しそうに、
「どうぞどうぞ、この店は俺のイチオシなんだよ! ・・あ、犬はなるべく遠くへ・・いや、恐くて・・あ、で、おすすめはパンケーキセット・・ひ、何か今犬が唸ったようだけど、俺何かしちゃったかな?」
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・・・それにしても可哀想に・・この犬、女の子なのにな・・・
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