101 / 104
101 人の強さは
しおりを挟む
三つの島からなっていたバンダ王国。
王家や民が暮らす華やかで美しい一の島、二の島と違い寂れた感のあった三の島。
ナイトはそこに隠されひっそり育った。
ある日、『王の使い』が来て『王が内密に会いたいと仰っている』と言われ王の住まいのある一の島ではなく二の島へ案内するから付いて来るようにと言われた。
二の島と三の島は遠い。
三の島の空港で小型機に乗り込もうとするナイトとフィカスをちょうど三の島の空港に着いたばかりのユウトが止めた。
『行っちゃダメ!
嫌な感じがする!
僕の野生の勘がそう言っている!』
ちょ‥
「ちょっと待って!
思い出した!
いや、忘れてたわけじゃない!
確かにバンダ第三空港でそんな事言った!
でも僕がそれを言った相手は二人じゃなくてお姫様…
キレイでカワイイお姫様たちで‥‥はッ‥
女装!?
あれ、ナイトとフィカスの女装だったの!?」
ユウトが目をまん丸にしてナイトとフィカスに聞く。
フィカスは苦笑し、ナイトは表情を変えず淡々と答える。
「バンダ族は『他の血を入れてはいけない』と他種族との婚姻を禁じていた。
俺の母は日本人でありながらそんなバンダ族と恋に落ちた。
ただの一バンダ人なら国を追われるだけで済んだが、恋に落ちた相手は国を立ち上げたばかりのバンダ王だった。
二人の間に生まれた俺は許されない存在――
王の側近の子供として三の島に隠された。
念の為に性別も偽って。
バンダ王家の後継ぎとしての一番の理想は『『力』を発現した男子』としてい‥」
「ここから先はお二人は聞かない方がいいでしょう。
ここへは徒歩で?
ならばお送りしますが…」
ナイトの話を遮り、フィカスが理事長と桧木に声を掛ける。
ポカ~ンと口を開けて聞いていた理事長と桧木はハッとして。
「ああいや、車で来ている」
と理事長が答え、『それでは‥』と穏やかにフィカスに促されれば車を降りないワケにはいかない。
二人を下ろした巨大なキャンピングカーは滑るように発進し、あっという間に走り去る。
「…似合ったでしょうね…」
「抜群だっただろう」
スーパーの駐車場に残された叔父と甥は、ナイトとフィカスの10年前の女装姿に思いを馳せるのだった――
「ナイト様は気が緩み過ぎではないですか?
彼等に聞かせる話ではないでしょう」
「…すまない。
あの二人の存在感が薄過ぎて居るのを忘れてしまった
―――ユウト?」
ユウトは両手で顔を覆っている。
「僕の、僕の初恋返して下さいッ!」
「「――どっち?」」
「‥へ?」
間髪入れず声を揃えたナイトとフィカスに戸惑うユウト。
「ユウトの初恋の相手は俺とフィカスのどっちだ?」
「‥あ、いや」
「大切な事です。
ハッキリさせておきましょうか」
「えーと、た、大変だったよね!
あの時、空港内が騒然として!」
((誤魔化した!))
「二人と一緒に居た人達が銃を出して撃とうとして来たから三人で逃げて倉庫みたいな所に隠れて――しばらく隠れてたよね、警察の人が来るまで」
「ナイト様と私が乗るはずだった小型機は飛び立って空港を離れたところでパイロットが脱出し、その直後爆破される予定だったと後から知りました。
そんな昔からユウトは命の恩人です」
「…あっ!
僕に『恩がある』って言ってたのってそれ?
命なら僕だって救ってもらってるよ?
父さんに…首を絞められた時に…」
「ユウトはあの時気絶していましたが、お祖父様達から聞いたのですか?」
「思い出したんだ。
あの時の事。
あの時僕は体は気絶してたけど神経は起きてたから」
深く物思いに沈んでいた様だったナイトが口を開く。
「恩――
一番は、気持ちだ。
あの時、俺もフィカスも『王の使い』が怪しいのは気付いてた。
なのに付いて行ったのは、二人とも死んでもいいと思っていたんだ。
心はもう死んだも同然だったんだろう。
だから素直に小型機に乗ろうとした。
それを天使の様な男の子――ユウトに止められ、ハッとなった。
倉庫に隠れていた時も、ユウトは一生懸命俺達を励まそうとしてくれた。
俺達は二人とも暗かった。
それが通常だったんだが、ユウトは俺達が恐がっていると感じたんだろうな…」
6才のユウトは言ったのだ。
『大丈夫だよ、
恐がらないで…
僕が傍で守るから!
今はまだ小さいけどもっと大きくなってうんと強くなって必ず君達を守るから!
大丈夫だよ、信じて?
僕に任せて』
小さな手で、ナイトとフィカスの手を握ってしっかり頷いて見せた。
キラキラ輝くアンバーの瞳にナイトとフィカスは心を揺らされた――
「あれがターニングポイントだった。
俺もフィカスも。
自分の命をどうでもいいと思うのをやめた。
小さな天使が助けてくれた命だ。
守ると言ってくれる命だ。
命があたたかい意味を持ったんだ。
だからあれ以降は殺しにかかって来る奴らと闘うようになった――
だろ?フィカス」
「――言われてみれば
そう…ですね。
あの時から私は変わりました。
ふっ――驚きました。
何も考えていない様だったナイト様が私の心情まで見抜いていたとは――」
「フィカスは失礼だ。
ユウト、カニ鍋は二人だけで‥ユウト?」
「…う、いや、恥ずい
僕、そんな事言っておいて、メチャメチャ弱いままで。
実際は守ってもらってばかり‥」
「ユウトは強いぞ」
「ナイト‥」
「人の強さは、心にどれだけ愛があるかだ。
ユウトにはたくさんあって、それで俺とフィカスは守られているんだ。
ユウトは最強だ」
「強く同意します。
心を救われ、命を何度も救われています」
「救われてるのは僕」
「ユウト、ライブ直後の『組織』の事を忘れたか?」
「そうですよ。
私とナイト様は知らずに奪われていた尊厳を取り戻せました」
「‥‥あぁ、」
『組織』と聞いてユウトの表情が変わる。
【あいつら――ね…】
アンバーの瞳が金色に煌めき、アンバーローズの髪がフワリと白銀に変わる――
王家や民が暮らす華やかで美しい一の島、二の島と違い寂れた感のあった三の島。
ナイトはそこに隠されひっそり育った。
ある日、『王の使い』が来て『王が内密に会いたいと仰っている』と言われ王の住まいのある一の島ではなく二の島へ案内するから付いて来るようにと言われた。
二の島と三の島は遠い。
三の島の空港で小型機に乗り込もうとするナイトとフィカスをちょうど三の島の空港に着いたばかりのユウトが止めた。
『行っちゃダメ!
嫌な感じがする!
僕の野生の勘がそう言っている!』
ちょ‥
「ちょっと待って!
思い出した!
いや、忘れてたわけじゃない!
確かにバンダ第三空港でそんな事言った!
でも僕がそれを言った相手は二人じゃなくてお姫様…
キレイでカワイイお姫様たちで‥‥はッ‥
女装!?
あれ、ナイトとフィカスの女装だったの!?」
ユウトが目をまん丸にしてナイトとフィカスに聞く。
フィカスは苦笑し、ナイトは表情を変えず淡々と答える。
「バンダ族は『他の血を入れてはいけない』と他種族との婚姻を禁じていた。
俺の母は日本人でありながらそんなバンダ族と恋に落ちた。
ただの一バンダ人なら国を追われるだけで済んだが、恋に落ちた相手は国を立ち上げたばかりのバンダ王だった。
二人の間に生まれた俺は許されない存在――
王の側近の子供として三の島に隠された。
念の為に性別も偽って。
バンダ王家の後継ぎとしての一番の理想は『『力』を発現した男子』としてい‥」
「ここから先はお二人は聞かない方がいいでしょう。
ここへは徒歩で?
ならばお送りしますが…」
ナイトの話を遮り、フィカスが理事長と桧木に声を掛ける。
ポカ~ンと口を開けて聞いていた理事長と桧木はハッとして。
「ああいや、車で来ている」
と理事長が答え、『それでは‥』と穏やかにフィカスに促されれば車を降りないワケにはいかない。
二人を下ろした巨大なキャンピングカーは滑るように発進し、あっという間に走り去る。
「…似合ったでしょうね…」
「抜群だっただろう」
スーパーの駐車場に残された叔父と甥は、ナイトとフィカスの10年前の女装姿に思いを馳せるのだった――
「ナイト様は気が緩み過ぎではないですか?
彼等に聞かせる話ではないでしょう」
「…すまない。
あの二人の存在感が薄過ぎて居るのを忘れてしまった
―――ユウト?」
ユウトは両手で顔を覆っている。
「僕の、僕の初恋返して下さいッ!」
「「――どっち?」」
「‥へ?」
間髪入れず声を揃えたナイトとフィカスに戸惑うユウト。
「ユウトの初恋の相手は俺とフィカスのどっちだ?」
「‥あ、いや」
「大切な事です。
ハッキリさせておきましょうか」
「えーと、た、大変だったよね!
あの時、空港内が騒然として!」
((誤魔化した!))
「二人と一緒に居た人達が銃を出して撃とうとして来たから三人で逃げて倉庫みたいな所に隠れて――しばらく隠れてたよね、警察の人が来るまで」
「ナイト様と私が乗るはずだった小型機は飛び立って空港を離れたところでパイロットが脱出し、その直後爆破される予定だったと後から知りました。
そんな昔からユウトは命の恩人です」
「…あっ!
僕に『恩がある』って言ってたのってそれ?
命なら僕だって救ってもらってるよ?
父さんに…首を絞められた時に…」
「ユウトはあの時気絶していましたが、お祖父様達から聞いたのですか?」
「思い出したんだ。
あの時の事。
あの時僕は体は気絶してたけど神経は起きてたから」
深く物思いに沈んでいた様だったナイトが口を開く。
「恩――
一番は、気持ちだ。
あの時、俺もフィカスも『王の使い』が怪しいのは気付いてた。
なのに付いて行ったのは、二人とも死んでもいいと思っていたんだ。
心はもう死んだも同然だったんだろう。
だから素直に小型機に乗ろうとした。
それを天使の様な男の子――ユウトに止められ、ハッとなった。
倉庫に隠れていた時も、ユウトは一生懸命俺達を励まそうとしてくれた。
俺達は二人とも暗かった。
それが通常だったんだが、ユウトは俺達が恐がっていると感じたんだろうな…」
6才のユウトは言ったのだ。
『大丈夫だよ、
恐がらないで…
僕が傍で守るから!
今はまだ小さいけどもっと大きくなってうんと強くなって必ず君達を守るから!
大丈夫だよ、信じて?
僕に任せて』
小さな手で、ナイトとフィカスの手を握ってしっかり頷いて見せた。
キラキラ輝くアンバーの瞳にナイトとフィカスは心を揺らされた――
「あれがターニングポイントだった。
俺もフィカスも。
自分の命をどうでもいいと思うのをやめた。
小さな天使が助けてくれた命だ。
守ると言ってくれる命だ。
命があたたかい意味を持ったんだ。
だからあれ以降は殺しにかかって来る奴らと闘うようになった――
だろ?フィカス」
「――言われてみれば
そう…ですね。
あの時から私は変わりました。
ふっ――驚きました。
何も考えていない様だったナイト様が私の心情まで見抜いていたとは――」
「フィカスは失礼だ。
ユウト、カニ鍋は二人だけで‥ユウト?」
「…う、いや、恥ずい
僕、そんな事言っておいて、メチャメチャ弱いままで。
実際は守ってもらってばかり‥」
「ユウトは強いぞ」
「ナイト‥」
「人の強さは、心にどれだけ愛があるかだ。
ユウトにはたくさんあって、それで俺とフィカスは守られているんだ。
ユウトは最強だ」
「強く同意します。
心を救われ、命を何度も救われています」
「救われてるのは僕」
「ユウト、ライブ直後の『組織』の事を忘れたか?」
「そうですよ。
私とナイト様は知らずに奪われていた尊厳を取り戻せました」
「‥‥あぁ、」
『組織』と聞いてユウトの表情が変わる。
【あいつら――ね…】
アンバーの瞳が金色に煌めき、アンバーローズの髪がフワリと白銀に変わる――
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる