暫定アイドル☆ゆーとりん!―少年は愛の為に覚醒する―

ハートリオ

文字の大きさ
上 下
95 / 104

95 文化祭ライブ7

しおりを挟む
(‥ウッ‥!?)


――危険――


野生の勘がそう言っている‥‥


音響係の男とフィカスさんが体育館を出て行った


直ぐ後を音響係がもう一人?


あの音響係――変だ…



ッッ‥



僕の意識は体育館を離れて――


危ない!

理事長?

フィカスさん!!



≪ブワチィィィッッ≫



何とか間に合った!


‥ハッ!?



ウオォォォォォォォッ



フィカスのもとへ意識が飛んでいたユウト。

意識が体育館に戻って――信じられない事態に固まる!



ほんの少し――意識が飛ぶ前まで、体育館内は平穏そのものだった。

みなバラードをしっとりと静かに聴いていた。

なのに、生徒たちは前半最後の曲の時の様に、真っ赤な顔で興奮し、舞台上に上がろうと舞台に詰め掛けて来ている!

ソレを扇動する声が体育館内に響いている!

ユウト…ゆーとりんの声として!



『みんな~~~ッ!
早く来てぇ!
ゆーとりん、待ちきれないよぉ?
一番早く舞台に上がって来た人には、僕をあげる!
ぜ~~~んぶあげちゃう!
だから早く早くぅ!
ここへ来て、僕をメチャメチャにしてぇ~~!』



ウオォォォォォォォッ
俺だッ!俺が貰うッ!
いいや俺のものだッ!
違う俺のだっ退けッ!



狂った様に舞台へ上がろうと争う生徒達!

血走った目はもう正気ではない!



『早く早くぅ!
僕は準備出来てるよ!
早く僕を抱いてぇ!』



――この声は一体!?



いち早く御花畑すももの声だと気付いた桧木。

音響係の所へ駆けつけた桧木は喋り続けるすももが短髪黒髪なのに一瞬驚いた。

が、すぐに怒りに任せてすももからマイクを奪うと、『これはフェイクだ!ゆーとりんを陥れる罠だ!みんな戻れ!ゆーとりんを傷つけるなッ!』と叫ぶが――



「もうマイクは入ってない…誰も君の声を聞いてないよ」

「聞こえたとして誰も止まらないだろう…ああなってはもう人間じゃない、ケダモノそのものだからね」



普通に日本人の40代会社員に見える二人の男が桧木の背後に現れ、振り向いた桧木に向かってシュッと何かを噴射した――




「ゆーとり‥」
≪ガツッ≫「ギャッ」
「俺、俺と‥」
≪ガツッ≫「ギャン」



「‥クッ、
キリがない!」



突如音楽が止み、ゆーとりんを装った声が流れ生徒達を煽り始めた時、ナイトはすぐに舞台に上がり、ユウトの前に立ちはだかった。

普段なら『魔王』を恐れて静かになる生徒達だが、前半最後の曲の時に見てしまったユウトの足が頭から離れないでいた。

くすぶっていた欲望に火が点いてしまった彼等は、集団である事もあって気が大きくなり狂った様に舞台を――ゆーとりんを目指す!

舞台は高く簡単には上がって来れないが、詰めかけた前の奴らを踏み台にして上がって来る奴らもいる。


そんな生徒達を舞台下に殴り飛ばしながら、ナイトは決意する。


このままでは、奴らがユウトに襲い掛かるのは時間の問題だ。

俺が『力』を使ったとしても数人を吹き飛ばすぐらいしか出来ない。

その場面を目撃したとしても、興奮した生徒達は止まらないところまで来ている。

狂った男達の集団はユウトに何をするか分からない。

我も我もと死ぬまで凌辱の限りを尽くすかもしれない――


俺は――

誰もユウトに触れさせない!

ほんの少しの傷も付けさせない!





カッッッ!!





光――

体育館全体が一瞬、赤い光に包まれた!




(ッハッ!?
今の――あぁッ!?)


ナイト―――


ナイトが赤い光に包まれている――いや、放っている?


ユウトは目の前の、さっきほどではないがそれでも赤い光を放ち続けているナイトの姿に愕然とする。


舞台に上がって来る生徒達を舞台下に殴り飛ばしていたナイトが、ユウトの前に立ち、『覚醒』しない様に抑えて来た『力』を解き放ったのだ――



「‥ナイト様ッ!」



フィカスが舞台上に上がって来る!



「‥フィカス‥
すまない‥」



苦しそうに赤い光を放ちながらナイトは目だけフィカスに向け、そう言う。


始まってしまった『覚醒』に、体中に粉砕される様な痛みを感じながら。



「――いいえ。
コレしか無かったのだと理解します。
私でも同じ様に判断します」



フィカスは柔らかく微笑みながらそう言うと――





カッッッ!!





体育館全体が一瞬、青銀の光に包まれて――


フィカスもまた、ナイト同様『覚醒』を抑えて来た『力』を解き放った。



ユウトを助ける為には、これしかない――



「バ…バカッ!
二人とも…
バカ…何でッ…」



ユウトは命を捧げられたのだ。

恋い慕う二人に。


『覚醒』は始まってしまえば止める事が出来ない。

脆弱な体は『覚醒』に耐えられず死しかないのだ。


ガクガクと震え、涙が止まらないユウト。



ナイトとフィカスはそんなユウトを振り返り、最期の言葉を伝える。



「「‥愛してる‥」」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

【完結】Doctor Master

邦幸恵紀
BL
【なんちゃってSF/ロボット工学の教授と元教授(元同僚同士)/両片思い】 〝両思いなのに片思い〟していたロボット工学の教授と元教授(元同僚同士)の話。 ※なんちゃってSF。全3話。番外編あり。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

推し変なんて絶対しない!

toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。 それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。 太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。 ➤➤➤ 読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。 推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

処理中です...