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77 君が振り向いたから

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君が振り向いて目が合った。

その瞬間、心に火が点いた。

このまま消えようと思っていたのに。

そんな気持ちは霧散した。

一瞬で全てがひっくり返るなんて

体中に力が漲って来るなんて

私はこんなにも単純だったのか――



「君が振り向いたからだよ…」



口の中で呟くフィカス。



≪ザッザッザッ‥‥≫



フィカスはユウトとナイトに向かって歩いて行く――


(足音がまるで同じなんだよね、ナイトとフィカスさん…)


クスリと笑うユウト。



≪グイッ≫


「‥え‥」
「‥!?」



フィカスはまだナイトの腕の中に居たユウトを強引に引き寄せ――



「‥ッ‥フィ、」

「決めてました。
君を見つけたらこうすると」



フィカスに強く抱きしめられて思考が停止するユウト。

ナイトよりも細く見える体は抱きしめられるとナイト同様に強い肉体で身動き一つ出来そうにない。

何で抱きしめられてるのか分からないユウトは速い鼓動が自分のかフィカスのかも分からない。



「…さっきは――
君に命を救われた…」



耳元でそう囁かれ。

ユウトは思い出す。


(――そうだ、この人こんなにカッコイイのにドジっ子だった!)


ユウトは固まっていた腕をフィカスの背に回し、失われていたかもしれない強く美しい肉体を数回慈しむ様に撫でてから抱きしめる。



「‥‥ッッ‥‥」

「僕には何の事か分からないけど…
運転は慎重にね?」



お返しの様に耳元で甘く――本人にそんなつもりは無いのだろうけど蕩ける程甘く囁かれてフィカスは耳が頬が体がカッと熱くなる。


(煽る…ね――
無自覚とは言えこう煽られると――さて、どうしてくれようか‥)


≪グイーーーッ!≫


「‥うッ!?」
「‥わゎッ‥」



ユウトに蕩けて気が抜けていたフィカスの肩をナイトが強引に引っ張りユウトから引き離す。

嵐の中で眉間に皺を寄せたナイトは『魔王』としか言えない姿である。



「あ。」

「『あ。』じゃない、
『あ。』じゃ!
俺の存在忘れてるな?
ユウトに密着するな!
ユウトは俺の‥ゴホッ
車はどうした?」

「車――
ああ、大破しました」

「何?」

「あの、中に入って話さない?」

「「はッ!」」



体の強い二人は暴風雨の中でも普通に立ち話ができるが。

ユウトは生まれてすぐ立ち上がったばかりの子牛のように頼りなげにブルブルと震え、今にも風に飛ばされそうである。

ナイトとフィカスは競い合うようにユウトを庇いながらマンションに入り、風のようにエレベーターに乗り込む!

この間、ユウトは足が地についておらず、足を動かした記憶もなく、移動したというより運ばれた気がしている。

頭の上には?マークが出続けている。

とにかくずぶ濡れの三人はエレベーターで上昇し、

6階に到着した時点でまた揉め出すのである。
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