74 / 104
74 足音が聞こえなくて
しおりを挟む
ユウトは困惑中である
自分を嫌っていると思っていた男、錦木が自分をキレイだのカワイイだのセクシーだの何だのと褒めまくって来るのだ。
いや、褒めてない。
男は皆お前に欲情してるのに無自覚で危ない、さっきだって俺が連れ出してなければどうなってたと思ってるんだ、『奢り』だと運ばれた飲食物にはクスリが入っていたんだぞ、ちょっと食おうとしてただろ、自覚しろ!、やっぱバカだろ!!云々‥‥
責められてる‥‥
「――イヤでもね?
僕は今まで一度も男から交際を申し込まれた事も無いし、告白された事も無いんだよ?…なのに世の中の男が全員僕を狙ってる的な事言われてもね?」
「過保護が過ぎたな、
守護魔王…」
「え…『守護魔王』…
ソレ、本当の話!?
実在するの!?
誰?」
「それも気付いてねーのか…
…言わないんだな、魔王も…
中1からずっと――
今なんか一緒に行動してるだろ?
俺、何回か駅付近で一緒に居るの見掛けたぞ?」
「―――え」
(それって‥‥)
「南都樫ナイトだよ。
てか、何で気付いてねーんだ?
あんだけ守られて」
「――ッッ!
中学…の時も?
僕、気付いてなかったけど…」
「学校内だけでも先輩何人かと教師3人が病院送りになってる。
後遺症が残る様な怪我じゃなかったけど、精神面をやられたらしい。
その先輩たちは転校して行ったし、教師達も辞めて行った。
後、お前は有名なんだよ、『絶世の美少年』として。
で、狙って来る奴らが学校外にもいたらしい。
その排除もしてた――学校外の話は、俺もコッチの世界に入ってから聞いて知ったんだけどな」
俄かには信じ――――
られる。
ナイトなら――あれ?
もしかして、入学前に橘高校を訪れた時…ナイトが偶然通りかかったお陰で助かった…アレも偶然ではなかった!?
い、いや、さすがにアレは偶然だよね…肉持ってたし…
いずれにしても僕はナイトにずっと守られて来たんだ…
「…で、学校外では八桐は『絶対天使』、南都樫は『守護魔王』って呼ばれてる。
中学では『姫とストボ…ストーキングボディーガード』って呼ばれてた」
――耳を塞ぎたい。
小出毬ちゃんにフラれた時『姫とか呼ばれて何様の積もり!?気持ち悪いんだよッ』とかも言われたっけ…
何の事かと思ったけど実際呼ばれてたんだ――影で――な、泣くな、僕!
ユウトは何とか涙を堪える。
「――で、何で今日は魔王が居ねーワケ?
ケンカでもしたか?
‥え‥ちょ‥」
「ケンカした。
『もう守ってくれなくていい』って言った。
ナイ‥南都樫君は何かの『恩返し』の為に僕を守ってくれてたんだ。
そんなのもう充分だからいいって言ったんだ。
そして出て来た。
だからもう――
聞こえないんだ。
足音が。
どんなに歩き回っても
立ち止まっても
方向転換しても
走っても
足音が聞こえない――
だから僕は余計に悲しくて、無性に腹が立って、気付いたら道に迷ってて、雨‥」
「わ、分かったから!
泣くな、ホラ、拭け」
ユウトの瞳からポロポロと涙が落ちる。
錦木が焦った様子でハンカチを出しユウトの涙を拭いてやる。
天使の涙には狼狽えるしかない。
「泣いてない!
涙腺までバカになっただけで」
「そうかそうか。
で、『足音』って?」
「――え?」
「聞こえないのが悲しいんだろ?
…南都樫の足音?」
「‥‥ッッ!」
そう…だ
とユウトは気付く。
それは無意識の領域。
≪ザッザッザッ‥‥≫
いつでもその足音を耳が拾っていた。
その足音が聞こえると安心した。
最初にあの足音を聞いたのはいつだった?
――ああ、
あの時だ――
記憶の、『思い出したくない領域』を覗き込み、ユウトは思い出す。
(あの時――
僕が父さんに――)
見開いた目。
涙は止まっている。
自分を嫌っていると思っていた男、錦木が自分をキレイだのカワイイだのセクシーだの何だのと褒めまくって来るのだ。
いや、褒めてない。
男は皆お前に欲情してるのに無自覚で危ない、さっきだって俺が連れ出してなければどうなってたと思ってるんだ、『奢り』だと運ばれた飲食物にはクスリが入っていたんだぞ、ちょっと食おうとしてただろ、自覚しろ!、やっぱバカだろ!!云々‥‥
責められてる‥‥
「――イヤでもね?
僕は今まで一度も男から交際を申し込まれた事も無いし、告白された事も無いんだよ?…なのに世の中の男が全員僕を狙ってる的な事言われてもね?」
「過保護が過ぎたな、
守護魔王…」
「え…『守護魔王』…
ソレ、本当の話!?
実在するの!?
誰?」
「それも気付いてねーのか…
…言わないんだな、魔王も…
中1からずっと――
今なんか一緒に行動してるだろ?
俺、何回か駅付近で一緒に居るの見掛けたぞ?」
「―――え」
(それって‥‥)
「南都樫ナイトだよ。
てか、何で気付いてねーんだ?
あんだけ守られて」
「――ッッ!
中学…の時も?
僕、気付いてなかったけど…」
「学校内だけでも先輩何人かと教師3人が病院送りになってる。
後遺症が残る様な怪我じゃなかったけど、精神面をやられたらしい。
その先輩たちは転校して行ったし、教師達も辞めて行った。
後、お前は有名なんだよ、『絶世の美少年』として。
で、狙って来る奴らが学校外にもいたらしい。
その排除もしてた――学校外の話は、俺もコッチの世界に入ってから聞いて知ったんだけどな」
俄かには信じ――――
られる。
ナイトなら――あれ?
もしかして、入学前に橘高校を訪れた時…ナイトが偶然通りかかったお陰で助かった…アレも偶然ではなかった!?
い、いや、さすがにアレは偶然だよね…肉持ってたし…
いずれにしても僕はナイトにずっと守られて来たんだ…
「…で、学校外では八桐は『絶対天使』、南都樫は『守護魔王』って呼ばれてる。
中学では『姫とストボ…ストーキングボディーガード』って呼ばれてた」
――耳を塞ぎたい。
小出毬ちゃんにフラれた時『姫とか呼ばれて何様の積もり!?気持ち悪いんだよッ』とかも言われたっけ…
何の事かと思ったけど実際呼ばれてたんだ――影で――な、泣くな、僕!
ユウトは何とか涙を堪える。
「――で、何で今日は魔王が居ねーワケ?
ケンカでもしたか?
‥え‥ちょ‥」
「ケンカした。
『もう守ってくれなくていい』って言った。
ナイ‥南都樫君は何かの『恩返し』の為に僕を守ってくれてたんだ。
そんなのもう充分だからいいって言ったんだ。
そして出て来た。
だからもう――
聞こえないんだ。
足音が。
どんなに歩き回っても
立ち止まっても
方向転換しても
走っても
足音が聞こえない――
だから僕は余計に悲しくて、無性に腹が立って、気付いたら道に迷ってて、雨‥」
「わ、分かったから!
泣くな、ホラ、拭け」
ユウトの瞳からポロポロと涙が落ちる。
錦木が焦った様子でハンカチを出しユウトの涙を拭いてやる。
天使の涙には狼狽えるしかない。
「泣いてない!
涙腺までバカになっただけで」
「そうかそうか。
で、『足音』って?」
「――え?」
「聞こえないのが悲しいんだろ?
…南都樫の足音?」
「‥‥ッッ!」
そう…だ
とユウトは気付く。
それは無意識の領域。
≪ザッザッザッ‥‥≫
いつでもその足音を耳が拾っていた。
その足音が聞こえると安心した。
最初にあの足音を聞いたのはいつだった?
――ああ、
あの時だ――
記憶の、『思い出したくない領域』を覗き込み、ユウトは思い出す。
(あの時――
僕が父さんに――)
見開いた目。
涙は止まっている。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
真夜中の片隅で、ずっと君の声を探していた
風久 晶
BL
孤独な仁木葉司は、同級生の快活な少年・小山田優に片思いをした。
過去の傷痕に孤独に苦しみ続ける、17歳の葉司にとっては、優の明るい笑顔は、密かな憧れ、心の支えだった。
だけど、ある日突然、優から声をかけられて――
明るい優等生の優 × 過去を持つクール眼鏡の葉司の、青春の一途で一生懸命なピュアラブ。
葉司と、いとこの瑠奈の、暗い秘密。
明るく優等生だと思っていた優の隠された想い。
交錯して、孤独な心が触れ合い、そして変化が訪れる。
愛しくて、切なくて、時に臆病になりながら、ただ大切に愛することを追いかけていくストーリー。
純愛の、耽美で美しい世界へどうぞ。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる