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72 金の光
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ハンドルを取られるなんて初めての事だ
スピードが出過ぎていて修正出来ない
壁が迫る
きっと『一瞬の出来事』なのだろう
が――
スローモーションの様だ
これは――
ダメだろう
体は随分強い方だが
これでは助からないだろう
幸いだったのは
豪雨の夜の田舎道に人気は無く
誰も巻き添えにせずに済んだ事だ
ナイト様の中和剤たる私が死んでも『組織』はすぐに別の者を派遣するだろう。
残念だ。
ナイト様を殺すのもナイト様に殺されるのも
私が務めてあげたかった
可哀想な御方だ
生まれる前から命を狙われていた
大人のエゴの責任を何故子供が取らされるのか
常に薄氷を踏む様な不安定な幼少期
ナイト様は心を持たない美しい人形の様だった
――まぁ、私も似た様なものだったが
それでも9才までは
『守る』役割を命じられるまでは
私は比較的普通の子供でいられたのだから
ナイト様よりは格段に恵まれていたと思う――
ユウト
君に出会えて
私もナイト様も変わった
人間らしさが芽生え
育ち
あたたかい
幸せを知った
ありがとう――
衝撃は感じなかった
光――金色の
美しく優しい光に
包まれて
満たされる
あたたかい
これが『死』か?
『死』とはこんなにも幸福なものだったのか――
―――?
私は
知っている?
この美しい金色を
見た――どこで?
‥ハッ!!
ユウトの瞳…!!
【――あれ?
思い出しちゃうんだ】
‥ッッ!?
「ユウトッ!?
‥ハッ!?」
ザーーーーーーッ…
ザーーーーーーッ…
ザーーーーーーッ…
「‥‥え!?」
降り続く雨の中、フィカスは道端に立っている。
ハッと我に返って視線を動かせば少し先に車――
フィカスが運転していた車の残骸が目に入る。
壁に激突して大破した様だ。
――どういう事だ?
アレに乗っていたのだから死んでなくてはおかしい。
だが、ここにいる。
丸っきりの無傷で。
何故…!?
あの時の声――
ユウトの声だった。
いつもとはまるで違う声だったが、ユウトの声だ。
間違いない!
そしてあの姿――
フィカスは声と共に現れた美しい少年を思い出す。
白銀髪に金色の瞳
色は違うがユウトだった――
「――コレは一体どういうことです?
説明頂けますか?」
不意に背後から話し掛けられる。
振り向くと、男が二人立っている。
彼等の後ろに彼等が乗って来たであろう車も停まっている。
「…『組織』の方ですね。
どうやら私は事故を起こした様です」
「ソレは見て分かります。
事故車があの状況で運転手のあなたが生きている理由を聞いています」
「私にも分かりませんので、説明のしようがありません。
強いて言えば『奇跡』が起こった様だという事だけです」
「ご自分の『力』を使って助かったのでは?」
「私にその種の『力』はありません。
私に出来るのは攻撃だけ。
ナイト様もです。
ですから『奇跡』だとしか言えないのです」
「――この事、『審議』に掛けます」
「存分にどうぞ。
事故処理の方、お願いします」
そう言って歩き出すフィカス。
「ま、待って下さい!
駅前マンションまでは随分距離があります!
お送りしますよ?」
「結構です。
では。
―――ッ!?」
フィカスは歩き出して直ぐに立ち止まってしまった。
「―――?
どうかされました?」
「…いえ」
そう答えてまた歩き出すフィカス。
平静を装っているが実は動揺している。
『組織』の人達には何も聞こえなかった様だ。
自分にだけ聞こえた声にフィカスは心臓が高鳴っている。
ハッキリと聞こえた。
ユウトのいつもの声だった。
少し揶揄う様な、でも優しさに溢れた声で言ったのだ。
『まったく‥‥
完璧なのに、たまにドジっ子だよね…
フィカスさんも…』
顔面蒼白だったフィカスの頬が熱を持つ――
スピードが出過ぎていて修正出来ない
壁が迫る
きっと『一瞬の出来事』なのだろう
が――
スローモーションの様だ
これは――
ダメだろう
体は随分強い方だが
これでは助からないだろう
幸いだったのは
豪雨の夜の田舎道に人気は無く
誰も巻き添えにせずに済んだ事だ
ナイト様の中和剤たる私が死んでも『組織』はすぐに別の者を派遣するだろう。
残念だ。
ナイト様を殺すのもナイト様に殺されるのも
私が務めてあげたかった
可哀想な御方だ
生まれる前から命を狙われていた
大人のエゴの責任を何故子供が取らされるのか
常に薄氷を踏む様な不安定な幼少期
ナイト様は心を持たない美しい人形の様だった
――まぁ、私も似た様なものだったが
それでも9才までは
『守る』役割を命じられるまでは
私は比較的普通の子供でいられたのだから
ナイト様よりは格段に恵まれていたと思う――
ユウト
君に出会えて
私もナイト様も変わった
人間らしさが芽生え
育ち
あたたかい
幸せを知った
ありがとう――
衝撃は感じなかった
光――金色の
美しく優しい光に
包まれて
満たされる
あたたかい
これが『死』か?
『死』とはこんなにも幸福なものだったのか――
―――?
私は
知っている?
この美しい金色を
見た――どこで?
‥ハッ!!
ユウトの瞳…!!
【――あれ?
思い出しちゃうんだ】
‥ッッ!?
「ユウトッ!?
‥ハッ!?」
ザーーーーーーッ…
ザーーーーーーッ…
ザーーーーーーッ…
「‥‥え!?」
降り続く雨の中、フィカスは道端に立っている。
ハッと我に返って視線を動かせば少し先に車――
フィカスが運転していた車の残骸が目に入る。
壁に激突して大破した様だ。
――どういう事だ?
アレに乗っていたのだから死んでなくてはおかしい。
だが、ここにいる。
丸っきりの無傷で。
何故…!?
あの時の声――
ユウトの声だった。
いつもとはまるで違う声だったが、ユウトの声だ。
間違いない!
そしてあの姿――
フィカスは声と共に現れた美しい少年を思い出す。
白銀髪に金色の瞳
色は違うがユウトだった――
「――コレは一体どういうことです?
説明頂けますか?」
不意に背後から話し掛けられる。
振り向くと、男が二人立っている。
彼等の後ろに彼等が乗って来たであろう車も停まっている。
「…『組織』の方ですね。
どうやら私は事故を起こした様です」
「ソレは見て分かります。
事故車があの状況で運転手のあなたが生きている理由を聞いています」
「私にも分かりませんので、説明のしようがありません。
強いて言えば『奇跡』が起こった様だという事だけです」
「ご自分の『力』を使って助かったのでは?」
「私にその種の『力』はありません。
私に出来るのは攻撃だけ。
ナイト様もです。
ですから『奇跡』だとしか言えないのです」
「――この事、『審議』に掛けます」
「存分にどうぞ。
事故処理の方、お願いします」
そう言って歩き出すフィカス。
「ま、待って下さい!
駅前マンションまでは随分距離があります!
お送りしますよ?」
「結構です。
では。
―――ッ!?」
フィカスは歩き出して直ぐに立ち止まってしまった。
「―――?
どうかされました?」
「…いえ」
そう答えてまた歩き出すフィカス。
平静を装っているが実は動揺している。
『組織』の人達には何も聞こえなかった様だ。
自分にだけ聞こえた声にフィカスは心臓が高鳴っている。
ハッキリと聞こえた。
ユウトのいつもの声だった。
少し揶揄う様な、でも優しさに溢れた声で言ったのだ。
『まったく‥‥
完璧なのに、たまにドジっ子だよね…
フィカスさんも…』
顔面蒼白だったフィカスの頬が熱を持つ――
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