暫定アイドル☆ゆーとりん!―少年は愛の為に覚醒する―

ハートリオ

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70 プンプン雨宿り

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マンションを出たユウトは――

プンプンしていた!


エレベーターの中で涙を拭って、足早にエントランスを抜けて、土曜日の夜を迎えようと騒めく駅前の通りを歩いている内に無性に腹が立って来たッ!


何か、カップルばっかじゃん!


皆やたらイチャイチャし過ぎ!


家でやれッッ!




――違うよね。


八つ当たりしてゴメンナサイ!――僕が頭に来てるのはナイト…

ナイトのあの、突き放したような言い方!

何もさ、『気持ち悪い』までいう事無いじゃん!?

思うのは自由だよ?

あの、アレと一緒だよね?

年頃女子が父親を嫌う作用。

近親相姦を避けるために遺伝子に刻まれた命令?的なヤツ。

同性愛に嫌悪感感じるのもきっと、遺伝子か何かに書いてあるんでしょ?

繁殖を阻害する全てを排除する様に出来ちゃってる、元から。

でもソレって体の話で

心は自由のはず。

ときめいてしまった心を『気持ち悪い』はないじゃん!

ナイトのバカ!

そう思ってしまうのはしょうがないけどさ、

心の中だけでお願いします!

大体、それを聞いて傷つく人がいるって気付かないかな!?

…気付いてないんだな

ナイトは本当は優しいから気付いてたら言わない。

てか、気付けよ!

気付かな過ぎ!

他人に興味無さ過ぎなんだよッ!

ハァ、ハァ‥‥ハッ?



頭の中でナイトに文句を言いながら早歩きでひたすら歩き続けていたユウト。

ふと足を止める。


――ん?

ここ、どこ?


いつの間にか中心街を離れ、店の見当たらない場所に来ていた。

背の低いビルが立ち並んでいるけど灯りは灯っておらずお店ではない。

駅前の高級マンションと学校、その途中のダンス練習場の小ビル。

駅前商店街と商店街の先の○☆スーパー。

それぐらいしか知らないユウト。

全然行動範囲外の場所に足を踏み入れてしまった。

でも。

グルリと上方を見回せば駅前の背の高いマンションが見える。

あそこを目指せば――

って違うし!

もうあそこには戻らない!

‥‥戻れない‥‥

何だか告白めいた事を言ってしまってもう二度と顔を合わせられない‥‥

その、自分の気持ちが恋愛感情かどうかは別にして、間違いなく好意を持ってきた相手に『気持ち悪い』と思われるのは辛過ぎる。

それに耐えられるほど僕は強くない‥‥

情けないな‥‥

小さい頃は、大きくなったら一杯強くなるって思ってたのに‥‥

逆にどんどん弱くなっていく様だ‥‥



ポツッ
(ん?)

ポツッ、ポッ、ポッ…
(えぇ!?まさか…)

ザーーーーーーッ…
(嘘~~~~~!!)


突然の大雨!


ど…どこか雨宿り…

でもお店とかないし…

あ!?発見!


細い路地を入った少し先に店らしき灯りを発見したユウト。

違うかもしれないけど一応行ってみると――



「カフェだ!
良かった…」


ギィッ

ババババッ!

(…ひっ!?)


古い洋風の扉を開け店内に入ると、一斉に店内の人達の視線を浴びてしまい…



「‥あ、すみません。
雨で濡れてしまってるんですが――」



もはや濡れ鼠状態。

まぁ、こうなっては今更雨宿りも無いか…

やっぱり出ようと思った時、


ふぁさっ…


モコモコのタオルが掛けられて。



「まぁ、可哀想に。
ずぶ濡れじゃない。
大丈夫?
風邪なんかひいたら大変よ?」



お店の人が優しく髪を拭いてくれる。


(あ、もしかしてゲイの人かな?
日本でゲイの人に会うの初めてかも。
やっぱ優しい。
世界共通だね!)
「ありがとうございま‥」

「さ、入って入って。
どうぞ、ここ座って。
寒くない?
服も着替える?」

「いえ、大丈夫で‥」

「これ、あちらのお客様からよ」

「‥‥え?」



別の店員さんがとってもオサレなココア?を出してくれながら店の奥を手で示す。

見ると衝立から顔を覗かせた30代ぐらいの男性が軽く手を上げウインクした。

日本人の30代男性はあまりしない仕草だと思いながら頭を下げる。


――入り口は小さい店だが、店内は奥に広く、10人ぐらい座っているカウンター席と衝立で不完全に仕切られた半個室みたいなテーブル席がいくつかある。

表は静かな通りだったのに、店内は別世界の様に賑わっていて、『隠れた名店、穴場の店』なのかなと思わせる。



「それとこれはあちらのお客様、これはそちらのお客様、これは~」

「え?は?えぇ?~」



ユウトが案内されたテーブルはあっという間に大量の飲食物で埋め尽くされる。


(…何かおかしい。
富豪が集まる店で、人に奢るのが当たり前とか?
それにしてもこの量…
まだ何も注文してないのに食べきれないぐらいの飲食物が…
この凄いフルーツ盛りなんか相当高そう…これが8盛りも…まだ来る!?
テーブルに乗り切らず隣のテーブルにも置かれ出したけど…
どうしよう…みんな優しそうでニコニコしてるけど、そう言えば悪い人って最初はそうなんだよね…)


ユウトがとうとう両隣のテーブルまでも埋め尽くした飲食物(主にゴージャスなフルーツ盛り合わせ)を眺めながら青褪めていると――



「…ッ、お、お前ッ!
何やってんだよ!?」



そんな声と共にグイッと腕を乱暴に引かれて立ち上がらされたユウト。



「え‥‥あ!?
君は‥」
「こんな所で何やってる!?」

「何って…雨宿り‥」

「‥ぶぁかッッ!!」

「‥うッ‥」



ユウトの腕を取ったまま鬼の様な形相で『バカ』と怒鳴って来た男。

この男は、ユウトの中学の同級生。

かつてユウトに

『バカが伝染るから話し掛けんな!』

そう言い放った男である――
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