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69 降り出した雨

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「帰ってない!?
ユウト君、帰ってないんですかッ!?」

「ええ、来てないけど
――あら、来るの?
ユウト、帰るって言ってた?」

「え。いえ。
そうではないのですが
――てっきり‥」

「何だ、残念‥‥
あの子、『帰って来い』っていくら電話しても『電車恐いからムリ』とか言って帰って来ないのよ――ねぇフィカス君、時々その車であの子の事連れて来てくれない?
じぃさんも口には出さないけど寂しそうでねぇ。
息子は中学出たらすぐに外国に行っちゃったし、まさか孫も家を出ちゃうと思ってなかったから‥」

「電車が恐い?
ユウト君、電車が恐くて乗れないんですか?」

「え?…ああ、うん。
何か心臓がドキドキして目眩がして吐き気?
とか言ってたけど。
前はそんな事無かったのに、急にどうしたのかしらね?
もしかして、入学式の日、電車で何かあったの?
ナイト君に助けてもらったっていうのは聞いたけど、詳しい内容は話してくれなくてね――ところでフィカス君、ユウトを捜してるの?
あの子、何かあったの?」

「実は、ナイト様と少し言い合いになって、マンションを出て行ったんです。
てっきりこちらに帰っているものとばかり‥
あ、スマホは切ってる様で繋がりません。
いえ、御祖母様はこちらで待機していて下さい。
何らかの方法で帰って来るかも知れませんので」

「分かった!
ユウト見つかったら連絡ちょうだいね?
こっちに来た場合も電話入れるから!
――もう、こんな時に限ってじぃさんは釣り仲間と旅行行っちゃってるし…
あら、フィカス君?
もう行っちゃった…」



(電車が恐い!?
初耳だぞ!?
入学式の朝に上級生に拉致されそうになった事件が原因のPTSDで間違いない…
何で君はそういう事、言ってくれないんだ!?
何で黙って一人で苦しむんだ!?
何で――とにかく今はユウト君を見つけないと!
真っ直ぐ実家に帰っているだろうと思ったからさほど心配してなかったが――)


≪キキッ!≫


フィカスは車を路肩に停めてナイトに電話を掛ける。

どこに行ったのか分からないとあっては、捜す人員を増やした方がいい。

だが――


(ッ、出ない、か
――本当に、
こんな時に!)


スマホを助手席に放るフィカス。

美しい金髪をかき上げ、キッと目を見開くと、車を発進させる。


(…ユウト、本当に!
覚悟してもらうぞ!
見つけたら抱きしめて
メチャメチャに抱きしめて永遠に離さないからな!)


心配で


心配すぎて


乱れる心


今すぐユウトをこの手に抱きしめないと治まりそうにない――


もう後戻り出来ない心を映す碧眼は危険なまでの情熱の炎を燃やして――



「ま、また赤信号!」



だが、人生イチ焦って急いでいる時に限って赤信号に捕まりまくる!


更に――



ポツッ

ポツッ、ポッ、ポッ…

ザーーーーーーッ…


突然の大雨――
土砂降りである!



「‥クッ!」



視界最悪の中――

スピードを出し過ぎたのだろうか

雨でタイヤが滑ったのだろうか



キキキキキキィーッッ

ドグヮッ!!!



フィカスが運転する高級車は塀に激突して―――
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