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66 宣言
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鼻血を噴いて倒れた桧木を救急車に乗せ、丁度ドーナツを持って陣中見舞いにやって来た理事長が付き添い、文化祭ライブラストの曲の音源確認どころではなく、というかナイトとフィカスの眉間に深いシワが刻まれたままで、ユウトは一体何が起こったのか分からず――
ダンス練習場から走り去る救急車のサイレンが小さくなっていくのを聞きながら立ち尽くすユウト、ナイト、フィカス。
「――とにかく帰りましょう。
ユ、ユウト君、髪は乾きましたか?」
とユウトから目を逸らしたフィカスが聞き、
さらに仁王立ちで腕を組み、何故か目を閉じているナイトが
「ふ、服はちゃんと着たか?
薄着はダメだぞ?
すぐ夕方になるからな
風邪を引いたら困る」
と気遣う。
「大丈夫。
あの、二人とも何で」
「行くぞ!」
「帰りましょう!」
土曜日の午後。
街はハロウィン一色で秋色に華やいでいる。
そんな街を、縦一列に並んだ圧倒的静寂の美貌の三人組が足早に歩いて行く。
先頭には『悪魔のポテチ』でパンパンになったエコバッグを両手に持ったナイト。
真ん中に困惑顔のユウト。
しんがりには『これ、持ってって。…よ、良かったらまた食事を一緒に…も、もちろん皆で…』と、甥が変な顔色で救急車に乗っているのだから頬を染めている場合ではないはずの理事長に渡されたドーナツの箱を持ったフィカス。
無言のまま疾風のように歩き去る彼等に、道行く人々は興味津々だが、とても声を掛けられる雰囲気ではなく、
『あれ、なに?』
『何だろう?』
『何だったんだろう』
と、見掛けて見つめて見送るのみ。
エントランスでコンシェルジュ達の幻を見る様な目を一瞬ですり抜け、エレベーターに乗り込むと、6階のフィカスの部屋には寄らず最上階のナイトとユウトの部屋へ。
そして部屋へ着くやいなや――
「――危ない‥‥
私もこちらに移って来ます」
「「‥え!?」」
「よく今まで事故無く来れたものだ‥‥
コホン、ナイト様は他人と暮らせるようになったようですし。
空き部屋に越して来ます。
ベッドは明日入れるとして、今夜はソファに寝ます」
フィカスの突然の同居宣言。
ナイトにお伺いを立てる事も無く決定事項としての宣言で引く気は全く無い様子。
(な、何かフィカスさんのイメージ、変わったよね…柔らかい物腰と佇まいの大人のお兄さんから、強い――怖いぐらい強い男の人に…おバカで子供な僕が迂闊に口をきいていい相手じゃなくなっちゃったみたいな…でも、)
「フィカスさんがソファに寝るなんてダメだよ!
‥‥‥あ、あの、
僕に遠慮せずナイトと寝れば‥」
「「ユウトッ!?」」
ビック~~~ン!
こ、恐い!
整ったフェイスの怒り顔×2、メチャメチャ恐い!!
ナイトが苛つきを隠さず捲し立てる。
「『違う』と言った!
今まで何度も!
何度言えば分かる?
どう言えば分かる!?」
「‥あッ、ご、ごめん
でもさ、二人を見てるとどうしても――何度違うって言われても『お似合いだ』って思っちゃって…だってさ、二人とも絵画から出て来たみたいに綺麗でカッコイイから…だから‥」
「だから?
ユウトは俺とフィカスが恋愛関係になる事を望んでいるのか!?」
「いや、そういうわけじゃないけど、そうでもおかしくないし‥」
「おかしいだろう!
俺はゲイじゃないからな!
男と恋愛関係になるなんて事、絶対無いッ!!
気持ち悪くて、考えられもしないッ!!」
―――ッッ!
‥‥‥‥‥‥
「――そ、そっか…
気持ち悪い…んだ…
ぼ、僕の完全な勘違い
…だね?…ごめん…」
「え――‥ああ‥‥」
シ~~~~~~ン‥‥
「ユウ‥」
「僕、出てくよ」
―――ッッ!?
ナイトとフィカスの時が止まった。
聞き間違え?
そうだ、
そうに違いな…
「もう守ってくれなくていい。
何の『恩返し』か知らないけど、充分過ぎるほどお世話になって来た。
だからもういいから。
――じゃ、あんまり暗くならない内に行くね」
俯いたまま淡々とそう言うと、居間から玄関へ向かうユウト。
ここでやっとナイトとフィカスは思い知る。
聞き間違いじゃないし
――本気だ!
ナイトは咄嗟に玄関ドアの前に立ち塞がる。
フィカスも同じ様に行動したので、背の高い二人が横並びでドアを塞ぐ形になる。
ナイトは混乱して何も言葉が出て来ない。
フィカスが出来るだけ穏やかな声で話し掛ける。
「ユウト君、待って!
ね、落ち着こうか‥」
「落ち着けないよ!」
そう言って顔を上げるユウト。
涙が一すじ頬を伝う。
「「‥ッ!?」」
目を見開くナイトとフィカス。
心臓を掴まれた様に胸が痛い。
ユウトは二人に向かって叫ぶ。
「『気持ち悪い』って言われて落ち着けない!
『気持ち悪い』と思われながら一緒にいるのもムリ!
僕は…僕は自分がゲイじゃないと言い切れないから!」
ダンス練習場から走り去る救急車のサイレンが小さくなっていくのを聞きながら立ち尽くすユウト、ナイト、フィカス。
「――とにかく帰りましょう。
ユ、ユウト君、髪は乾きましたか?」
とユウトから目を逸らしたフィカスが聞き、
さらに仁王立ちで腕を組み、何故か目を閉じているナイトが
「ふ、服はちゃんと着たか?
薄着はダメだぞ?
すぐ夕方になるからな
風邪を引いたら困る」
と気遣う。
「大丈夫。
あの、二人とも何で」
「行くぞ!」
「帰りましょう!」
土曜日の午後。
街はハロウィン一色で秋色に華やいでいる。
そんな街を、縦一列に並んだ圧倒的静寂の美貌の三人組が足早に歩いて行く。
先頭には『悪魔のポテチ』でパンパンになったエコバッグを両手に持ったナイト。
真ん中に困惑顔のユウト。
しんがりには『これ、持ってって。…よ、良かったらまた食事を一緒に…も、もちろん皆で…』と、甥が変な顔色で救急車に乗っているのだから頬を染めている場合ではないはずの理事長に渡されたドーナツの箱を持ったフィカス。
無言のまま疾風のように歩き去る彼等に、道行く人々は興味津々だが、とても声を掛けられる雰囲気ではなく、
『あれ、なに?』
『何だろう?』
『何だったんだろう』
と、見掛けて見つめて見送るのみ。
エントランスでコンシェルジュ達の幻を見る様な目を一瞬ですり抜け、エレベーターに乗り込むと、6階のフィカスの部屋には寄らず最上階のナイトとユウトの部屋へ。
そして部屋へ着くやいなや――
「――危ない‥‥
私もこちらに移って来ます」
「「‥え!?」」
「よく今まで事故無く来れたものだ‥‥
コホン、ナイト様は他人と暮らせるようになったようですし。
空き部屋に越して来ます。
ベッドは明日入れるとして、今夜はソファに寝ます」
フィカスの突然の同居宣言。
ナイトにお伺いを立てる事も無く決定事項としての宣言で引く気は全く無い様子。
(な、何かフィカスさんのイメージ、変わったよね…柔らかい物腰と佇まいの大人のお兄さんから、強い――怖いぐらい強い男の人に…おバカで子供な僕が迂闊に口をきいていい相手じゃなくなっちゃったみたいな…でも、)
「フィカスさんがソファに寝るなんてダメだよ!
‥‥‥あ、あの、
僕に遠慮せずナイトと寝れば‥」
「「ユウトッ!?」」
ビック~~~ン!
こ、恐い!
整ったフェイスの怒り顔×2、メチャメチャ恐い!!
ナイトが苛つきを隠さず捲し立てる。
「『違う』と言った!
今まで何度も!
何度言えば分かる?
どう言えば分かる!?」
「‥あッ、ご、ごめん
でもさ、二人を見てるとどうしても――何度違うって言われても『お似合いだ』って思っちゃって…だってさ、二人とも絵画から出て来たみたいに綺麗でカッコイイから…だから‥」
「だから?
ユウトは俺とフィカスが恋愛関係になる事を望んでいるのか!?」
「いや、そういうわけじゃないけど、そうでもおかしくないし‥」
「おかしいだろう!
俺はゲイじゃないからな!
男と恋愛関係になるなんて事、絶対無いッ!!
気持ち悪くて、考えられもしないッ!!」
―――ッッ!
‥‥‥‥‥‥
「――そ、そっか…
気持ち悪い…んだ…
ぼ、僕の完全な勘違い
…だね?…ごめん…」
「え――‥ああ‥‥」
シ~~~~~~ン‥‥
「ユウ‥」
「僕、出てくよ」
―――ッッ!?
ナイトとフィカスの時が止まった。
聞き間違え?
そうだ、
そうに違いな…
「もう守ってくれなくていい。
何の『恩返し』か知らないけど、充分過ぎるほどお世話になって来た。
だからもういいから。
――じゃ、あんまり暗くならない内に行くね」
俯いたまま淡々とそう言うと、居間から玄関へ向かうユウト。
ここでやっとナイトとフィカスは思い知る。
聞き間違いじゃないし
――本気だ!
ナイトは咄嗟に玄関ドアの前に立ち塞がる。
フィカスも同じ様に行動したので、背の高い二人が横並びでドアを塞ぐ形になる。
ナイトは混乱して何も言葉が出て来ない。
フィカスが出来るだけ穏やかな声で話し掛ける。
「ユウト君、待って!
ね、落ち着こうか‥」
「落ち着けないよ!」
そう言って顔を上げるユウト。
涙が一すじ頬を伝う。
「「‥ッ!?」」
目を見開くナイトとフィカス。
心臓を掴まれた様に胸が痛い。
ユウトは二人に向かって叫ぶ。
「『気持ち悪い』って言われて落ち着けない!
『気持ち悪い』と思われながら一緒にいるのもムリ!
僕は…僕は自分がゲイじゃないと言い切れないから!」
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