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64 文化祭ライブ直前の日々
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小出毬がダンス練習場に来なくなった。
『もう振り付けの変更は無いし、衣装も一着は既にジャージを付け足し、その後試着してバッチリ、もう一着はマリエだし、しかもダボッとしたデザインでサイズフリーなヤツだから手直しの必要も無いから、後は八桐君がダンス自主練でもして完成度を上げるぐらいでいいと思イマス』
――と言っているらしい。
桧木は焦っている。
南都樫の誘惑について問い詰めても『恐い、ムリ、死んじゃう』しか言わない。
じゃあ金髪の方を‥と言い掛けたところで大号泣し始め、話にならなくなった。
落ち着いてからどういう事か訊いても、本人も分からないらしい。
『富クンとデートしたいよ?でも恐くてダメなのもうあの三人には関わりたくない』
――使えない!
イライラしながらダンス練習場に行けば、ユウトが一生懸命練習している。
これも桧木にとって意外な事だ。
ユウトがダンスの練習を頑張るのは小出毬の為だと思っていた。
だから小出毬が来なければユウトも練習に来ないだろうと思っていたのに…
小出毬が居ようが居まいがちゃんと練習してる。
しかも小出毬にアレコレ中断されない分、いい感じで練習出来ていて。
(可愛い…美しい…
一生見ていられる…)
「あ、桧木先輩、お疲れ様です!
生徒会の方はいいんですか?」
「お疲れ、ユウト君。
生徒会の方は新副会長に任せて来たから心配無いよ。
随分いい感じに仕上がってるね!
もう練習は充分だろう。
ちょっと最後の曲――理事長のリクエスト曲の音源持って来たから聴いて欲しいんだけどいいかな?」
「はい、大丈夫です。
やっと見つかったんですか?」
「そう、やっとね。
まぁ、『クラシックっぽい曲でダンスは無し、突っ立って口パクするだけだ』って事だからここまで待てたけど、本当ギリギリで申し訳ない」
最後の曲は理事長が是非ユウトに口パクして欲しい曲があるとの事で。
『昔聴いた曲だけど曲名とか細かい事が分からないので探しておく』と5月頃に言っていて、ライブ直前の10月にやっと見つかったワケだ。
「じゃ3階で聴こう。
それにしても凄い汗だ
シャワーで流した方がいいと思うけど…
ここでシャワー使うの嫌なんだっけ?」
「あ!いえ!
出来れば使いたいです
――あの、以前断ったのは、小出毬ちゃんが使っていたからで、彼女が使う前でも後でも僕が使うの嫌だと…そ、そんな感じだったので…
今日はいないのだから僕が使っても大丈夫ですよね?
使わせてもらえると嬉しいです…」
「「‥!!」」
その場に居るフィカスと桧木は気付いた。
ユウトがどんなに汗だくになっても頑なに練習場でシャワーしなかったのは小出毬に遠慮していたのか!
というか、小出毬に嫌だと言われたんだな。
そこは言わず『家が近いから大丈夫』と笑って、今まで一度も使わなかった。
我慢していたんだ…
小出毬なんか指導しているだけで本人はほとんど体を動かしてないんだから大して汗なんかかいてないはずなのに毎回長々とシャワータイムを取っていたな。
あのクソ女‥‥
「…何だか不便かけていた様で済まなかったね。
もっと早くに気付けていたら良かったんだが…
どうぞどうぞ、何なら湯船にお湯を張ろうか?」
「いえ大丈夫です。
じゃ、使わせて頂きます♪
あ、でもお待たせしちゃって大丈夫ですか?」
「もちろん。
ゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます♪」
((嬉しそうだ‥‥
‥‥可愛い))
いそいそと3階の風呂場へ向かうユウトをほっこりしながら見送るフィカスと桧木。
桧木はハッと我に返り緊張しながらフィカスに話し掛ける。
(*何故か叔父のせいか分からないが桧木はフィカスに対して異様に緊張する様になってしまっている)
「わ、我々も3階で待ちましょう…か?」
「ああ。
その手に持っているのが音源?」
「そそそうです。
古いDVDなんですが、も、問題無く聴けます。
あ、ドア開けます」
2階から3階に上がるだけで体重が3キロは落ちたんじゃないかと感じながら桧木は冷蔵庫から飲み物を出して来る。
「よかったら‥」
「要らない」
速い。
お断りが速すぎる。
チラ。
長い足を優雅に組んでソファに悠々と腰かける姿はヨーロッパとかの王侯貴族の様である。
ペットボトルの紅茶はお口に合わないのかもしれない‥‥
「あ…そ、そう言えば
珍しく南都樫君は居ないのですね?」
やっとナイトの不在に気付いた桧木。
そう、ナイトが居ないなんて珍しい事だ。
「コンビニにお菓子を買いに行っている。
ユウト君の好きなお菓子がここには無い」
「…えッ!?
『悪魔のポテチ』ですよね?
用意しておいたはずだけど…」
最近ユウトは『悪魔のポテチ』にハマっている。
食べ始めてしまったら最後、一袋食べきるまで何があっても絶対手が止まらないという恐ろしく美味しいポテチである。
桧木はしっかりとユウトの好みを把握してバッチリ飲食物を用意しているのだが。
「おかしいな、この棚に‥‥ハッ!?」
『悪魔のポテチ』を大量に収納していた棚に付け爪が落ちている。
言わずと知れた小出毬の付け爪だ。
小出毬もう出禁だッ!
せっかくユウトの為に用意したお菓子を根こそぎ食われてご立腹の桧木。
だが‥‥
そもそも、ライブが終わってしまえば、もうここにユウトが来る事は無くなる。
お菓子は必要無くなるし、ユウトとの特別な時間自体が無くなってしまうのだ。
目を背けていた現実。
それを突き付けられて――
(会える時間が激減してしまう‥‥嫌だ‥‥今だって全然足りないのに‥‥特別な関係なら‥‥そうすればもっと会えるんだ‥‥しかも二人っきりで‥‥)
ユウトと今すぐ特別な関係にならなければならない。
でも、どうやって?
やっぱり先ずは黒・金長身イケメンズが邪魔なんだよな。
でも、どうやって排除できる?
小出毬は使い物にならなくなってしまったし‥‥
桧木が堂々巡りに陥っていると≪ドンッ≫と音がして、ナイトが入って来た。
「…南都樫君、どーゆードアの開け方すればそんな音‥」
「ユウトは?」
速い。
シカトからの詰問の様な質問が速すぎる――
『もう振り付けの変更は無いし、衣装も一着は既にジャージを付け足し、その後試着してバッチリ、もう一着はマリエだし、しかもダボッとしたデザインでサイズフリーなヤツだから手直しの必要も無いから、後は八桐君がダンス自主練でもして完成度を上げるぐらいでいいと思イマス』
――と言っているらしい。
桧木は焦っている。
南都樫の誘惑について問い詰めても『恐い、ムリ、死んじゃう』しか言わない。
じゃあ金髪の方を‥と言い掛けたところで大号泣し始め、話にならなくなった。
落ち着いてからどういう事か訊いても、本人も分からないらしい。
『富クンとデートしたいよ?でも恐くてダメなのもうあの三人には関わりたくない』
――使えない!
イライラしながらダンス練習場に行けば、ユウトが一生懸命練習している。
これも桧木にとって意外な事だ。
ユウトがダンスの練習を頑張るのは小出毬の為だと思っていた。
だから小出毬が来なければユウトも練習に来ないだろうと思っていたのに…
小出毬が居ようが居まいがちゃんと練習してる。
しかも小出毬にアレコレ中断されない分、いい感じで練習出来ていて。
(可愛い…美しい…
一生見ていられる…)
「あ、桧木先輩、お疲れ様です!
生徒会の方はいいんですか?」
「お疲れ、ユウト君。
生徒会の方は新副会長に任せて来たから心配無いよ。
随分いい感じに仕上がってるね!
もう練習は充分だろう。
ちょっと最後の曲――理事長のリクエスト曲の音源持って来たから聴いて欲しいんだけどいいかな?」
「はい、大丈夫です。
やっと見つかったんですか?」
「そう、やっとね。
まぁ、『クラシックっぽい曲でダンスは無し、突っ立って口パクするだけだ』って事だからここまで待てたけど、本当ギリギリで申し訳ない」
最後の曲は理事長が是非ユウトに口パクして欲しい曲があるとの事で。
『昔聴いた曲だけど曲名とか細かい事が分からないので探しておく』と5月頃に言っていて、ライブ直前の10月にやっと見つかったワケだ。
「じゃ3階で聴こう。
それにしても凄い汗だ
シャワーで流した方がいいと思うけど…
ここでシャワー使うの嫌なんだっけ?」
「あ!いえ!
出来れば使いたいです
――あの、以前断ったのは、小出毬ちゃんが使っていたからで、彼女が使う前でも後でも僕が使うの嫌だと…そ、そんな感じだったので…
今日はいないのだから僕が使っても大丈夫ですよね?
使わせてもらえると嬉しいです…」
「「‥!!」」
その場に居るフィカスと桧木は気付いた。
ユウトがどんなに汗だくになっても頑なに練習場でシャワーしなかったのは小出毬に遠慮していたのか!
というか、小出毬に嫌だと言われたんだな。
そこは言わず『家が近いから大丈夫』と笑って、今まで一度も使わなかった。
我慢していたんだ…
小出毬なんか指導しているだけで本人はほとんど体を動かしてないんだから大して汗なんかかいてないはずなのに毎回長々とシャワータイムを取っていたな。
あのクソ女‥‥
「…何だか不便かけていた様で済まなかったね。
もっと早くに気付けていたら良かったんだが…
どうぞどうぞ、何なら湯船にお湯を張ろうか?」
「いえ大丈夫です。
じゃ、使わせて頂きます♪
あ、でもお待たせしちゃって大丈夫ですか?」
「もちろん。
ゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます♪」
((嬉しそうだ‥‥
‥‥可愛い))
いそいそと3階の風呂場へ向かうユウトをほっこりしながら見送るフィカスと桧木。
桧木はハッと我に返り緊張しながらフィカスに話し掛ける。
(*何故か叔父のせいか分からないが桧木はフィカスに対して異様に緊張する様になってしまっている)
「わ、我々も3階で待ちましょう…か?」
「ああ。
その手に持っているのが音源?」
「そそそうです。
古いDVDなんですが、も、問題無く聴けます。
あ、ドア開けます」
2階から3階に上がるだけで体重が3キロは落ちたんじゃないかと感じながら桧木は冷蔵庫から飲み物を出して来る。
「よかったら‥」
「要らない」
速い。
お断りが速すぎる。
チラ。
長い足を優雅に組んでソファに悠々と腰かける姿はヨーロッパとかの王侯貴族の様である。
ペットボトルの紅茶はお口に合わないのかもしれない‥‥
「あ…そ、そう言えば
珍しく南都樫君は居ないのですね?」
やっとナイトの不在に気付いた桧木。
そう、ナイトが居ないなんて珍しい事だ。
「コンビニにお菓子を買いに行っている。
ユウト君の好きなお菓子がここには無い」
「…えッ!?
『悪魔のポテチ』ですよね?
用意しておいたはずだけど…」
最近ユウトは『悪魔のポテチ』にハマっている。
食べ始めてしまったら最後、一袋食べきるまで何があっても絶対手が止まらないという恐ろしく美味しいポテチである。
桧木はしっかりとユウトの好みを把握してバッチリ飲食物を用意しているのだが。
「おかしいな、この棚に‥‥ハッ!?」
『悪魔のポテチ』を大量に収納していた棚に付け爪が落ちている。
言わずと知れた小出毬の付け爪だ。
小出毬もう出禁だッ!
せっかくユウトの為に用意したお菓子を根こそぎ食われてご立腹の桧木。
だが‥‥
そもそも、ライブが終わってしまえば、もうここにユウトが来る事は無くなる。
お菓子は必要無くなるし、ユウトとの特別な時間自体が無くなってしまうのだ。
目を背けていた現実。
それを突き付けられて――
(会える時間が激減してしまう‥‥嫌だ‥‥今だって全然足りないのに‥‥特別な関係なら‥‥そうすればもっと会えるんだ‥‥しかも二人っきりで‥‥)
ユウトと今すぐ特別な関係にならなければならない。
でも、どうやって?
やっぱり先ずは黒・金長身イケメンズが邪魔なんだよな。
でも、どうやって排除できる?
小出毬は使い物にならなくなってしまったし‥‥
桧木が堂々巡りに陥っていると≪ドンッ≫と音がして、ナイトが入って来た。
「…南都樫君、どーゆードアの開け方すればそんな音‥」
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速い。
シカトからの詰問の様な質問が速すぎる――
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