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63 想定外

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効果音ミュージック、スタート!


♪~~♪♪~♪~♪♪

タンッ、タタンッ!


小出毬はクラシック音楽を流して、バレエ的なダンスを始める。

バレエの経験は無い。

別にヘタクソでいい。

扉を開けた男が全裸で踊る小出毬に驚き、釘付けになればいいのだ。


(そろそろ来るよね。
南都樫が。
富クンてマジ頭いい!
夜にユウトを呼び出せば、代わりに南都樫が来るはずだって教えてくれた。
南都樫を誘惑出来たら、富クンデートしてくれるって約束してくれた!
毬、頑張っちゃうんだから!)


ギィッ


ダンス練習場の重い扉が開く音がする。


(‥来た!
でも焦っちゃダメ!
気付かないフリ‥)


パッ!


間接照明だけで仄暗かった練習場のメイン照明、LEDシーリングライトが点けられ、『仄暗い灯りの中浮かび上がる蠱惑的な肉体』という演出は瞬時に終わりを告げた。

まさかメイン電気を点けられてしまうとは思っていなかった小出毬は焦る!

いくらなんでも、明るい電気のもと全裸を晒すなんてあり得ないし!



「キャッ!?やだッ!
電気消してよ!エッチ
――――ハッ!?」



扉に立つ長身の男。

それは予想を裏切り、金髪の方だ。

ボーゼンと突っ立ったままの小出毬に、フィカスが忌々しそうに問う。



「他人を呼び出しておいて出迎えもせず自宅の風呂でも温泉でもない場所でくつろぎ過ぎな格好で踊りほうけているとは呆れる。
コレがお前が要求したブルーレイで間違いないな?」



右手でブルーレイを差し出している。


小出毬は恐怖でゾッとする。

何が恐いって、フィカスが普通だからだ。


全裸の美少女を前にして動揺しない男がいるはずない――という小出毬の常識が吹き飛ばされた。


小出毬の自信の源は、自分が男にとって魅力的な女だという事。

若くて可愛くてナイスバディ――女としてハイレベルの自分は、どんな男にだって望まれる存在――

だからこそ男達は小出毬をチヤホヤして来るし、小出毬はそんな男達を下の存在として好きにして良かった。

ワガママ言おうが、傷つけようが――


なのに今小出毬に向かってブルーレイを突き出している男は、小出毬が美少女でさらに全裸だというのに何事も無い表情で態度で空気で――


男に対して絶対優位に立てるはずの全裸というカードが何の意味も成してない!?


想定外の事態にパニックになる小出毬。

なんなら金髪の方だって手玉に取ってみせるとか思ってたけど、今はよく分かる。


そんなの絶対、ムリッ


手早く脱ぎ捨ててあった黒ラメのタンクトップドレスを着ると、何事もなかったかのように引きつった笑顔を作り、やけにトーンの高い声で答える。



「あ、そうです!
どうもです!
あの、執事さんが来ると思ってませんでしたので、ビックリしちゃって、エヘ」



相手にとって自分が無力だと悟った小出毬。

いつもの傲慢さはどこにも無い。

女としての威力がゼロと分かった今、子供としての威力に頼るしかない小出毬。


お、大人なんだからさぁ、子供に優しくしてよね!ネッ?


小学生の時以来の話し方で、ヘコヘコしながらフィカスに近付き、ブルーレイを受け取ろうと手を伸ばす。

が?

小出毬がブルーレイを掴む前に、ブルーレイは床に落ちる。

フィカスがブルーレイを離したからだ。

さらに。


バキッッ


踏んだ!?


ビックリしてフィカスの足の下のバッキリ割れたブルーレイを見つめる小出毬。

ボーゼンとして頭が働かない。

この人、何でブルーレイを割ったんだろう‥‥ハッ!――お、怒ってる!?



「誰が来ると思った?」

「え…南都樫…ハッ!
いえ、当然ユウトく」
「馴れ馴れしく呼ぶな」

「‥あっ?、ははい、
八桐君が来ると‥」
「それで全裸か」

「…ッい、いえ、
あの、あの、あ‥」



困り果てて顔を上げた小出毬は、『ヒィッ!?』と叫び後ろに飛んだ!

そのまま床に尻もちをつき、その姿勢のまま無様に後ずさる!

もう腰が抜けているのか立って逃げられない様だ。


『ゴメンナサイゴメンナサイ助ケテゴメンナサイ許シテ助ケテゴメンナサイ』と唱える様に口にし続ける小出毬はいつもの嘘泣きとは違う本当の涙をボロボロこぼし、失禁している。


小出毬は見たのだ!

フィカスの美しい碧眼が銀色に光るのを――

それはこの世のものとは思えないほど美しく、恐ろしく――


(に、に、人間じゃない?――人間じゃないッ!)


もう怖くて目を開けられない小出毬の耳に、威圧するような声が響く。



「ユウト君やナイト様に手を出したら――
代償に命をもらう。
もちろん、楽に死なせてはやらない」








その後どうなったのか

朝まで昏倒していた小出毬には目が覚めた時何も記憶が無く。


ただ一つ。


もうあの三人には関わりたくない!


それだけがハッキリとしている――
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