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61 誘惑

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10月某日、文化祭ライブまで残り一ヶ月を切っている。

小出毬の態度の悪さのせいで一ヶ月休止していた事もあって遅れていたダンスレッスンは今最後の追い込みである。

これまで火・金だけだったダンスの練習は月・水・金・土と週4に増えた。


――と言っても、ゴールは見えていて、桧木としては既に一段落ついている。

だから欲が出て来たのか?

桧木はユウトとの距離をもっと縮めたいという気持ちを抑えられなくなった。

だが、それを実現する為には邪魔過ぎる存在がいる。

あの二人を何とかユウトから遠ざけられないか――






「あの背の高いイケメンの黒髪の方」

「あ、うん。
毬ね、ビックリしちゃった。
異世界の人みたいなんだもん。
中学では別のクラスだったし、すごく近寄りがたい感じだったから近くで見た事無かったんだけどホントヤバいね!
凄いイケメンでスタイル抜群で完璧すぎてまるで作り物、ゲームのキャラみたい!
目の前に居ても現実感が無いって言うか…映像見てるみたいな気になる。
金髪イケメンも!」

「そう、現実離れした美形だけど南都樫はユウト君や毬と同じ高1、16才だ。
(*ユウトもナイトも少し前に16才になっている)
とてもそうは見えないがまだまだ子供…思春期の16才男子でしかない。
とにかく、金髪は24才で大人だから無理だろうけど、16才男子なら――
毬なら簡単に誘惑出来るんじゃないか?」



そう言って含み笑いする桧木に、小出毬は唇――今日はメイクでぽってり感を強調した唇を『ん~~~』と言いながら軽く突き出し、顔ごと天井を見上げる。

毛先を緩く巻いた髪に縁取られた細い首と自慢のバストが強調される演出だ。



木曜日の夕刻。

ここはダンス練習場のある小ビルの3階。

ダンスの練習はお休み曜日なので、今日ユウト達はここへは来ない。

ソファに座って、桧木と小出毬が話をしている。

桧木が『話がある』と呼び出して、小出毬が飛んで来たのだ。

今日の小出毬は白いワンピース姿。

わざわざ制服から着替えたワンピはシンプルで可愛いデザインだが、体のラインが強調されていて、清楚でありながら蠱惑的だ。

目と唇を強調したメイクも桧木の好みだ。

色を乗せては消し、消しては乗せ、ぼかして、でもぼやけない様に、濃くなりすぎない様に頑張った。


完璧、だと思う‥‥


上げていた顔をゆっくり正面に戻し、キラキラネイルの指先を顎に当て、半ば閉じていた目をゆっくり開けてぼんやりと桧木を見る。

これもお兄ちゃんの好きな仕草。

お兄ちゃんの好み、完璧に知ってるんだから…


そんな小出毬の涙ぐましい努力は桧木にはまるで響いていない。

自分の目的を果たす事にだけ集中している桧木が小出毬に向ける目は、物を見るそれだ。

桧木の目的はただ一つ

ユウトを――

その為に、先ずは邪魔な二人を片付けたい。

叔父を乙女に変えてしまったフィカス相手では小出毬など視界にすら入らないだろう―――だが、南都樫なら?



「ん~~~、分かんないけど、どうかなぁ?
南都樫、毬に興味ない素振りだよ?
前はたまに注意とかされたけど最近は全然話し掛けても来ないし。
――でもポーズかも。
プライド高そうだからさぁ、強がってるだけかもネ。
やせ我慢、っていうの?
毬の方から話し掛けてもらえるの待ってる感じかなぁ?
ふふっ、多分そう」



小柄で可愛い顔でナイスバディな小出毬はかなりモテる。

フラれた事など(桧木を除いて)一度も無い。

『自分がその気になれば、どんな男だって落とせる』ぐらいの自信はある。

そう、その気になれば、金髪の方だって‥‥



「で、誘惑って?
夢中にさせればいいの?
どこまで?
寝ればいい?
やってもいいけど…
――毬ね、ご褒美欲しいかな」



小出毬の目がキラリと光り、元・兄に対してねっとりとした視線を送る。

いつもゴミを見る様な目で見て来る桧木が低姿勢で『お願い』をして来た今が小出毬の願いを叶えるチャンス!

この機会、逃さない!


ユウトの事を考えていて目の前の存在を忘れていた桧木は夢から醒めた様に元・妹を見る。

その視線は顔ではない場所に誘導される。

対面のソファに座っている小出毬がワンピースのスカートをめくり上げ太腿――下着まで見せているのだ。



「お兄ちゃん…
富クン…お願い…
富クンが好きなの」



縋る様な視線で元・兄を見詰める小出毬。

半開きの口から熱い息が乱れ出ている。



「お願い…ハァ、
来て…毬ね、
富クンが欲しいの…
どうしようもないの」



そう言いながら体を長ソファに横たえ、自ら紐パンの紐を解き、下着を剥ぎ取る。


開いた下半身に手をやり、目と耳でもう準備が出来ている事を見せつける小出毬。


桧木は元・妹の痴態を眺めながら心の中で舌打ちする。



――淫売クソが!――
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