暫定アイドル☆ゆーとりん!―少年は愛の為に覚醒する―

ハートリオ

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60 小出毬の献身

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小出毬はダンスの振り付け、レッスンだけでなく、ライブ衣装も引き受けた。

コスプレにハマっていた時は衣装を手作りしていたし、コスプレ仲間に頼まれてたくさんの衣装を手掛け、みんなに『プロ級、ううん、それ以上』と喜ばれた。

腕に自信が有るし、実績も有るのだ。

楽曲は桧木が担当し、7月までには5曲を作り上げた。

曲が出来てからの小出毬はフル回転!

曲に合わせて振り付けを完成させ、ユウトにレッスンを付ける。

同時に曲のイメージに合わせた衣装作り。

振り付けも衣装も女子アイドルを参考にしているのでユウトは青褪める事となる。



「コレ、スカートだよね!?
僕、女装はムリ‥」
「何言ってるの!?
男の子に喜んでもらうんだから女の子の格好に決まってるじゃない!
大丈夫、絶対似合うから!」



勿論似合うだろう。

ユウトは何を着ても天使である。

だが、似合えばいいというものじゃない!

ユウトは男なのだッ!



「~~~~いや、
小出毬ちゃんが何と言おうと、絶対ムリ‥」
「見てよ毬のこの手!
傷だらけだよ!?」
「‥ハッ!」
「ユウトのライブ成功させてあげたいから、こんなにボロボロになって頑張ってるのに…ユウト酷い!…ひっく、毬、一生懸命頑張ってるのに、ひっくひっく…」



嘘である。

今回、小出毬はデザインしただけで、ネットで見つけたデザインを形にしてくれる人に発注して後はお任せだった。

傷なんか無い指に絆創膏を何か所も巻いて『全部私一人でやりました私健気に頑張ってます』アピールしてるだけ。

だが人を疑う事を知らない天使はコロッと騙されて――



「そんなに頑張ってくれてありがとう!
気付かずにごめんね?
‥‥‥そうだね‥‥‥
じゃ、じゃあせめてスカートの下にジャージ着ていい?
スカートと同じ長さにするから」

「ん~~~、
ま、いっか。
じゃさ、薄手のジャージ、最初からスカートの下に付けておく!」

「え?いやいいよ。
中学のジャー‥」

「衣装と素材合わせたいの!
その方が自然でしょ!
いいから、毬に全部任せといてよ!
大変なんだから口出ししないで?
もう何も文句言わないでよ?」



イッラァァァ~~~‥


イケメンズ(ナイトとフィカス)がメチャメチャ苛ついている。

小出毬に我慢がならない。

それでも額に青筋立てながら口出しせずに黙っているのはユウトの為だ。

小出毬がチームに加わった頃は我慢出来ずに意見していたが、そうするとユウトがすごく困った顔をする。

イケメンズと小出毬の両方を気遣い、両方を立てようとして困るユウトが可哀相で、イケメンズは黙る事にしたのだ。

だが、それによってどんどん増長していく小出毬。

いつの間にかユウトを呼び捨てにし、レッスンが上手くいかなければユウトの肩や背中をバシバシ叩く。

レッスンが上手くいかないのは直ぐにアレコレ別のアイデアを試したがり振り付けの変更を繰り返したあげく『分からなくなっちゃった状態』に陥る自分のせいなのに、ユウトのせいにして叩くのだ。

さすがに暴力行為は許せず注意すれば『毬、一生懸命頑張ってるのに酷い』と泣き出す始末。

イケメンズの殺意が本格化してしていく中、ある日を境に小出毬の態度が良くなった。


その日は、生徒会の仕事の為に桧木は練習場に来ない予定だった。

小出毬はまた思い付きでステップの変更をユウトに指示したのに、やってみたら上手くいかなかった事に腹を立てた。

『ステップ変えたらリズム合わなくなっちゃったじゃん!
もー、こーゆー時はさ、自分で気付いて自分で戻してよ!
何でもかんでも毬に頼んないで、自分でちゃんとしてよ!
ホント、バカなんだから!』

と八つ当たりと責任転嫁だけの暴言を叫びながらわざわざジャンプしてユウトの頭をバシッと叩いたところを、丁度ドアを開けて入って来た桧木に見られた。

青褪めた桧木が『問題があるようだからしばらくレッスンは休みにしよう』と言い、その後一ヶ月ダンスレッスンは休みとなり、一ヶ月後レッスンが再開した時には小出毬はすっかり大人しい態度に変わっていた。

小出毬は学校も一ヶ月休んでいたらしい。

桧木が何かしたんだろうが――

小出毬の桧木に対する態度がまるで変わらなかったので、兄として妹に普通に注意したんだろうと思われた。


実際に何が起こったかと言うと。

桧木は激怒し小出毬の顔の形が変わる程ぶん殴った。

その上『絶対許さないお前はクビだ二度と僕の前に顔を出すな!』と言い放ち、小出毬はフラフラ状態ながらも桧木の足に縋りつき、『もうユウトを叩かないし、優しくするからライブを手伝わせて』と泣きながら頼み、毎日電話やメールで謝り続けてやっと一ヶ月後に許され、丁度顔の腫れや変色も治りレッスン再開となったのだ。

そんな事があっても変わらず桧木の姿を目で追い敬愛の眼差しで見つめる小出毬。


小出毬は血の繋がらない元・兄の桧木を愛しているのだ。

その気持ちは殴り倒されても揺るがない。

むしろ『結びつきが強くなった』と勘違いし喜んでいる。


再婚同士だった桧木の父と小出毬の母。

パッと燃え上がって直ぐに冷めた二人の結婚生活は一年にも満たなかった。

だが、その短い間に小出毬は恋に落ちた。

自分に夢中になるだろうと思っていた一つ上の義兄にはその当時彼女が居て小出毬に見向きもしなかった。

『男は全員自分に夢中になるもの』という小出毬の常識を覆した義兄に小出毬はのめり込んだ。

『絶対、夢中にさせてやる!』という意地が、いつの間にか本物になってしまっていた。


母が桧木の父と離婚し会えなくなると想いは制御出来なくなるほど膨らんだ。

毎日何度も電話し、スマホに大量の愛のメッセージを送り付けるもブロックされる様になってしまい、手をこまねいていたところでダンス講師の話を持ちかけられた。

愛する元・兄の気を引く為なら、大嫌いな八桐ユウトにだって優しくして見せる!







「お疲れ様、小出毬ちゃん、今日もありがとう。
もう暗いから送ろうか?」

「お疲れ様、八桐君。
(*桧木にユウトを呼び捨てにする事も禁じられた)
毬、この後友達と遊びに行くから大丈夫。
ここで友達待つから、気にしないで帰って」



可愛らしく微笑みながらそう言った後――

『チッ!うっざ!ユウトのくせに毬を送るとか1000年早いわ!』

と、聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で本心を吐露する小出毬。

小出毬は、態度は改めたものの、こうして小声でユウトを罵る事で鬱憤を晴らす様になった。

『アンタなんかに優しくしてやるの、今だけよ。
お兄ちゃんに言われたから仕方なくよ!
ライブが終わったらもう口もきいてやらないんだから!』



「…そう。分かった。
じゃ、気を付けてね」



そう微笑んでイケメンズと共に練習場を出て行くユウト。

小出毬はスマホを操作していてもう一人の世界だ。

閉まるドアの隙間からそんな小出毬の姿を目に映し、ユウトの瞳が哀し気に揺らぐ。



耳の良いユウトには、小出毬の小声での罵声が全て聞こえているのだ‥‥
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