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56 危うい三人

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裏門から学校を出たユウト達。


帰ろうとする三人に桧木が学校外にダンス練習場を用意したから来てくれと言う。

生徒たちの熱狂ぶりが予想以上で、学校でのダンスレッスンは難しいからと。


桧木に付いて行きながら、ユウトはナイトとフィカスが気になっている。



「…首、大丈夫?」

「首は問題無い。
ユウトの事実誤認が問題だ」

「私は一度ハッキリと『恋人ではありません』と否定しましたが?」

「二人とも、すごく素敵でカッコイイからさ、一緒に居たらお互いそうなるかなぁって思っちゃって…違うんだ?」
「違うッ!」
「違いますッ!」

「そ、そうなんだ、
分かった、ごめん…
でも遠慮しないでね?
僕がお邪魔な時はちゃんと言って‥」
「分かってない!」
「邪魔じゃない!」



ナイトの眉間に深いシワが刻まれ、フィカスの丁寧な言葉遣いが乱れる。


(二人が恋人同士だと思った時、ホッとしたんだけどな…お似合い過ぎて、誰にも入り込めないって…それで心乱される事も無くなったのに…『違う』と否定されてホッとしてる自分もいる…何で?何に?…どうしよう、僕は自分で自分が分からなくなっちゃった)


完全に心が迷子になってしまったユウト。


ナイトはナイトで自分の内に不思議を抱えている。

フィカスと一緒に居ると、同じ様な誤解を受ける事は多かった。

ナイトの背が伸び逞しくなる前は、100%誤解されていた。

だからといってこんな風に、今みたいにムキになって否定する事はなかった。

自分もフィカスもそれで余計な誘惑を回避できたので、むしろ否定せず便利に利用して来た。

だけど今は――ユウトには!

100%誤解を解きたい!

どこかまだ疑っている風のユウトに何とかして分からせたい!

乱れる心に、何故?と思う。

何故ユウトには、ユウトにだけは絶対誤解されたくないのか??

眉間のシワは更に深くなる。


フィカスも複雑を抱えている。

淡白――というより、感情ゼロで生きて来た。

ただ役割を果たすためだけに。

自分でも自分を人間扱いしてなかった。

だから感情なんて無くて当然だった。

――のに?

どうしてユウトは、ユウトだけはいとも簡単に私の感情を乱すのだろう?

まだ完全には納得していない様子のユウト。

分からせたい――どうしても――力尽くででも!

『役割』が無くなれば『無』だと思っていた自分の中にこんなにも熱いモノが滾っている事に戸惑う。

ナイト様が危険な状態にならない様、ユウトを守ると決めたのに、私自身が危険因子になっているのではないか!?

強く握り込んだ拳に更に力が入る。



普通に歩いているのが不思議なほど危うい三人。

まるで綱渡りをしているかの様なギリギリの均衡。

もし風が吹けば――



風は吹くのだろうか――
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