暫定アイドル☆ゆーとりん!―少年は愛の為に覚醒する―

ハートリオ

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52 僕は歌えません!

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事務棟2階。

こじんまりした応接室

ここがユウト達が学ぶ『特別クラス』の教室となる。

絵画等飾られ、教室というよりサロンといった趣だ。

マンツーマン授業の予定だったので黒板やホワイトボード等は無い。

円形の大理石のテーブルの周りに一人掛けソファが円形に並べられている。

その柔らかい革張りのひじ掛け付きのゆったりした一人掛けソファに座り。

ユウトが悲痛な声を上げる。



「だからッ!
イヤです!
ムリです!
ライブなんてあり得ませんッ!
僕は歌えないんですッッ!」

「ああ、君の中学の時の音楽の成績は知っているよ、うん。
音楽は苦手なんだね。
――でもね、音痴だって全然構わないんだよ?
君がステージで歌ってくれさえすれば、皆それだけで嬉しいんだから!
みんな、君が歌って踊っている姿を見たいだけであって、パフォーマンスのクオリティなんて求めていない――君の存在だけが大切なんだからね?」

「たッ…退学します!
ライブなんてムリですから退学‥」
「えッ待って待って!
結論を急がないで!
じゃ、じゃあ、何か方法を考えようよ!
そ、そうだ!
もうすぐお昼だね!
お昼ごはんにしよう!
ごはん食べてからまたゆっくり考えようか?
ね、行こ‥」

≪バシッ!≫
≪ビシッ!≫

「ユウトに触るな!」
「本当に――どさくさに紛れて直ぐに触ろうとする。
油断も隙も無いですね
ユウト様、桧木は危険人物です。
お気を付け下さい!」

「きッ君達はぁぁ!」



‥コン、コン、コン‥


荒れる特別クラスのドアを実に遠慮がちにノックする者がいる。


(…乙女化した叔父上だな…フィカス君を昼食に誘いにでも来たか?…まさかな)


そのまさかである。



「やぁ、やってるね!
え~とコホン、理事長室で昼食を一緒にどうかと思ってね。
あ、君達全員ね、べ、別にフィカス君だけを誘っているワケではないからね!
いや、実は料理を多めに注文してしまったから私一人では食べきれないから。
SDGsの時代に捨てるのもアレだし、うん。
む、無理強いするつもりは毛頭無いのだけど、良かったらなんだけど、
ど、どうかな?」

「見ろフィカス。
借りてきた猫みたいに可愛くなってるぞ。
可愛がってやれ」

「今日のナイト様は変ですね?
使用人にも心があるので、雑な命令はお止めください」

(くッ!
尊敬する叔父上がこんな扱いを…!
そして叔父上、赤い顔でモジモジしてないで、怒って下さいッ!)

「ご迷惑でないなら、ご馳走になります。
フィカスさん、そうしよう?」

「ユウト様、いいのですか?
学食を楽しみにしていたのでは?」

「せっかくだし。
収拾つかないしね?」

「で、では、理事長室にどうぞ!
もう準備は出来ているんだ!
遠慮せずにさぁ!」

「遠‥」
「ナイト!」


『遠慮なんかしていない。仕方ないから付き合ってやるだけだ』と言おうとしたナイトを止め、『はいはい、行こうね?』とナイトの背中を押すユウト。

背中を押されて満更でもない感じのナイト。

素直に移動を始める。

ユウトは複雑な顔をして座ったままのフィカスを振り返り、その腕にそっと手を置き、フィカスの耳元に口を近づけてフィカスにだけ聞こえる様に小声で言う。



「勝手に決めてゴメン
理事長がシツコクする様なら僕がフィカスさんを守るから」

「―――ッッ!?」



驚くフィカス。

ユウトを見る。



――いえ、

『守る』のは私の役割で――



フィカスは9才の時

『守る』役割を命じられた

それからはずっと

『守る』為の存在となった

フィカスは強かったし

守る為に存在するフィカスだから

フィカスを守ろうとする者はいなかった

今までずっと

只の一人も

だから

驚いてしまった



「盾になるから。
僕に任せて」



そう言って

ゆっくり頷いて

ユウトは微笑む



美しく――だが美し過ぎて冷たい印象を与えがちなフィカスの碧い瞳

その碧に火が点る

碧は熱を帯び光を纏う



『守る道具』として存在して来た私を
ユウト様は『人として』見ている――



フィカスは笑顔を返さなければと思う。



――さっきユウト様に笑顔を返された時、凄く嬉しかった。

自分でも驚くほど

だから私も、笑顔を返したい


早く、

笑顔を


早く!



――だけど


もう少し待って



平静を装えるまで



もう少し待って下さい


今はまだ――





君を抱きしめてしまいそうな自分を抑えるのに必死だから―――
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