暫定アイドル☆ゆーとりん!―少年は愛の為に覚醒する―

ハートリオ

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「南都樫君、君の授業はどうする?
君は生徒で、教わる立場だ」



見た目は立派な大人に見えるが、やはり15才。

短絡的思考は子供そのものだと理事長は思う。

たとえ彼が『X系地球人』だとしても、地球人である事に変わりはない。

そしてここは自分の学校で、彼は一生徒でしかないのだ。



「俺に授業を受ける必要は無い。
この高校で教わる分ぐらいは学習済みだ」

「ああ、君は確かに優秀だけど――」

「今年の入試問題」

「分かっているよ。
君は満点だった。
私が一年かけて工夫を重ねて満点も0点も出ない様に試験問題を作ったのにね。
私の予想を上回る程に君は優秀――」

「三ヵ所間違いがある」

「――はぁ!?」



理事長は聞き捨てならなかった!

入試問題作りは理事長にとって芸術を追求する崇高なチャレンジ。

大切な作業であり
大きな楽しみであり
プライドなのだ。

何度も何度も見直して完璧を期した芸術作品に間違いなど有ろうはずが無いッ!

ぶるぶる震えながら喘ぐように何とか聞き取れるぐらいの言葉を発する。



「な、南都樫君、バ、バカな事、言うもんじゃ‥」

「問題用紙を持ってこい。
プライドがどうなってもいいなら教えてやる」

「――ッ!」



理事長の中で何かが切れた様だ。

クワっと目を見開き、憤怒の表情を隠しもせず、座り直していたソファから勢いよく立ち上がる!


(な、何てバカなヤツだ!?
叔父上を怒らせるなんて!)


桧木は青褪める。

粋に和装を着こなす、穏やかで物静かな私立橘高校の理事長。

優し気な見た目に声、柔らかな物腰――それは叔父の本当の姿ではない。

26才の若さで橘家の当主を務めている――橘グループを率いている男なのだ。

豪胆で冷酷。

時に涼しい顔で恐ろしい決断をし、実行する別の顔があるのだ。

怒らせたら恐い男
怒らせてはいけない男

そんな叔父をここまで怒らせるとは――

『命はいらない』と言っている様なもの!

桧木はいざとなればユウトを連れて理事長室から逃げ出そうと身構える。



理事長がナイトに向かって大声を上げる。



「いい加減にし‥」
「どうも。ここが理事長室?」



同時にドアが開き。

颯爽と金髪イケメンが入って来た!



「きゃあ待って!
今、理事長に取り次ぎますから‥」
「もういいよ。
ありがとう。じゃね」
「‥ひゃぁんッ‥」



ドアの向こうにお茶を出してくれた事務員がいたので、ユウトが注目する。


(さっきの可愛い事務員さん――腰から崩れ落ちてる?――フィカスさん、何したの?)
*フィカスは『じゃね』と言いながら軽くウインクしました



「フィカス――
早いな」

「これは失礼を。
お楽しみ中でしたか」

「――でもない」



理事長と桧木がフリーズする中、フィカスは理事長に向かって歩いて行き、『まぁ、座りなよ』と言って両肩を軽く押す。


ぽすんっ


『乙女かーい?』と思うような音を出して理事長がソファに座り、さらにキョトンとする中、フィカスはその対面の一人掛けソファまで風の様に移動すると、ナイトに向かって礼をする。



「ナイト様、失礼して座らせて頂いてよろしいでしょうか?」

「座れ」

「では」



部屋の主ではなく自分の主の許しを得てそこに座る男フィカス。

優雅に組んだ長い足の上に優雅に組んだ美しい手を置く。


と、ユウトに視線を向け、フワリと微笑むので、ユウトも微笑み返す。


(フィカスさんは会ったばかりの人でまだそれ程知ってるワケじゃないけど、何か随分と印象が違う――さすが大人、別の顔を持っているんだね)
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