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46 理事長、何かを見てしまう
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「眼福致しまし――
あッいえッ失礼致しましたッ」
事務の女性がお茶を出してくれた後、中々退室しなかったので理事長が注意し、やっと退室した。
見渡す限り男ばかりの男子校で女性を目撃し、ドアが閉まるまで目で追ってしまうユウト。
(かわいい事務員さんだったな。
そう言えば女の先生は何人いるんだろう‥‥)
事務員が退室した後、緊迫した空気の中、一人高1男子らしいユウト。
ここは理事長室。
ユウト、ナイト、理事長、桧木の4人が校門から移動して来た。
ソファーセットは、長方形のテーブルの長い部分に面した所に長ソファが対面に置かれており、テーブルの短い部分に面した所には一人掛けソファが置かれている。
部屋最奥のゴージャスな一人掛けソファに理事長が座り、
部屋の右側の長ソファに桧木が、その対面、左側の長ソファにユウトとナイトが並んで腰かけている。
事務員の女性が退室してしまって残念そうなユウトに、理事長が口を開く。
「――先ずは八桐君」
「えッ!?あ、は?」
「学校としても君に苦痛を与えてしまった事、心からお詫びする。
本当に申し訳なかった」
そう言って理事長は頭を下げる。
慌てて桧木も『すまなかった!』と頭を下げる。
ユウトは二人を交互に見て口を開く。
「謝って済む問題ではありませんよ?」
「「…!?」」
今日のユウトの様子から、ヘラヘラしながら『大丈夫です』とか言うだろうと思っていた理事長と桧木は予想外の反応に言葉を失う。
「僕はめちゃめちゃラッキーで。
ナイトという激強な友人がいて助けてくれたから今ここでこうして元気にしていられるんです――能天気にね。
でも、誰でもナイトみたいな友人がいるワケじゃない。
アイドルが僕じゃなく別の誰かだったら、その人は先輩たちにサウナで暴行されていたでしょう。
そうなっても謝れば済むと?」
「「…ッ!!」」
「…君の言う通りだ。
謝って済むはず無いが、謝る事しか出来ない――本当に申し訳ない。
慰謝料等については、君の保護者も交えて話し合おう」
「僕が甘かった!」
桧木がアイドル部部長としての不甲斐無さを滲ませ、悔しそうに顔を歪める。
「部員全員が自分と同じ気持ちだと――アイドルを大切に守る事に誇りを持って取り組んでくれていると思っていたんだ――まさか手を出そうとするなんてッ!」
ユウトはその様子を静かな目で見ながら質問する。
「…桧木先輩は先代アイドルの御花畑先輩と恋人関係にあったんですよね?」
「‥ッ!?‥いや、
う‥そう‥だが‥」
桧木がギョッとして狼狽え始める。
ユウトから目を逸らし、独り言のように――いや、独り言か?
「‥‥き、
気付いていないのだと思っていた‥‥」
「御花畑先輩が言ってた事、聞いた時は何を言っているのか分かりませんでしたが。電車事件の後、親切なタクシードライバーの人に色々教えて頂いて。
男性同士がベッドでする事を知りました。
御花畑先輩はきっとそういう事を言っていたのだと――やっぱりそうなんですね。
つまり前年度は桧木先輩がアイドルに手を出した――今回僕に手を出そうとした人達を責められる立場じゃないですよね。
全生徒の為と言っておきながら、アイドル部はアイドルを私物化して来たのですか?」
――これが入試では全教科0点の男の発言だろうか…
彼の解答欄を見返してみたが、全ての会話を単語だけで済ませる人種にしか思えなかった――
ペーパーテストなど当てにならないな…
そんな風に思いながら、理事長はマジマジとユウトを見つめる。
この一見天使にしか見えない美しい少年は――
何なんだろう?
普通、一般生徒が――ましてや新入生だ。
理事長室で理事長と対面するだけで緊張し、言いたい事があっても半分も言えないのが普通ではないか?
だが彼は、理事長室が二度目とは言え落ち着き過ぎている。
外国人の血が入っているから?
外国育ちだから?
――ハッ!?
ゆっくり、
スローモーションの様にゆっくり、
桧木を見ていたユウトが理事長に目を向ける。
幽玄の美しさに理事長は目を奪われ――
≪バッ!≫
≪ドスン!≫
ソファから突然立ち上がり、横へ出て後退ろうとしてソファのひじ掛けの部分にぶつかり尻もちをついてしまう。
「ハッ!?叔父上!?
どうなさったのですか!?
叔父上‥‥!?」
「―――――」
尻もちをつき、視線はユウトを見たまま絶句している理事長。
何か恐ろしいものを見た人の様に目を見開き、蒼白になっている。
ユラリ。
僅かに瞳を揺らして。
ユウトは不思議そうに理事長を見ている。
桧木が堪らず大声を出す。
「叔父上ッ!?」
「‥ッ!‥あ、いや、
何でもない!
みま、見間違い‥」
そうだ、見間違いだと理事長は自分に言い聞かせる。
ユウトの柔らかなアンバーの瞳。
その瞳が一瞬、
一瞬だけ、
恐ろしく美しい金色に光った――
(バカな!
そう見えただけだ!
今日の天気は厚い雲に覆われて窓から陽の光は入って来ていない!
だが――光った?
妖しく――美しく――
違う!見間違‥ハッ)
ユウトの瞳から僅かに視線を逸らして――
理事長はまたも自分の目を疑う事になる。
ずっと前方斜め下を見ていた南都樫騎士。
彼が理事長に目を向けた為、見てしまった。
深紫の瞳にキラリと赤い稲妻が走るのを――
あッいえッ失礼致しましたッ」
事務の女性がお茶を出してくれた後、中々退室しなかったので理事長が注意し、やっと退室した。
見渡す限り男ばかりの男子校で女性を目撃し、ドアが閉まるまで目で追ってしまうユウト。
(かわいい事務員さんだったな。
そう言えば女の先生は何人いるんだろう‥‥)
事務員が退室した後、緊迫した空気の中、一人高1男子らしいユウト。
ここは理事長室。
ユウト、ナイト、理事長、桧木の4人が校門から移動して来た。
ソファーセットは、長方形のテーブルの長い部分に面した所に長ソファが対面に置かれており、テーブルの短い部分に面した所には一人掛けソファが置かれている。
部屋最奥のゴージャスな一人掛けソファに理事長が座り、
部屋の右側の長ソファに桧木が、その対面、左側の長ソファにユウトとナイトが並んで腰かけている。
事務員の女性が退室してしまって残念そうなユウトに、理事長が口を開く。
「――先ずは八桐君」
「えッ!?あ、は?」
「学校としても君に苦痛を与えてしまった事、心からお詫びする。
本当に申し訳なかった」
そう言って理事長は頭を下げる。
慌てて桧木も『すまなかった!』と頭を下げる。
ユウトは二人を交互に見て口を開く。
「謝って済む問題ではありませんよ?」
「「…!?」」
今日のユウトの様子から、ヘラヘラしながら『大丈夫です』とか言うだろうと思っていた理事長と桧木は予想外の反応に言葉を失う。
「僕はめちゃめちゃラッキーで。
ナイトという激強な友人がいて助けてくれたから今ここでこうして元気にしていられるんです――能天気にね。
でも、誰でもナイトみたいな友人がいるワケじゃない。
アイドルが僕じゃなく別の誰かだったら、その人は先輩たちにサウナで暴行されていたでしょう。
そうなっても謝れば済むと?」
「「…ッ!!」」
「…君の言う通りだ。
謝って済むはず無いが、謝る事しか出来ない――本当に申し訳ない。
慰謝料等については、君の保護者も交えて話し合おう」
「僕が甘かった!」
桧木がアイドル部部長としての不甲斐無さを滲ませ、悔しそうに顔を歪める。
「部員全員が自分と同じ気持ちだと――アイドルを大切に守る事に誇りを持って取り組んでくれていると思っていたんだ――まさか手を出そうとするなんてッ!」
ユウトはその様子を静かな目で見ながら質問する。
「…桧木先輩は先代アイドルの御花畑先輩と恋人関係にあったんですよね?」
「‥ッ!?‥いや、
う‥そう‥だが‥」
桧木がギョッとして狼狽え始める。
ユウトから目を逸らし、独り言のように――いや、独り言か?
「‥‥き、
気付いていないのだと思っていた‥‥」
「御花畑先輩が言ってた事、聞いた時は何を言っているのか分かりませんでしたが。電車事件の後、親切なタクシードライバーの人に色々教えて頂いて。
男性同士がベッドでする事を知りました。
御花畑先輩はきっとそういう事を言っていたのだと――やっぱりそうなんですね。
つまり前年度は桧木先輩がアイドルに手を出した――今回僕に手を出そうとした人達を責められる立場じゃないですよね。
全生徒の為と言っておきながら、アイドル部はアイドルを私物化して来たのですか?」
――これが入試では全教科0点の男の発言だろうか…
彼の解答欄を見返してみたが、全ての会話を単語だけで済ませる人種にしか思えなかった――
ペーパーテストなど当てにならないな…
そんな風に思いながら、理事長はマジマジとユウトを見つめる。
この一見天使にしか見えない美しい少年は――
何なんだろう?
普通、一般生徒が――ましてや新入生だ。
理事長室で理事長と対面するだけで緊張し、言いたい事があっても半分も言えないのが普通ではないか?
だが彼は、理事長室が二度目とは言え落ち着き過ぎている。
外国人の血が入っているから?
外国育ちだから?
――ハッ!?
ゆっくり、
スローモーションの様にゆっくり、
桧木を見ていたユウトが理事長に目を向ける。
幽玄の美しさに理事長は目を奪われ――
≪バッ!≫
≪ドスン!≫
ソファから突然立ち上がり、横へ出て後退ろうとしてソファのひじ掛けの部分にぶつかり尻もちをついてしまう。
「ハッ!?叔父上!?
どうなさったのですか!?
叔父上‥‥!?」
「―――――」
尻もちをつき、視線はユウトを見たまま絶句している理事長。
何か恐ろしいものを見た人の様に目を見開き、蒼白になっている。
ユラリ。
僅かに瞳を揺らして。
ユウトは不思議そうに理事長を見ている。
桧木が堪らず大声を出す。
「叔父上ッ!?」
「‥ッ!‥あ、いや、
何でもない!
みま、見間違い‥」
そうだ、見間違いだと理事長は自分に言い聞かせる。
ユウトの柔らかなアンバーの瞳。
その瞳が一瞬、
一瞬だけ、
恐ろしく美しい金色に光った――
(バカな!
そう見えただけだ!
今日の天気は厚い雲に覆われて窓から陽の光は入って来ていない!
だが――光った?
妖しく――美しく――
違う!見間違‥ハッ)
ユウトの瞳から僅かに視線を逸らして――
理事長はまたも自分の目を疑う事になる。
ずっと前方斜め下を見ていた南都樫騎士。
彼が理事長に目を向けた為、見てしまった。
深紫の瞳にキラリと赤い稲妻が走るのを――
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