暫定アイドル☆ゆーとりん!―少年は愛の為に覚醒する―

ハートリオ

文字の大きさ
上 下
43 / 104

43 買い物に行こう

しおりを挟む
食後のコーヒーはフィカスが淹れた。

日本茶を淹れるのは下手だったが、コーヒーは絶品だ。



「‥美味しい!
まるでコーヒー専門店のコーヒーだよ!
メチャメチャ美味しい!!」



今度はユウトが感心する番だ。

コーヒーを淹れる姿も様になっててカッコイイ!

コーヒーを飲むナイトも上品でカッコ良過ぎ!


目の前の眼福を眺めながら(僕、この光景タダで見ちゃっていいのかな?)などとユウトが思っていると。



「それにしてもユウト様の荷物は本当に少ないですね。
ただでさえ少ないと思っていたのに、その殆どが炊飯器やらカレーの準備やらだったのですから」

「うん。
荷物とかたくさん持たない様に習慣づいてるって言うか‥‥
僕、日本に来る前は、両親と一緒にあちこち旅して回ってて。
荷物は最小限で現地調達が基本だったから、そのクセが抜けないって言うか」



一瞬、ナイトとフィカスが視線を合わせる。

ユウトはそれには気付かず、ポツリポツリと話し始める。



「…僕が危険に対してのんびりしてるのって、その頃の経験のせいなんだよね。
両親は二人とも20才前後と若くてさらに小柄で。
そんな両親と小さな僕の3人連れは危ない目に遇う事が多かったんだ」

「それはそうでしょうね――え?
3人だけで旅していたんですか?
ボディーガードを雇ったりは…」

「3人だけだった。
行く先々にママの知り合いがいて、滞在なんかは問題無かったんだけど、移動中がよく狙われた。
バスの乗り継ぎが上手くいかなかったり、ヒッチハイクで乗せてくれた人が急に機嫌を悪くしたりして田舎の山の中に置き去りにされたり――そんなで、野宿する事も多かったよ。
そんな誰も居なさそうな山の中に悪い人達が居たりして――あれ?
今思うとヒッチハイクで乗せてくれたと思ってた人って、運び屋だったのかな?」

「間違いないだろう。
人身売買組織か何か」

「それで、よく無事でいられましたね」

「うん、そこなんだ。
僕がちゃんとお願いすると、みんな逃がしてくれたんだ」

「「‥え?」」



思わず声を揃えて聞き返す二人。

人身売買等犯罪に関わる悪党共が、小さな子供のお願いを聞き入れるはずが無い。

たとえそれが天使の様に愛らしい子でも、『これは高く売れる』という金勘定しかしないはずだ。

だが、ユウトの顔は真剣で。

お伽話の様な話を続ける。



「行く先々でその国の悪い人達に何度も捕まったけど、ちゃんと逃がしてってお願いすると、逃がしてくれた。
近くの街や目的地まで送ってくれたり。
だから、ちゃんと頼めば大丈夫って思っちゃってて。
でも、昨日みたいに気絶させられちゃったら、ちゃんと頼めないもんね。
僕が小さい頃は、僕は何もされなかった。
父さんやママが薬を嗅がされたり、気絶させられたりして、それで僕は必死になって、ゆっくり、ちゃんとお願いして――助かった。
今は僕が気絶させられる側になったんだね。
のんびりしてたらダメだって、よく分かった。
もう、昨日みたいな事は無い様に気を付けるよ。
ナイト、本当にありがとう。
フィカスさんも」

「あ、いえ、私は…」
「直ぐに出て行く積もりか?」



ナイトが真っ直ぐにユウトを見ながら静かに訊く。

『これからは気を付けるから、守ってもらわなくていい』

そう言う積もりなのかと。

ジリジリと体内を炙られているような焦りから、声は逆に単調で静かだ。



「え――」

「少ない荷物の理由。
長逗留する気が無い?
直ぐ出て行くから?」



ユウトは僅かに目を見開いた後、一瞬、寂しそうに笑って。



「僕が長逗留するかどうか‥‥
決めるのはナイトだ」

「――ッ!
そう――か。
じゃあ」



スッとナイトが立ち上がる。

フィカスがサッとコーヒーカップを片付け始める。



「買い物に行こう」

「いいですね。
ユウト様、高1男子はもっと物を持たねばなりません。
あのウォークインクローゼットがパンパンになるくらい買いましょうか」

「えッ!?
いや待って!
僕は物を持たない主義だって話した積もりだけど?」

「ユウト…
その中学のジャージを私服として着続けるつもりか?」

「ユウト様が着ると中学のジャージとは思えないくらいオシャレですが。
何を着ても似合うのですから、もっと色々楽しみましょう」

「へ?いやそんな事…
僕はセンス無いし、オシャレとか分かんないし。
私服はジャージで充分…」

「行くぞ!」



服なんて、着ている物が着られなくなるまで次は買わない――高校3年間ぐらいは、中学のジャージ3セットを着まわせば済む予定だったユウト。

フィカスが車を出し、あちこちの店を訪れ、ナイトの家の、『ユウトの部屋』の広すぎるウォークインクローゼットが本当にいっぱいにされてしまった。

服をセレブ買いするお金なんて無いと言っても
『気にするな。払っとく』
『ナイト様は御立場上ジャンジャンお金が使えますので気にしないで大丈夫です』
と言われ――いやいやいや、

パンパンのウォークインクローゼットを眺めながらボーゼンとするユウト。


な、


何でこうなった!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

龍神様の神使

石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。 しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。 そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。 ※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

処理中です...