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「提案なのですが、お客様達はこの店、初めてですよね?
(もし来店されていれば絶対覚えていますので間違いないです)
なので、当店のパンを全種類、少しずつ試して頂きたいのです!
全種類と言っても、まだ焼き上がっていないのもあるのですが。
それでご意見を頂戴できると嬉しいなと。
私達はこの店を初めてまだ3ヵ月。
お客様の御意見が喉から手が出るほど欲しいのです!
お代は要りませんので、いかがですか?」

「「「!!」」」

「それは断る理由がありませんが…
いいのですか?」

「「是非!」」



遠慮がちに尋ねるフィカスにホクホク顔で声を揃える二人。


目の前にいる高貴な雰囲気を漂わせる麗しの三人衆。

世界中の美食の限りを尽くして来たに違いない!

美食家の意見を貰えたらより美味しいパンが焼ける!


次元の違う美形たちにそう思い込むパン屋の若夫婦。

まさか目の前に居る三人が『無頓着で侘しい食生活を送って来た二人』と『コーヒー牛乳とロイヤルミルクティーの区別がつかない一人』だとは思っていない。

多分、何を食べても『美味い』『美味しい』という意見しか聞けないだろうが、パン屋の若夫婦は既に利を得ているので問題ない。

提案のもう一つの目的――『こんなカッコイイ人達が通ってくれたら、お店の繁盛につながる』は、既に達成されている。

体内に超高性能イケメンレーダーを内蔵した優秀な女族がハイレベルな男たちの存在を嗅ぎ付け、店の外から窺う者、客を装い店内に侵入する者、来日中のスターを検索し人物特定を急ぐ者と、店内外は開店以来のざわつきであり、その誰もが焼きたてパンの匂いにやられ、パンを購入し、そのパンの美味しさを知る事となったのだから。






☆☆



「フィカスさん、引っ越しまで手伝ってくれるなんてありがとう。
ていうか、車あったんだね」

「はい。
ナイト様の車になります」

「ナイト、免許取るの?」

「考えた事無かった」

「もし取ったら乗せてもらおうと思ったのに…」

「取る」

「それまでは私がお乗せします。
ユウト様が行きたい所へお連れしますよ」

「フィカス‥‥」
「ありがとうフィカスさん♪」



3人を乗せた高級車は、ユウトの家に行き、ユウトの荷物を乗せてナイトのマンションに戻るところ。

そう、ユウトはナイトからの同居の誘いに乗る事にした。

ナイトは(ここ大事)ユウトを守ろうとする。

ユウトの家まで送り迎えしようとして来るはずだ。

だったら、いっそ一緒に居た方がナイトの負担が減るのではないか。

そう思って決断した。



「それにしても少ない荷物ですね。
高1男子ってこんなものですか?」



マンションに着き荷物をユウトの部屋に運び込みながらフィカスが不思議そうに尋ねる。

ちょっとした旅行用の荷物ぐらいしかない。



「あ、違う違う、
コレは台所に」

「え? ユウト様の荷物ではないのですか?」

「これはね~~、
じゃじゃ~ん!」

「「?」」



じゃじゃ~んと言われても、ユウトが取り出したものが何なのか、ナイトもフィカスも分からない。



「炊飯ジャーだよ!
ばぁちゃん、最近、新しいのに買い替えたんだ。
別に壊れてないのに。
丁度いいから貰って来た!
ナイト、これで温かいご飯食べれるよ!」

「えっ‥‥
弁当屋に買いに行かなくていいのか?」

「うん――弁当屋にご飯買いに行くの負担だったの?」

「最近、行く度におばさん達に囲まれて無理矢理中身不明の包みを渡されそうになる――正直恐ろしい」



多分、プレゼントだよね。

煮物とか揚げ物とか。

イケメンが白飯しか買わない事に何らかのストーリーを妄想して同情し、おかず的なものをくれようとしたんだと思う。

そんな風にユウトが推理する傍らで。



「温かいご飯が、家で!?
この小さな白物家電で、大将が出してくれた様な温かいご飯が作れるというのですか!?」



驚愕の表情をするフィカス。


――こんな表情豊かな人だっけ?

たった一日で随分印象が違うなぁ‥‥


などと思いながらユウトがマジマジとフィカスを見ていると。

スッとナイトが炊飯ジャーとフィカスの間に入り込み、言い放つ。



「この炊飯ジャーで作る温かいご飯はフィカスには関係のないご飯だ!」

「――ッッ!」



愕然とするフィカス。

全く‥‥とユウトは半ば呆れながら口を開く。



「ご飯炊いたらちゃんとフィカスさんにも連絡するからね。
ナイトはこんなに親切で色々してくれるフィカスさんに意地悪言わないの!
…一体どうしたの?」



今日は何だかずっとフィカスに対して様子が変なナイト。

ユウトは優しく聞いてみたのだが。



「分からない。
どうもしてない」



そう答える割にナイトのお口は拗ね口になっている。



「ナイト様。
少し話があります」

「話せ」

「少し込み入っておりますので。
6階に来て頂けますか」

「俺が6階に?
断る」

「あ、ごめん。
僕が邪魔なんだよね?
僕、出掛けようか?」

「6階に行く。
ユウトはここに居てくれ」

「では、少しナイト様をお借りします」


(借りるも何も別に僕のものじゃないんだけどな――はッ!)


ユウトは雷に打たれた様に突如気付いた。


(もしかして、あの二人、恋人同士!?
昨日、タクシードライバーのおじさんが言ってたような、男同士で体を重ねる…
――あぁそうか、だからか。
今日のナイトはずっとフィカスさんに絡んでた。
あれって、僕と二人で出掛けちゃったから拗ねてたんだ!?
そう言えば、メチャメチャお似合いじゃん!
二人は生死を共にする運命共同体だもの。
恋人関係になるのは自然な事だよね!
どうしよう、僕って、とんだオジャマ虫じゃん!?)


とんだ勘違いである。
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