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39 白湯
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「どうしたの?
怖い夢でも見た?」
「夢‥‥はッ!」
ユウトに柔らかく問い掛けられたナイト。
はッ!と息を呑み、まるで口に出せないエッチな夢を見てしまった人の様に赤面して視線を逸らす。
「ご、ごめん」
「?――何が?
と言うか、僕の方がごめん。
もしかして心配した?
とにかく座る所――」
キョロキョロとするユウトとパン屋の夫婦の目が合う。
「あの、」
「はっ、はい!
110番ですか119番ですか!?」
「え?…いえ、お店もう始まってますか?」
「は?」
「あ、はい!
やってます!」
「よかった。
奥のテーブル席に座ろう」
そう言ってユウトが手を引けば、ナイトは素直について来る。
パン屋の奥にはテーブル席が三つほどある。
ユウトは白湯を頼んだ後その一つにナイトを座らせ、隣に自分が座る。
「フィカスさん、悪いんだけど、ナイトの靴…シューズと靴下と軽く羽織れる上着とウェットティッシュ?
持って来てもらっていい?」
「‥はッ!はい!
もちろん!」
「その前に注文していけば?
このパン屋さんで朝食にしようよ」
「――いいですね!
では、私は厚切りフレンチトーストと…」
意気揚々と朝食を注文するフィカス。
スマートなのにかなりの大食漢だ。
『では』と店を出て行くフィカスにユウトが頷くと、ナイトが繋いだままテーブルに乗せてある手をギュッと強く握る。
何も言わないのは自分の感情が分からないからだ。
ユウトがナイトに視線を戻すと、ナイトはもう片方の手もテーブルに乗せて。
ギュッと握っていた手を開く。
手の中からはユウトが『フィカスさんと朝ご飯を買いに行ってくるね』と書置きしたメモ紙――ぐちゃぐちゃになっている。
「ごめんね?
起こすの可哀想かなと思って」
「‥‥‥」
「ナイトが起きる前にパンを買って帰るつもりだったんだ」
「‥‥心配した」
「ありがとう。
でもフィカスさんが一緒だから平気だよ?」
「フィカス…」
またもナイトがユウトの手をギュッとする。
「…フィカスさんはいい執事さんだと思うよ。
本当にナイトの事考えてくれてる。
そんな人、中々いないと思う」
「フィカスは変わってる」
「――ふっ、うん。
親しくても朝会ったらちゃんと挨拶しなきゃダメだよ?」
「分かった。
おはよう、ユウト」
「!――ふっ、くくっ
そう、僕も忘れてたね
おはよう、ナイト!」
パン屋の夫婦は感動していた。
美少年が笑っただけで緊張していた店内の空気が柔らかな光の空間に変わった。
頬を染めほっこりしていると、もう金髪イケメンが戻って来た。
早くてスマートだ‥‥
「お待たせしました」
「フィカスさん早ッ」
「フィカス、お早う」
「――えッ!?
‥‥あ、お早うございます?
(ナイト様が私に挨拶なんて初めてだ…あぁ、ユウト様効果か…)」
「だが、ユウトと手を繋ぐのは俺だけだ!」
「「!!」」
思わず視線を合わせるユウトとフィカス。
真剣な顔でフィカスを見据えているナイト。
((様子が変だと思ったら、この人、そこに引っかかっていたのか‥‥))
ユウトとフィカスが同時に気付く。
フゥと息をつき、ユウトが呆れ声で言う。
「さっきは、僕がフィカスさんの手を引いたんだよ?
僕の方が勝手にフィカスさんと手を繋いだの!
フィカスさんは僕と手を繋ぎたいなんて思ってないし」
「あ、いえ‥」
「それより靴履くよ。
フィカスさんは右足いいですか?
僕は左足やります」
「あ、はい!
これウェットティッシュです」
「え?なに‥‥
い、いい!
そんなの自分でやる」
「こんな長い足の取り扱い大変でしょ。
それに足裏に傷なんか出来てないかちゃんとチェックしなきゃね。
ナイトはそーゆーの疎かにするんだろうから他人がやった方がいいの!」
そう言って跪きナイトの足をウェットティッシュで拭きながら傷の有無をチェックするユウトとフィカス。
(…大きくて綺麗…
裸足で走って来るなんて。
こんな綺麗な足に傷なんてつけて欲しくない。
ナイトは僕とは違う種類のバカだよね)
「よし!
左足は無傷だよ!」
「右足も大丈夫です」
「―――あ、
ありがとう。
後は自分でやる」
居心地悪そうにしていたナイトがそう言い、靴下を履きシューズを履く。
パン屋の奥さんが声を掛けてくれる。
「お二人とも、お食事前にこちらで手を洗って下さい。
こちらの白湯は‥」
「あ、彼に。
ナイト、起きてからまだ何も飲んでないでしょ。
まず水分摂らないと!
僕たち手を洗って来るから、ゆっくり白湯飲んでて。
メニュー見て食べたいの決めててね」
パン屋に入り、席に着く前にユウトが何故か頼んでいた白湯。
何で白湯なんかを頼んでいるのかと思っていたが、自分の為だったのか‥‥
スルーした疑問の答えを知ったナイト。
やはり喉が渇いていたのかゴクゴクと飲み干す。
空になったカップを見ながら優しく温かくなるのは胃だけではない。
自分の感情も、喉が渇いているかどうかも分からないナイト。
体以上に心を満たす温もりに戸惑う。
その視線はユウトを追い掛けて、メニューを全然見ていない。
怖い夢でも見た?」
「夢‥‥はッ!」
ユウトに柔らかく問い掛けられたナイト。
はッ!と息を呑み、まるで口に出せないエッチな夢を見てしまった人の様に赤面して視線を逸らす。
「ご、ごめん」
「?――何が?
と言うか、僕の方がごめん。
もしかして心配した?
とにかく座る所――」
キョロキョロとするユウトとパン屋の夫婦の目が合う。
「あの、」
「はっ、はい!
110番ですか119番ですか!?」
「え?…いえ、お店もう始まってますか?」
「は?」
「あ、はい!
やってます!」
「よかった。
奥のテーブル席に座ろう」
そう言ってユウトが手を引けば、ナイトは素直について来る。
パン屋の奥にはテーブル席が三つほどある。
ユウトは白湯を頼んだ後その一つにナイトを座らせ、隣に自分が座る。
「フィカスさん、悪いんだけど、ナイトの靴…シューズと靴下と軽く羽織れる上着とウェットティッシュ?
持って来てもらっていい?」
「‥はッ!はい!
もちろん!」
「その前に注文していけば?
このパン屋さんで朝食にしようよ」
「――いいですね!
では、私は厚切りフレンチトーストと…」
意気揚々と朝食を注文するフィカス。
スマートなのにかなりの大食漢だ。
『では』と店を出て行くフィカスにユウトが頷くと、ナイトが繋いだままテーブルに乗せてある手をギュッと強く握る。
何も言わないのは自分の感情が分からないからだ。
ユウトがナイトに視線を戻すと、ナイトはもう片方の手もテーブルに乗せて。
ギュッと握っていた手を開く。
手の中からはユウトが『フィカスさんと朝ご飯を買いに行ってくるね』と書置きしたメモ紙――ぐちゃぐちゃになっている。
「ごめんね?
起こすの可哀想かなと思って」
「‥‥‥」
「ナイトが起きる前にパンを買って帰るつもりだったんだ」
「‥‥心配した」
「ありがとう。
でもフィカスさんが一緒だから平気だよ?」
「フィカス…」
またもナイトがユウトの手をギュッとする。
「…フィカスさんはいい執事さんだと思うよ。
本当にナイトの事考えてくれてる。
そんな人、中々いないと思う」
「フィカスは変わってる」
「――ふっ、うん。
親しくても朝会ったらちゃんと挨拶しなきゃダメだよ?」
「分かった。
おはよう、ユウト」
「!――ふっ、くくっ
そう、僕も忘れてたね
おはよう、ナイト!」
パン屋の夫婦は感動していた。
美少年が笑っただけで緊張していた店内の空気が柔らかな光の空間に変わった。
頬を染めほっこりしていると、もう金髪イケメンが戻って来た。
早くてスマートだ‥‥
「お待たせしました」
「フィカスさん早ッ」
「フィカス、お早う」
「――えッ!?
‥‥あ、お早うございます?
(ナイト様が私に挨拶なんて初めてだ…あぁ、ユウト様効果か…)」
「だが、ユウトと手を繋ぐのは俺だけだ!」
「「!!」」
思わず視線を合わせるユウトとフィカス。
真剣な顔でフィカスを見据えているナイト。
((様子が変だと思ったら、この人、そこに引っかかっていたのか‥‥))
ユウトとフィカスが同時に気付く。
フゥと息をつき、ユウトが呆れ声で言う。
「さっきは、僕がフィカスさんの手を引いたんだよ?
僕の方が勝手にフィカスさんと手を繋いだの!
フィカスさんは僕と手を繋ぎたいなんて思ってないし」
「あ、いえ‥」
「それより靴履くよ。
フィカスさんは右足いいですか?
僕は左足やります」
「あ、はい!
これウェットティッシュです」
「え?なに‥‥
い、いい!
そんなの自分でやる」
「こんな長い足の取り扱い大変でしょ。
それに足裏に傷なんか出来てないかちゃんとチェックしなきゃね。
ナイトはそーゆーの疎かにするんだろうから他人がやった方がいいの!」
そう言って跪きナイトの足をウェットティッシュで拭きながら傷の有無をチェックするユウトとフィカス。
(…大きくて綺麗…
裸足で走って来るなんて。
こんな綺麗な足に傷なんてつけて欲しくない。
ナイトは僕とは違う種類のバカだよね)
「よし!
左足は無傷だよ!」
「右足も大丈夫です」
「―――あ、
ありがとう。
後は自分でやる」
居心地悪そうにしていたナイトがそう言い、靴下を履きシューズを履く。
パン屋の奥さんが声を掛けてくれる。
「お二人とも、お食事前にこちらで手を洗って下さい。
こちらの白湯は‥」
「あ、彼に。
ナイト、起きてからまだ何も飲んでないでしょ。
まず水分摂らないと!
僕たち手を洗って来るから、ゆっくり白湯飲んでて。
メニュー見て食べたいの決めててね」
パン屋に入り、席に着く前にユウトが何故か頼んでいた白湯。
何で白湯なんかを頼んでいるのかと思っていたが、自分の為だったのか‥‥
スルーした疑問の答えを知ったナイト。
やはり喉が渇いていたのかゴクゴクと飲み干す。
空になったカップを見ながら優しく温かくなるのは胃だけではない。
自分の感情も、喉が渇いているかどうかも分からないナイト。
体以上に心を満たす温もりに戸惑う。
その視線はユウトを追い掛けて、メニューを全然見ていない。
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