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37 揺れる心たち
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「風呂を入れた。
疲れが取れる。
いや、俺は片付けがあるからユウトが先に」
ソファから動けなくなっていたユウト。
疲れているんだろうとナイトが風呂を勧める。
「うん。
ありがとう」
ユウトは虚ろになってしまった心を悟られない様に笑顔で礼を言う。
ばぁちゃんが用意してくれた着替えは着替えの他に下着やタオル、歯磨きセットなど網羅した完璧な『お泊りセット』だったので、遠慮なくお風呂を頂く事にした。
ジャグジーに感動して一騒ぎした後、
「―――ふっ‥‥」
湯船の中で少しだけ泣いてしまった。
笑おうとムリに上げた口角に唇が震えて涙が零れる。
「‥ふっ‥くっ‥ふふ
‥‥っっく‥‥っっ」
だってさ?
だって
あんな風に優しい目で
優しくされたらさ、
勘違い、するし、
するし、さ‥‥?
僕は本当にバカだな――
僕の父さんは僕が中学になる少し前どこかへ出て行ったきり戻らない。
今日も桑島大将に『ユウトももう高校生か。セイヤもさぞ嬉しいだろ。セイヤはユウトが可愛くてしょうがねえんだからなぁ!何か事情があって帰れねえんだろうけど、きっとどこかでユウトの進学、喜んでるぜ!』って言われたけど。
皆に『子煩悩』だと思われている父さんは実は僕を愛していない。
ママだけを愛してる。
ママはもうこの世にいないのに、世界中を旅してママを捜してる。
可哀想な人だと思う。
他人なら良かったのに。
他人ならきっと同情できた。
でも僕は他人じゃないから――
――大丈夫、
いつもこうして一人で
少しだけ泣いて
吹っ切って来た
大丈夫
ママが去った時も
多分ママの命の灯が消えた時も
そうやって乗り越えた
ママを失った父さんは
僕が居なくなればママが帰って来るって妄想に囚われて
時々僕の首を絞めた
その度にこうして
少しだけ泣いて
吹っ切って
生きて来たんだから
僕は物理的に大きいナイトを『理想の父親』の様に思っていたんだろうか。
僕を守ろうとし、実際に守ってくれる頼りがいがある大きなナイトを。
ナイトが『恩を返せた』と判断した瞬間、終わる関係だと知らずに。
本当に僕は、どれだけバカなんだろう――
ぱしゃっ‥‥
ぱしゃぱしゃっ
――でも、よかった。
早めに知れて。
きっと恋慕ではなく、
思慕だった。
思慕が恋慕に変わってしまう前に知れて助かった。
よかった、よかった。
――もし。
もしナイトの優しさが好意によるものだと言われていたら。
その好意が今日タクシーの運転手さんが言っていた様な好意‥‥
男同士で体を合わせる行為を望む好意だったら。
僕はどうしただろう。
どう感じただろう。
どうするつもりだったんだろう―――
(起こり得ない『もし』を考えてもね)
パァン!
ユウトは両手で顔を叩いて
吹っ切った!
よし、もう大丈夫!
ちゃんとするぞ!
気合を入れ直して風呂から上がる。
「ナイト、お風呂ありがとう!
凄く気持ちよかった」
ガッシャ~~ン!
ガラガラガラ‥‥
「ナイト!?
大丈夫!?」
「あ、だ、い丈夫!
大丈夫!何でもない!
うん、鍋を落としてしまっただけだ」
居酒屋の大将桑島からもらった鍋を片付けようとしていたナイト。
風呂上がりのユウトを見て―――鍋を落としてしまった。
普段のユウトになら免疫が出来て来ていたナイトだが、風呂上がりのユウトは――
床に膝をつき、散らばった大・中・小3点セットの鍋を拾い集めながら。
何で俺はこんな事になっているんだ?と自問する。
小鍋の蓋を拾おうとして手の甲で弾いて飛ばしてしまって、何でこんな簡単な事に手間取ってしまうのかワケが分からない。
クシャッ‥
珍しく自分より低い位置にあるナイトの髪をユウトの手がクシャッと撫でる。
幼子にする様に普通に撫でているだけのつもり。
その仕草がひどく蠱惑的になっている事に本人は気付いていない。
「完璧なのに、たまにドジっ子だよね。
ハイ、蓋」
「――――――」
ナイトは、少し屈んでナイトの髪を撫でるユウトを見上げ、
見つめる――
濡れた髪
潤んだ瞳
上気した頬
赤い唇
輝く肌
匂い立つ色香――
その全てが罪で――
見てはいけない
なのに視線を外せない
貪欲な脳が罪を犯す
意思を無視して勝手な
口に出せない妄想を
それとも自分で気付いていないだけで全ては自分の意思か?
そんな、
そんな、バカな!
「――ナイト?」
言葉が出ない
声すら出ない
返事が返せない
「?
蓋、ここに置くね。
ナイトも早くお風呂入った方がいいよ。
今丁度いい湯加減だと思うよ。
温まるよ。
片付けは明日一緒にやろう」
「‥あ、‥う、」
「大丈夫?」
コクッ
「じゃ、おやすみ」
コクッ
(ナイト、様子が変だったなぁ。
フィカスさんが言ってた様に、同じ空間に他人が居るの無理なのかもなぁ)
なんて思うユウトは無自覚なので。
風呂上がりの自分のシャレにならない色香にまるで気付いていない。
台所で膝をついたまま微動だに出来ないナイトも、自分の今の状況が理解出来ない。
きっと何かの間違いだ
そう結論付けるしか出口が無い。
二人で腹を割って話し合えばいい事ではあるが、それはひどく危険でもある?
疲れが取れる。
いや、俺は片付けがあるからユウトが先に」
ソファから動けなくなっていたユウト。
疲れているんだろうとナイトが風呂を勧める。
「うん。
ありがとう」
ユウトは虚ろになってしまった心を悟られない様に笑顔で礼を言う。
ばぁちゃんが用意してくれた着替えは着替えの他に下着やタオル、歯磨きセットなど網羅した完璧な『お泊りセット』だったので、遠慮なくお風呂を頂く事にした。
ジャグジーに感動して一騒ぎした後、
「―――ふっ‥‥」
湯船の中で少しだけ泣いてしまった。
笑おうとムリに上げた口角に唇が震えて涙が零れる。
「‥ふっ‥くっ‥ふふ
‥‥っっく‥‥っっ」
だってさ?
だって
あんな風に優しい目で
優しくされたらさ、
勘違い、するし、
するし、さ‥‥?
僕は本当にバカだな――
僕の父さんは僕が中学になる少し前どこかへ出て行ったきり戻らない。
今日も桑島大将に『ユウトももう高校生か。セイヤもさぞ嬉しいだろ。セイヤはユウトが可愛くてしょうがねえんだからなぁ!何か事情があって帰れねえんだろうけど、きっとどこかでユウトの進学、喜んでるぜ!』って言われたけど。
皆に『子煩悩』だと思われている父さんは実は僕を愛していない。
ママだけを愛してる。
ママはもうこの世にいないのに、世界中を旅してママを捜してる。
可哀想な人だと思う。
他人なら良かったのに。
他人ならきっと同情できた。
でも僕は他人じゃないから――
――大丈夫、
いつもこうして一人で
少しだけ泣いて
吹っ切って来た
大丈夫
ママが去った時も
多分ママの命の灯が消えた時も
そうやって乗り越えた
ママを失った父さんは
僕が居なくなればママが帰って来るって妄想に囚われて
時々僕の首を絞めた
その度にこうして
少しだけ泣いて
吹っ切って
生きて来たんだから
僕は物理的に大きいナイトを『理想の父親』の様に思っていたんだろうか。
僕を守ろうとし、実際に守ってくれる頼りがいがある大きなナイトを。
ナイトが『恩を返せた』と判断した瞬間、終わる関係だと知らずに。
本当に僕は、どれだけバカなんだろう――
ぱしゃっ‥‥
ぱしゃぱしゃっ
――でも、よかった。
早めに知れて。
きっと恋慕ではなく、
思慕だった。
思慕が恋慕に変わってしまう前に知れて助かった。
よかった、よかった。
――もし。
もしナイトの優しさが好意によるものだと言われていたら。
その好意が今日タクシーの運転手さんが言っていた様な好意‥‥
男同士で体を合わせる行為を望む好意だったら。
僕はどうしただろう。
どう感じただろう。
どうするつもりだったんだろう―――
(起こり得ない『もし』を考えてもね)
パァン!
ユウトは両手で顔を叩いて
吹っ切った!
よし、もう大丈夫!
ちゃんとするぞ!
気合を入れ直して風呂から上がる。
「ナイト、お風呂ありがとう!
凄く気持ちよかった」
ガッシャ~~ン!
ガラガラガラ‥‥
「ナイト!?
大丈夫!?」
「あ、だ、い丈夫!
大丈夫!何でもない!
うん、鍋を落としてしまっただけだ」
居酒屋の大将桑島からもらった鍋を片付けようとしていたナイト。
風呂上がりのユウトを見て―――鍋を落としてしまった。
普段のユウトになら免疫が出来て来ていたナイトだが、風呂上がりのユウトは――
床に膝をつき、散らばった大・中・小3点セットの鍋を拾い集めながら。
何で俺はこんな事になっているんだ?と自問する。
小鍋の蓋を拾おうとして手の甲で弾いて飛ばしてしまって、何でこんな簡単な事に手間取ってしまうのかワケが分からない。
クシャッ‥
珍しく自分より低い位置にあるナイトの髪をユウトの手がクシャッと撫でる。
幼子にする様に普通に撫でているだけのつもり。
その仕草がひどく蠱惑的になっている事に本人は気付いていない。
「完璧なのに、たまにドジっ子だよね。
ハイ、蓋」
「――――――」
ナイトは、少し屈んでナイトの髪を撫でるユウトを見上げ、
見つめる――
濡れた髪
潤んだ瞳
上気した頬
赤い唇
輝く肌
匂い立つ色香――
その全てが罪で――
見てはいけない
なのに視線を外せない
貪欲な脳が罪を犯す
意思を無視して勝手な
口に出せない妄想を
それとも自分で気付いていないだけで全ては自分の意思か?
そんな、
そんな、バカな!
「――ナイト?」
言葉が出ない
声すら出ない
返事が返せない
「?
蓋、ここに置くね。
ナイトも早くお風呂入った方がいいよ。
今丁度いい湯加減だと思うよ。
温まるよ。
片付けは明日一緒にやろう」
「‥あ、‥う、」
「大丈夫?」
コクッ
「じゃ、おやすみ」
コクッ
(ナイト、様子が変だったなぁ。
フィカスさんが言ってた様に、同じ空間に他人が居るの無理なのかもなぁ)
なんて思うユウトは無自覚なので。
風呂上がりの自分のシャレにならない色香にまるで気付いていない。
台所で膝をついたまま微動だに出来ないナイトも、自分の今の状況が理解出来ない。
きっと何かの間違いだ
そう結論付けるしか出口が無い。
二人で腹を割って話し合えばいい事ではあるが、それはひどく危険でもある?
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