暫定アイドル☆ゆーとりん!―少年は愛の為に覚醒する―

ハートリオ

文字の大きさ
上 下
37 / 104

37 揺れる心たち

しおりを挟む
「風呂を入れた。
疲れが取れる。
いや、俺は片付けがあるからユウトが先に」



ソファから動けなくなっていたユウト。

疲れているんだろうとナイトが風呂を勧める。



「うん。
ありがとう」



ユウトは虚ろになってしまった心を悟られない様に笑顔で礼を言う。



ばぁちゃんが用意してくれた着替えは着替えの他に下着やタオル、歯磨きセットなど網羅した完璧な『お泊りセット』だったので、遠慮なくお風呂を頂く事にした。


ジャグジーに感動して一騒ぎした後、



「―――ふっ‥‥」



湯船の中で少しだけ泣いてしまった。


笑おうとムリに上げた口角に唇が震えて涙が零れる。



「‥ふっ‥くっ‥ふふ
‥‥っっく‥‥っっ」



だってさ?

だって

あんな風に優しい目で

優しくされたらさ、

勘違い、するし、

するし、さ‥‥?


僕は本当にバカだな――


僕の父さんは僕が中学になる少し前どこかへ出て行ったきり戻らない。

今日も桑島大将に『ユウトももう高校生か。セイヤもさぞ嬉しいだろ。セイヤはユウトが可愛くてしょうがねえんだからなぁ!何か事情があって帰れねえんだろうけど、きっとどこかでユウトの進学、喜んでるぜ!』って言われたけど。

皆に『子煩悩』だと思われている父さんは実は僕を愛していない。

ママだけを愛してる。

ママはもうこの世にいないのに、世界中を旅してママを捜してる。

可哀想な人だと思う。

他人なら良かったのに。

他人ならきっと同情できた。

でも僕は他人じゃないから――





――大丈夫、

いつもこうして一人で

少しだけ泣いて

吹っ切って来た


大丈夫


ママが去った時も

多分ママの命の灯が消えた時も

そうやって乗り越えた




ママを失った父さんは

僕が居なくなればママが帰って来るって妄想に囚われて

時々僕の首を絞めた

その度にこうして

少しだけ泣いて

吹っ切って

生きて来たんだから






僕は物理的に大きいナイトを『理想の父親』の様に思っていたんだろうか。

僕を守ろうとし、実際に守ってくれる頼りがいがある大きなナイトを。


ナイトが『恩を返せた』と判断した瞬間、終わる関係だと知らずに。


本当に僕は、どれだけバカなんだろう――



ぱしゃっ‥‥


ぱしゃぱしゃっ



――でも、よかった。

早めに知れて。


きっと恋慕ではなく、

思慕だった。



思慕が恋慕に変わってしまう前に知れて助かった。



よかった、よかった。




――もし。



もしナイトの優しさが好意によるものだと言われていたら。

その好意が今日タクシーの運転手さんが言っていた様な好意‥‥

男同士で体を合わせる行為を望む好意だったら。


僕はどうしただろう。

どう感じただろう。


どうするつもりだったんだろう―――




(起こり得ない『もし』を考えてもね)


パァン!


ユウトは両手で顔を叩いて

吹っ切った!



よし、もう大丈夫!

ちゃんとするぞ!



気合を入れ直して風呂から上がる。



「ナイト、お風呂ありがとう!
凄く気持ちよかった」


ガッシャ~~ン!
ガラガラガラ‥‥


「ナイト!?
大丈夫!?」

「あ、だ、い丈夫!
大丈夫!何でもない!
うん、鍋を落としてしまっただけだ」



居酒屋の大将桑島からもらった鍋を片付けようとしていたナイト。

風呂上がりのユウトを見て―――鍋を落としてしまった。


普段のユウトになら免疫が出来て来ていたナイトだが、風呂上がりのユウトは――


床に膝をつき、散らばった大・中・小3点セットの鍋を拾い集めながら。

何で俺はこんな事になっているんだ?と自問する。

小鍋の蓋を拾おうとして手の甲で弾いて飛ばしてしまって、何でこんな簡単な事に手間取ってしまうのかワケが分からない。


クシャッ‥


珍しく自分より低い位置にあるナイトの髪をユウトの手がクシャッと撫でる。

幼子にする様に普通に撫でているだけのつもり。


その仕草がひどく蠱惑的になっている事に本人は気付いていない。



「完璧なのに、たまにドジっ子だよね。
ハイ、蓋」

「――――――」



ナイトは、少し屈んでナイトの髪を撫でるユウトを見上げ、

見つめる――


濡れた髪
潤んだ瞳
上気した頬
赤い唇
輝く肌
匂い立つ色香――


その全てが罪で――


見てはいけない
なのに視線を外せない
貪欲な脳が罪を犯す
意思を無視して勝手な
口に出せない妄想を



それとも自分で気付いていないだけで全ては自分の意思か?



そんな、

そんな、バカな!



「――ナイト?」



言葉が出ない
声すら出ない


返事が返せない



「?
蓋、ここに置くね。
ナイトも早くお風呂入った方がいいよ。
今丁度いい湯加減だと思うよ。
温まるよ。
片付けは明日一緒にやろう」

「‥あ、‥う、」

「大丈夫?」

コクッ

「じゃ、おやすみ」

コクッ



(ナイト、様子が変だったなぁ。
フィカスさんが言ってた様に、同じ空間に他人が居るの無理なのかもなぁ)


なんて思うユウトは無自覚なので。

風呂上がりの自分のシャレにならない色香にまるで気付いていない。




台所で膝をついたまま微動だに出来ないナイトも、自分の今の状況が理解出来ない。


きっと何かの間違いだ



そう結論付けるしか出口が無い。





二人で腹を割って話し合えばいい事ではあるが、それはひどく危険でもある?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

勃起できない俺に彼氏ができた⁉

千歳
BL
大学三年生の瀬戸結(セト ユイ)は明るい性格で大学入学当初からモテた。 しかし、彼女ができても長続きせずにすぐに別れてしまい、その度に同級生の羽月清那(ハヅキ セナ)に慰めてもらっていた。 ある日、結がフラれる現場に出くわしてしまった清那はフラれて落ち込む結を飲みへと誘う。 どうして付き合ってもすぐに別れてしまうのかと結に尋ねてみると、泥酔した彼はぽつりと言葉を零した。 「……勃起、できないから」 衝撃的なその告白と共に結は恋愛体質だから誰かと付き合っていたいんだとも語った。 酔っ払いながら泣き言を零す結を見ながら清那はある一つの案を結に提示する。 「誰かと付き合っていたいならさ、俺と付き合ってみる?」

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

処理中です...