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34 教エテ?

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大満足のままマンションに帰って来た三人。

ナイトの手には大将からもらった鍋が大切に抱えられている。

もう使わない、捨てるつもりだった鍋を、家に鍋が無いナイトがもらったのだ。


エントランスでエレベーターに乗り込んだ時、コンシェルジュが声を掛けて来た。



「南都樫様、ちょっとよろしいでしょうか?
受付の方へお出で頂けますでしょうか?」

「―――では先に行ってお部屋の前でお待ちしております」



咄嗟にフィカスが答える。

エレベーターには他の住民も乗っているし、止めておくわけにもいかないから。

――という雰囲気で。

実際は、ナイト抜きでユウトと話す好機と捉えたのだ。



「ああ。
部屋に入っていてくれ」



と言い残し一人エレベーターを降りて受付へ向かうナイト。

ナイトを置いて上昇するエレベーター。

6階から先は部屋専用エレベーターに乗り換える。

完全にユウトとフィカス二人きりになる。


フィカスはユウトに『ナイトと距離を置いてくれ』と頼むつもりなのだ。

ナイトの心を揺らす存在は排除しなければならない。

それが自分の役目なのだ。

無垢なユウトにそんな話を切り出すのは気が引けるが、早い方がいい。



「あの、ユウ‥‥ん?
何をしてるのですか」

「ここ、この壁さ、
見てみて」



フィカスが長身を曲げてユウトが指差す場所に顔を近づけた時、同じ目線のユウトに言われる。



【ソノママ答エテ】

「‥ッッ!?」



反射的に飛び退こうとするフィカス。

だが、何故か体が言う事を聞かない。

すぐ隣に顔を寄せているユウトに視線だけ向けるのが精一杯のフィカス。



「!?」



フィカスの目に金色に輝く双眸が映る。

ユウトのアンバーの瞳は光を受ければ金色に輝くが、壁に向かっている今は影になっていて光を受けていない。

にも拘わらず妖しく美しく金色に輝く瞳。


(こ、この少年は一体――!?)


フィカスのユウトに対する印象は全て崩れ、得体の知れない少年へと変わる。

それなのに何故か恐怖心は湧かず、フィカスの心は穏やかに凪ぐ。


コクッと小さく頷くフィカス。

ユウトに答える意思を示した。



【アリガトウ.
ジャア―――
教エテ?】







☆☆



「す、すみません!!
私、何故――?
何故、南都樫様を呼び止めたのか分からなくて――」



いつも無表情なナイトが僅かに眉をしかめる。

受付のコンシェルジュの女性に呼び止められたから受付まで行けば、女性は狐に抓まれた様な表情でおかしな事を言うのだ。

同僚の男性も驚いて、女性を叱りつつナイトに謝罪する。



「き、君、何バカな事を言ってるんだ!?
南都樫様、大変申し訳ございませんでした!
君も謝罪しなさい!」

「あ、はい、本当にッ
申し訳ございませんッ
私、一体――!?
あッ、南都樫様‥‥」



急いでエレベーターに飛び乗るナイト。


フィカスの仕業か!?

俺に隠れてユウトに何か―――


疑惑に胸をざわつかせながら大急ぎで部屋へ向かうナイト。

だが―――



「えぇ~~ッ!?
フィカスさんちも電子レンジないの?
炊飯器も?」

「はい。
私はパンを食べています」



息せき切って駆け付けたナイトの耳にはあまりにものんびりとした二人の会話が聞こえて来て。



「あ、ナイト!
―――どうしたの?
受付、何だったの?」

「ナイト様?
何かありましたか?」

「いや―――
勘違いだった様だ」



そう答えながらナイトは何か違和感を感じる。

フィカスがぼんやりしているのだ。

フィカスがぼんやりするなどあり得ない。



――何があった?



「部屋に入ってて良かったのに。
そう言っただろう?」



ナイトはフィカスを見据えてそう言う。

フィカスは穏やかな表情をナイトに向ける。



「はい。
ですが、すぐいらっしゃるだろうと思いまして。
私はここで失礼して6階の部屋に戻ります。
何かありましたらお呼び下さい。
それでは、ナイト様、ユウト君、失礼致します」

「えッフィカスさん、
ここの6階に住んでるんだ?」

「はい。
ナイト様が御用の時はすぐに駆け付けられる様に…」

「フィカス、待て。
ちょっと話がある。
ユウト、部屋に入っていてくれ」



そう言ってナイトが部屋の鍵を開ける。

ユウトは素直に従う。



「分かった。
それじゃフィカスさん
楽しかったです。
またね?」

「はい、また‥‥」



ユウトが部屋に入りドアが閉まると、ナイトがフィカスに厳しい視線を向ける。



「フィカス何をした?
何があった?」

「――え? 何も…」

「とぼけるな。
何なんだそのぼんやりした顔は?」

「は。
――多分、食べすぎでしょうか?
大将の居酒屋飯が美味し過ぎたので」

「‥‥‥‥‥」



何があったと聞かれても何も無いのだから答えようがない


本気でそう思っているフィカスと、

フィカスが本気でそう思っている事は分かったナイト。


では、この違和感は?




「――参ったな。
とんでもないね」



高級マンションの最上階の居間の窓から夜空を見上げて呟く美少年。



その瞳は妖しく美しく

金色に輝いている――








*今日はこの後3話更新します。
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