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31 君が攫われない様に
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ユウトは勇気を出して聞いてみる。
「ナイト、手」
「――ん?」
(ビックリして慌てて離すかと思ったら――
もしかして手繋いでる事に気付いてない?)
「何で繋いでるのかなって」
これで漸く手を繋いでいる事に気付いて手を離すだろうと思うも、またも予想外な事にナイトは手をそのままに落ち着いた声で言う。
「ユウトは人攫いに遭う危険が高い。
こうしていれば回避できる」
「――あ、そういう…
ナイト、やっぱり僕の事幼児だと思ってるよね?」
「思ってない。
心配だから」
「思ってるじゃん。
誘拐されるのは幼児とかお金持ちでしょ。
僕はお金持ちじゃないんだから、幼児って事でしょ。
――そりゃ中身は幼児的かもだけど、黙ってれば高校生だから。
だから大人なナイトに手を繋いでもらわなくても大丈夫だよ」
そう言って手を引けば、緩く握られていた手はあっさりと大きな手から離れて。
ユウトは自分から手を離したのに、何だか酷く寂しく感じて戸惑う。
(――何で僕はこんな拗ねてるみたいに‥‥
『幼児扱い』されてるんだって分かって気持ちがすごく下がって‥‥
何で?
何を期待してた?
あんな風にドキドキして何のつもりだったんだろう?
あ――ダメだ。
考えれば考えるほど下がる。
―――はッ!?)
とにかく拗ねた態度を謝らなきゃとナイトに目を向けたユウトは固まる。
高い位置からじっとユウトを見下ろしているナイトと目が合ったから。
ナイトがユウトをめっちゃ見てる!
(これは――
怒ってる?のかな?
怒ってる目じゃないけど怒ってないならこんなに見ないよね?)
フリーズ状態の二人にフィカスが助手席から意見する。
「確かにユウト様…ユウト君は無防備過ぎて心配になりますね。
無自覚なので余計にね。
ユウト君の様に見目麗しい少年は充分誘拐の対象になります。
ナイト様がご心配されるのも尤もかと」
「ユウト、電車で拉致されそうだった」
「‥‥ッ!
そう――だった。
僕は○☆駅で降りるって言ったのに――
○☆駅の次の駅の先輩の兄さんの療養所に連れて行かれるところだった‥‥」
「療養所?」
「うん――サウナとか…そこで僕をみんなで介抱するって言ってた」
シィィ‥‥ン
ギラギラとナイトの目が冷たく光る。
フィカスが青褪め、端正な顔に焦りの色を滲ませる。
突然息苦しいほど重くなった空気に、ユウトは訳が分からない。
知らない場所に無理矢理連れて行かれそうになった恐怖や先輩たちの目つきや表情、体から発する異様な空気への嫌悪感は今は随分薄まっている。
タクシーが緩やかに停まり、運転手が目的地に着いた事を告げる。
「着きやしたぜ。
あの、▼▼駅にあるサウナって言ったら、男性専用サウナです。
かなり悪名高い店ですよ。
主に薬物関係で違法行為が横行しているとか。
バックに大物がいるらしくて摘発を免れ続けているらしいでやす。
――被害者が泣き寝入りを選ぶ為、表に出にくい犯罪行為の噂も聞きやす。
お客さん、そんな所に連れ込まれなくて本当によかった。
天使みてえなお客さんが、無理矢理男相手の性奴隷にされるのは忍びねえ」
「へ!?男相手の性…
な、な!?」
『あっしも詳しくは知りませんがね、』と前置きした運転手の説明で自分が知らなかった世界を知ったユウトは、顔面蒼白になって叫ぶ。
「ナ、ナイト!
き、気を付けてねッ!
男同士だからと安心してサウナとかに付いて行っちゃダメだからねッ!」
「何で俺の心配だ!?
危ないのはユウトだ」
「僕なんかよりナイトが心配だよ!
ナイトはすごく綺麗なんだから!
きっとそういう人達に狙われちゃうよ!」
シィィ‥‥ン
「―――フィカス
笑い過ぎだ」
ナイトに注意され片手で口を押さえ肩を震わせていたフィカスが笑いながらユウトに向かって口を開く。
「ハハ…、ハイ。
ユウト君、ナイト様の心配は必要ないかと。
多分地球で一番お強いので。
力ずくで襲おうとする命知らずはいないでしょう。
それよりもご自分の心配をなさって下さ…」
「フィカスさん、そーゆー心の緩み、油断が一番危険なんだ!
ナイトクラスの美人は常に気を張ってるくらいでないと!」
「ぷっ…ククッ…んッ
ナ、ナイト様、だ、そうです…ぷぷぷっ」
「――じゃあユウト」
ナイトがユウトに手を差し出す。
「俺が攫われない様に手を繋…」
「もちろんだよ!」
≪ガシッ!≫
ユウトはかなり食い気味にナイトの手を掴むと。
真剣な表情で『僕に任せて』とゆっくり頷いて見せた。
深紫の瞳が揺れ、柔らかく潤む。
ほっこりした表情で去って行くタクシードライバー。
執事フィカスも同様に顔を綻ばせていたが――
しっかりと手を繋ぎ前を歩く二人を見て思わず足を止める。
フィカスの目に映る、フィカスが見た事の無かったナイトの表情――
ホッとした横顔
柔らかな眼差し
それと同時に思い出す、ユウトに害をなす存在に対する危険過ぎる目の光。
今まで感情的になる事が一切無かったナイトがユウトが絡むと感情を揺らす。
それは危険な兆候で
阻止すべき現象だ。
フィカスは端正な顔からスッと表情を消すと。
誰かに執着するのは危険です、ナイト様
私は危険を阻止しなければなりません
そう独り言つ。
「ナイト、手」
「――ん?」
(ビックリして慌てて離すかと思ったら――
もしかして手繋いでる事に気付いてない?)
「何で繋いでるのかなって」
これで漸く手を繋いでいる事に気付いて手を離すだろうと思うも、またも予想外な事にナイトは手をそのままに落ち着いた声で言う。
「ユウトは人攫いに遭う危険が高い。
こうしていれば回避できる」
「――あ、そういう…
ナイト、やっぱり僕の事幼児だと思ってるよね?」
「思ってない。
心配だから」
「思ってるじゃん。
誘拐されるのは幼児とかお金持ちでしょ。
僕はお金持ちじゃないんだから、幼児って事でしょ。
――そりゃ中身は幼児的かもだけど、黙ってれば高校生だから。
だから大人なナイトに手を繋いでもらわなくても大丈夫だよ」
そう言って手を引けば、緩く握られていた手はあっさりと大きな手から離れて。
ユウトは自分から手を離したのに、何だか酷く寂しく感じて戸惑う。
(――何で僕はこんな拗ねてるみたいに‥‥
『幼児扱い』されてるんだって分かって気持ちがすごく下がって‥‥
何で?
何を期待してた?
あんな風にドキドキして何のつもりだったんだろう?
あ――ダメだ。
考えれば考えるほど下がる。
―――はッ!?)
とにかく拗ねた態度を謝らなきゃとナイトに目を向けたユウトは固まる。
高い位置からじっとユウトを見下ろしているナイトと目が合ったから。
ナイトがユウトをめっちゃ見てる!
(これは――
怒ってる?のかな?
怒ってる目じゃないけど怒ってないならこんなに見ないよね?)
フリーズ状態の二人にフィカスが助手席から意見する。
「確かにユウト様…ユウト君は無防備過ぎて心配になりますね。
無自覚なので余計にね。
ユウト君の様に見目麗しい少年は充分誘拐の対象になります。
ナイト様がご心配されるのも尤もかと」
「ユウト、電車で拉致されそうだった」
「‥‥ッ!
そう――だった。
僕は○☆駅で降りるって言ったのに――
○☆駅の次の駅の先輩の兄さんの療養所に連れて行かれるところだった‥‥」
「療養所?」
「うん――サウナとか…そこで僕をみんなで介抱するって言ってた」
シィィ‥‥ン
ギラギラとナイトの目が冷たく光る。
フィカスが青褪め、端正な顔に焦りの色を滲ませる。
突然息苦しいほど重くなった空気に、ユウトは訳が分からない。
知らない場所に無理矢理連れて行かれそうになった恐怖や先輩たちの目つきや表情、体から発する異様な空気への嫌悪感は今は随分薄まっている。
タクシーが緩やかに停まり、運転手が目的地に着いた事を告げる。
「着きやしたぜ。
あの、▼▼駅にあるサウナって言ったら、男性専用サウナです。
かなり悪名高い店ですよ。
主に薬物関係で違法行為が横行しているとか。
バックに大物がいるらしくて摘発を免れ続けているらしいでやす。
――被害者が泣き寝入りを選ぶ為、表に出にくい犯罪行為の噂も聞きやす。
お客さん、そんな所に連れ込まれなくて本当によかった。
天使みてえなお客さんが、無理矢理男相手の性奴隷にされるのは忍びねえ」
「へ!?男相手の性…
な、な!?」
『あっしも詳しくは知りませんがね、』と前置きした運転手の説明で自分が知らなかった世界を知ったユウトは、顔面蒼白になって叫ぶ。
「ナ、ナイト!
き、気を付けてねッ!
男同士だからと安心してサウナとかに付いて行っちゃダメだからねッ!」
「何で俺の心配だ!?
危ないのはユウトだ」
「僕なんかよりナイトが心配だよ!
ナイトはすごく綺麗なんだから!
きっとそういう人達に狙われちゃうよ!」
シィィ‥‥ン
「―――フィカス
笑い過ぎだ」
ナイトに注意され片手で口を押さえ肩を震わせていたフィカスが笑いながらユウトに向かって口を開く。
「ハハ…、ハイ。
ユウト君、ナイト様の心配は必要ないかと。
多分地球で一番お強いので。
力ずくで襲おうとする命知らずはいないでしょう。
それよりもご自分の心配をなさって下さ…」
「フィカスさん、そーゆー心の緩み、油断が一番危険なんだ!
ナイトクラスの美人は常に気を張ってるくらいでないと!」
「ぷっ…ククッ…んッ
ナ、ナイト様、だ、そうです…ぷぷぷっ」
「――じゃあユウト」
ナイトがユウトに手を差し出す。
「俺が攫われない様に手を繋…」
「もちろんだよ!」
≪ガシッ!≫
ユウトはかなり食い気味にナイトの手を掴むと。
真剣な表情で『僕に任せて』とゆっくり頷いて見せた。
深紫の瞳が揺れ、柔らかく潤む。
ほっこりした表情で去って行くタクシードライバー。
執事フィカスも同様に顔を綻ばせていたが――
しっかりと手を繋ぎ前を歩く二人を見て思わず足を止める。
フィカスの目に映る、フィカスが見た事の無かったナイトの表情――
ホッとした横顔
柔らかな眼差し
それと同時に思い出す、ユウトに害をなす存在に対する危険過ぎる目の光。
今まで感情的になる事が一切無かったナイトがユウトが絡むと感情を揺らす。
それは危険な兆候で
阻止すべき現象だ。
フィカスは端正な顔からスッと表情を消すと。
誰かに執着するのは危険です、ナイト様
私は危険を阻止しなければなりません
そう独り言つ。
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