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19 入学式前夜
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ユウトの私立橘高校入学式前夜。
生徒会長桧木は理事長である叔父を訪ねていた。
――と言っても同じ敷地内にある本邸だ。
叔父はそこに住んでいる。
当主として。
本邸と錦鯉のウジャウジャ泳いでいる池を挟んだ別邸が桧木家。
桧木富芦の父親は10才以上年下の弟に頭が上がらない。
だが、兄弟関係は良好だと思う。
富芦がもっと子供の頃、叔父に傅くような父親をバカにした時、叔父に殴られた。
『兄さんを侮辱するな!』
父の為に本気で怒った叔父。
その時から、叔父は富芦にとって神になった。
『絶対の存在』となったのだ――
☆☆
「――これだけ?
コレがプロの探偵の仕事ですか?」
ユウトの調査を叔父に依頼したのは3月初旬。
今か今かと報告を待ち続け約1ヶ月。
もうユウトの入学式前夜だという今、やっと連絡をもらって駆け付けたのに。
”お粗末 ”としか言えない報告内容に桧木は失望を露わにする。
「私も戸惑っているんだよ。
優秀な猿らしからぬ仕事ぶりだとね」
猿こと猿梨探偵の報告書は何とペライチである。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
八桐ユウト(15才男)
父・八桐セイヤが16才当時海外旅行中にやはり旅行中だった女性との間に儲けた第一子(母身元不明だが外国人である事は間違いない)
両親と共に海外を転々とした後、小学校入学の為に父と共に日本へ(母所在不明)
小学校の6年間は父と共に暮らす。
ユウト中学校入学を機に父親が行方不明に。
とは言え、不定期にユウト宛に大金を送って来るので生きている模様。
現・保護者は父方の祖父で、祖父夫婦と同居中。
父・セイヤが実にハチャメチャな人物で恐れられていた為、小学生であった6年間は誰もユウトに近付く事すら出来なかった模様。
中学生時代は、『ユウトに害をなすと天罰が下る』と信じられており、天罰を恐れて誰もユウトに近付く事すら出来なかった模様。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「何‥‥ッですかコレは!?」
「私も驚いたけどね、ハイ、じゃ~ん♪」
「‥‥何ですか?」
「追加報告書」
「何ですか、たった一文‥‥はッ!」
「君には最高に有用な一文だろう?
ユウト君を支配するのに使えそうな、ね?」
「‥‥‥‥‥」
自分はユウト君を支配しようとは思っていない。
だが―――
必要とあらば利用しない手はない!
そう桧木に口角を上げさせた追加報告書の一文とは以下の通り。
『ユウト、中学卒業式後に小出毬に告白してフラれる』
☆☆
同じ頃。
とある小道に人影二つ。
道の片側には雑木林、その反対側には荒れ地。
田舎の、地元の人も滅多に通らない小道には夜も深い今頃は誰も寄り付かない。
それでもヒソヒソ声で話す二人組は人目を憚らねばならない理由があるのだろう。
「ハァ、ハァ、すももちゃん、もうこれぐらいでいいんじゃないのかなぁ?」
「何言ってんの?
こんな浅いんじゃ直ぐ這い出て来れるじゃん!
いいからもっと掘ってよ!」
「だけどさ、あんまり深く掘っちゃったら、怪我するんじゃ…」
「別に怪我したっていーじゃん!」
「う、打ち所が悪かったりしたら死んじゃう事だって…」
「そんなの知らない。
死んだら死んだで本人の運が悪かっただけでしょ!」
「すももちゃん‥‥」
「何だよ?
僕のファンなんでしょ?
僕のお願い、何でも聞くって言ったよね?」
「‥‥だけど‥‥」
時刻はもうすぐ0時になる。
なった!
ユウトの入学式の日である。
生徒会長桧木は理事長である叔父を訪ねていた。
――と言っても同じ敷地内にある本邸だ。
叔父はそこに住んでいる。
当主として。
本邸と錦鯉のウジャウジャ泳いでいる池を挟んだ別邸が桧木家。
桧木富芦の父親は10才以上年下の弟に頭が上がらない。
だが、兄弟関係は良好だと思う。
富芦がもっと子供の頃、叔父に傅くような父親をバカにした時、叔父に殴られた。
『兄さんを侮辱するな!』
父の為に本気で怒った叔父。
その時から、叔父は富芦にとって神になった。
『絶対の存在』となったのだ――
☆☆
「――これだけ?
コレがプロの探偵の仕事ですか?」
ユウトの調査を叔父に依頼したのは3月初旬。
今か今かと報告を待ち続け約1ヶ月。
もうユウトの入学式前夜だという今、やっと連絡をもらって駆け付けたのに。
”お粗末 ”としか言えない報告内容に桧木は失望を露わにする。
「私も戸惑っているんだよ。
優秀な猿らしからぬ仕事ぶりだとね」
猿こと猿梨探偵の報告書は何とペライチである。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
八桐ユウト(15才男)
父・八桐セイヤが16才当時海外旅行中にやはり旅行中だった女性との間に儲けた第一子(母身元不明だが外国人である事は間違いない)
両親と共に海外を転々とした後、小学校入学の為に父と共に日本へ(母所在不明)
小学校の6年間は父と共に暮らす。
ユウト中学校入学を機に父親が行方不明に。
とは言え、不定期にユウト宛に大金を送って来るので生きている模様。
現・保護者は父方の祖父で、祖父夫婦と同居中。
父・セイヤが実にハチャメチャな人物で恐れられていた為、小学生であった6年間は誰もユウトに近付く事すら出来なかった模様。
中学生時代は、『ユウトに害をなすと天罰が下る』と信じられており、天罰を恐れて誰もユウトに近付く事すら出来なかった模様。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「何‥‥ッですかコレは!?」
「私も驚いたけどね、ハイ、じゃ~ん♪」
「‥‥何ですか?」
「追加報告書」
「何ですか、たった一文‥‥はッ!」
「君には最高に有用な一文だろう?
ユウト君を支配するのに使えそうな、ね?」
「‥‥‥‥‥」
自分はユウト君を支配しようとは思っていない。
だが―――
必要とあらば利用しない手はない!
そう桧木に口角を上げさせた追加報告書の一文とは以下の通り。
『ユウト、中学卒業式後に小出毬に告白してフラれる』
☆☆
同じ頃。
とある小道に人影二つ。
道の片側には雑木林、その反対側には荒れ地。
田舎の、地元の人も滅多に通らない小道には夜も深い今頃は誰も寄り付かない。
それでもヒソヒソ声で話す二人組は人目を憚らねばならない理由があるのだろう。
「ハァ、ハァ、すももちゃん、もうこれぐらいでいいんじゃないのかなぁ?」
「何言ってんの?
こんな浅いんじゃ直ぐ這い出て来れるじゃん!
いいからもっと掘ってよ!」
「だけどさ、あんまり深く掘っちゃったら、怪我するんじゃ…」
「別に怪我したっていーじゃん!」
「う、打ち所が悪かったりしたら死んじゃう事だって…」
「そんなの知らない。
死んだら死んだで本人の運が悪かっただけでしょ!」
「すももちゃん‥‥」
「何だよ?
僕のファンなんでしょ?
僕のお願い、何でも聞くって言ったよね?」
「‥‥だけど‥‥」
時刻はもうすぐ0時になる。
なった!
ユウトの入学式の日である。
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