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18 何で?

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あの時、強い風が吹いて。

ナイトの髪が風に舞った。


黒よりも柔らかな紫黒が風に舞うさまは絹の様に滑らかで優しい。

落ち着いた美しい深紫の瞳は瞳を薄く縁取る本紫が更に幻想的で――


真剣な表情――

少し怒ってた?


「ユウトはバカじゃない!」


そんな事言ってくれたの、ナイトが初めてだよ。


だから、
なんか、
すごく、

‥‥‥困る‥‥‥


心の奥の深いところ。

普段は眠っているそこが震えて困るんだ。



「――あんなに綺麗な瞳、何でいつも隠してるんだろう」



思考を変える為に、別の疑問を口にしてみる。

ナイトは長めの前髪が薄く目に掛かっていて目も薄く開けているだけなのであの美しい瞳は隠れてしまっている。

美形だからそれでも充分カッコイイけど。

ユウトを真っ直ぐ見据えた時の美しさは息が止まるほどだった。

他に何も見えなくなるほど。

そこがどこか分からなくなるほど――



「‥‥ふぅ」

「おっ?
どうしたどうした?
恋の悩みか?」

「―――えッ!?」

(恋!?
ナイトに!?)

「ちっ違う!まさか!
とっ友達だよ!友達」

「うわッ、何だよそんな真っ赤になって…
てか、いつ友達になったんだよ?小出毬ちゃんと」

「―――へ?
小出毬ちゃん?」

「ああ、あそこにいるの、盗み見してたんだろ?
卒業式の日に告白します宣言しておいて、今更照れるなよな?
ボソッ(お前のテレ顔は心臓に悪い‥)」

「―――ああ‥‥」



ユウトの憧れの小出毬ちゃんが校庭でバドミントンして遊んでいる。

中二の秋に恋心を抱いて以来、学校ではずっと彼女を目で追って来た。

なのに今日はいる事に気付きもしなかった‥‥

何でだろう?

僕、何か変?


ユウトは誤魔化す様に、話し掛けて来た級友にどうでもいい返事をする。


「…それにしても、学校来る人ホント少ないよね」


ナイトも来てない。

だからあの日以来、会えてない。

学校に来れば当たり前に会えると思っていたから何だか肩透かしを食らった気分。


卒業式まであと数日。

教師たちは一応ちゃんと学校に来て授業を受けなさいって言ってたけど、クラスの三分の一にも満たない登校者数に、黒板にデカデカと『自習』と書いて、授業放棄している。

だからみんな好きな事をして時間を潰している。


僕はナイトと話したいのに。


ナイトが来ないから、あの時の事ばかり思い出してしまうんだ‥‥


会えると思ってたのに

もう卒業なのに


会えなくなるのに――


頭のいいナイトはとんでもなくハイレベルな高校に合格した。

この中学校始まって以来の大快挙として校内放送されたからみんな知っている。


もう、もうすぐ。

手の届かない所へ行ってしまう。

頭のいい人達に囲まれ、その人達と話す様になれば、おバカな僕とは会話が成立しなくなるかもしれない。


ユウトは胸が押しつぶされる様な気分になる。


何で?


今日の小出毬ちゃんは僕の視線を釘付けにしてくれない。


いつもみたいに、僕を捕まえてよ――
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