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15 風が吹いて
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「美味い‥‥
これが”すき焼き”」
「これが三大和牛の味
――尊い‥‥」
「蕩けるわねぇ‥‥」
「感無量だッ‥‥!」
みんなが感動していた。
『すき焼きを囲む』といえば『ワイワイ、ガヤガヤ』なイメージだが、この夜の八桐家は違った。
静かに肉と向き合い、その芳醇な旨味を堪能する。
静かなる肉の宴は全員が大満足のまま終了した――
☆☆
「あ、来た」
カンカンカンカンと踏切が鳴り、電車が駅に近付いて来る。
駅のホームでは、ユウトとナイトとユウトのじぃちゃんがナイトが乗る電車を待っている。
「ごめんね、本当はウチに泊まってもらえたら良かったのに」
「大丈夫」
「本当すまねぇなぁ。
ウチは小柄な家系だからなぁ、
ナイト君の身長をカバーできるロングな布団がねぇんだよ。
もう暖かいけど、やっぱ深夜は寒くなるだろ?
風邪ひかせちゃ可哀想だもんなぁ。
本当申し訳ない、今度ロング布団セット買っとくわ」
「い、いえ、
大丈夫です。
駅まで送って下さってありがとうございます。
(――あ)」
何だかユウトがキラキラした目をしているのは、自分が長めに喋っているからだと気付いて、ナイトの頬が熱くなる。
「本当に、向こうの駅から家、激近なんだな?
それにしても中学生で一人暮らしなんてナイト君、大変だなぁ。
だから大人っぽいんだなぁ‥‥ユウト、お前も一人暮らしすれば大人っぽくなれるんじゃないか‥」
「ダメです!」
同級生には見えない二人に、じぃちゃんが冗談めかしてユウトに一人暮らしを勧める様な事を言っている途中で、ナイトが強く遮る。
目を丸くしてナイトを見るじぃちゃんとユウト。
「ユウトの一人暮らしは、色々危ないから、ダメです!
絶対、ダメです!」
「え、何で?――ナイト、もしかして僕の事幼稚園児ぐらいだと思ってない?」
「ない。
心配だから」
「心配って――僕バカだけど、そこまで何も出来ないってワケじゃないよ?」
「ユウトはバカじゃない!」
「―――ッッ」
ヴワッ!‥‥
ホームに電車が入って来た。
電車が連れて来た風に髪は激しく揺れるけど、ユウトの瞳は揺らぐことなくナイトの瞳を捉えている。
半ば夢見る様に。
「ありがとう。
―――ねぇ、
ナイトの瞳と髪――
すごく、きれいだ」
夢見る様に
見つめて、
そう言って、
夢見る様に
笑った――
ゴウゥン、ゴウゥン、
ゴトトトン――‥
どうやって電車に乗ったのか、
何だかユウトのじぃちゃんが『いや、俺が冗談言っちまって、悪かった!…ユウトはいい友達持って幸せだ、ありがとうな』とか言って、ナイトを電車に乗せたんだったか――
閉まった電車のドアの向こうでユウトが手を振っていた。
ドアにはり付いて『ああ、手を振り返さなきゃ』と気付いた時にはもうホームは見えなくなっていた。
電車の中で、ナイトはいつもは座らないのだけど、今は座った。
立っていられなかった。
情操教育的には壊滅的な環境で育ったナイトは自分の感情が分からない。
ナイトの髪と瞳は一見黒色だが、良く見ると違う。
髪は紫黒色で、瞳は深紫だ。
この色は父の色だ。
呪われた色だ。
これのせいでナイトは幼少の頃身を隠し身分を偽って生きなければならなかった。
だから髪と瞳の色はナイトにとって呪いで、忌むべきものだった。
何代にも渡り長く潜伏したのち国を再建するもたった10年ほどで再び消えた某国の王の醜聞の証。
日本人旅行者との許されない恋の結果。
あの国が無くなって、ナイトはもう身を隠す事も身分を偽る事も必要なくなったが、それでも髪と瞳は重い十字架の様に感じていた。
すごく、きれいだ
すごくきれいな髪と瞳の少年がそう言った。
その瞬間、ナイトは呪いから解き放たれた。
ナイトの髪と瞳は、あの王族の血統を示すものではなくなった。
ユウトが『すごく、きれい』と思うものなのだ。
ナイトは自分の感情が分からない。
だから、どうして両眼から涙が流れ続けているのか、全く分からないのだ――
これが”すき焼き”」
「これが三大和牛の味
――尊い‥‥」
「蕩けるわねぇ‥‥」
「感無量だッ‥‥!」
みんなが感動していた。
『すき焼きを囲む』といえば『ワイワイ、ガヤガヤ』なイメージだが、この夜の八桐家は違った。
静かに肉と向き合い、その芳醇な旨味を堪能する。
静かなる肉の宴は全員が大満足のまま終了した――
☆☆
「あ、来た」
カンカンカンカンと踏切が鳴り、電車が駅に近付いて来る。
駅のホームでは、ユウトとナイトとユウトのじぃちゃんがナイトが乗る電車を待っている。
「ごめんね、本当はウチに泊まってもらえたら良かったのに」
「大丈夫」
「本当すまねぇなぁ。
ウチは小柄な家系だからなぁ、
ナイト君の身長をカバーできるロングな布団がねぇんだよ。
もう暖かいけど、やっぱ深夜は寒くなるだろ?
風邪ひかせちゃ可哀想だもんなぁ。
本当申し訳ない、今度ロング布団セット買っとくわ」
「い、いえ、
大丈夫です。
駅まで送って下さってありがとうございます。
(――あ)」
何だかユウトがキラキラした目をしているのは、自分が長めに喋っているからだと気付いて、ナイトの頬が熱くなる。
「本当に、向こうの駅から家、激近なんだな?
それにしても中学生で一人暮らしなんてナイト君、大変だなぁ。
だから大人っぽいんだなぁ‥‥ユウト、お前も一人暮らしすれば大人っぽくなれるんじゃないか‥」
「ダメです!」
同級生には見えない二人に、じぃちゃんが冗談めかしてユウトに一人暮らしを勧める様な事を言っている途中で、ナイトが強く遮る。
目を丸くしてナイトを見るじぃちゃんとユウト。
「ユウトの一人暮らしは、色々危ないから、ダメです!
絶対、ダメです!」
「え、何で?――ナイト、もしかして僕の事幼稚園児ぐらいだと思ってない?」
「ない。
心配だから」
「心配って――僕バカだけど、そこまで何も出来ないってワケじゃないよ?」
「ユウトはバカじゃない!」
「―――ッッ」
ヴワッ!‥‥
ホームに電車が入って来た。
電車が連れて来た風に髪は激しく揺れるけど、ユウトの瞳は揺らぐことなくナイトの瞳を捉えている。
半ば夢見る様に。
「ありがとう。
―――ねぇ、
ナイトの瞳と髪――
すごく、きれいだ」
夢見る様に
見つめて、
そう言って、
夢見る様に
笑った――
ゴウゥン、ゴウゥン、
ゴトトトン――‥
どうやって電車に乗ったのか、
何だかユウトのじぃちゃんが『いや、俺が冗談言っちまって、悪かった!…ユウトはいい友達持って幸せだ、ありがとうな』とか言って、ナイトを電車に乗せたんだったか――
閉まった電車のドアの向こうでユウトが手を振っていた。
ドアにはり付いて『ああ、手を振り返さなきゃ』と気付いた時にはもうホームは見えなくなっていた。
電車の中で、ナイトはいつもは座らないのだけど、今は座った。
立っていられなかった。
情操教育的には壊滅的な環境で育ったナイトは自分の感情が分からない。
ナイトの髪と瞳は一見黒色だが、良く見ると違う。
髪は紫黒色で、瞳は深紫だ。
この色は父の色だ。
呪われた色だ。
これのせいでナイトは幼少の頃身を隠し身分を偽って生きなければならなかった。
だから髪と瞳の色はナイトにとって呪いで、忌むべきものだった。
何代にも渡り長く潜伏したのち国を再建するもたった10年ほどで再び消えた某国の王の醜聞の証。
日本人旅行者との許されない恋の結果。
あの国が無くなって、ナイトはもう身を隠す事も身分を偽る事も必要なくなったが、それでも髪と瞳は重い十字架の様に感じていた。
すごく、きれいだ
すごくきれいな髪と瞳の少年がそう言った。
その瞬間、ナイトは呪いから解き放たれた。
ナイトの髪と瞳は、あの王族の血統を示すものではなくなった。
ユウトが『すごく、きれい』と思うものなのだ。
ナイトは自分の感情が分からない。
だから、どうして両眼から涙が流れ続けているのか、全く分からないのだ――
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