11 / 104
11 あの時の桧木
しおりを挟む
『時が止まる』感覚を初めて知った。
そんな感覚、本当にあったんだな‥‥
一月下旬の私立橘高校入試の日、校門を駆け抜けて来た彼に釘付けになった。
ヨーロッパの由緒正しい貴族が所有している年代物の絵本に描かれている美少年。
そんな印象を持った。
こんな美少年が日本に居るのかと思った。
そこに居るだけで視線を奪われるなんて。
視線を奪われるという事は、心を奪われるという事なんだろうか。
ふっ――バカな。
僕は誰にも心を奪われたりしない。
一生、誰のものにもならない。
誰にも負けるつもりはない。
それなのに何故?
視線を外す事が出来ないのだろう?
走る君。
アンバーローズの柔らかそうな髪が風に揺れて。
アンバーの明るい瞳は陽の光を受けて金色やオレンジ色に輝いて。
白い肌――ああ、ハーフなんだな。
髪も瞳も自然で似合っていて本物だと分かる。
何て美しい少年なんだ――
お伽話から迷い込んで来た様な美少年は何語を話すんだろう――
『すいませんッ!
ちょっと寝坊しちゃって!
試験、まだ間に合いますか!?』
バリバリの日本語だった。
不覚にも一瞬、軽く気絶してしまった。
見た目とのギャップが凄過ぎる――
一ヶ月ちょっと前の、初めてユウトを見た日の事が桧木の脳裏にドッと蘇る。
あの時、何が起きた?
『極上のネコちゃんを見つけた。
啼かせる時が楽しみだ』
そう呟きながら、不埒な想像が出来なかった。
畏れる自分がいた。
怯む自分に初めて出会った。
何故?
僕に何が起きた?
答えを探るのを拒絶しながらも今日までずっと心の奥を乱し続けてきた何か――
「富クン何してるの?
その子…あ!お前は!
中坊が何してんのさ」
心の迷宮に踏み入ろうとしていた桧木の思考を、キンキンとした声が停止させる。
声の主は御花畑すもも
金髪に染めたストレートヘアを腰まで伸ばしている10人並みの美少年だ。
本当は髪を銀髪に染めたかったのだが、理想の銀髪に染まらなかった為、綺麗に染まった金髪で手を打った。
理想はあるが妥協も知っているバランス感覚のそこそこある男――いや、男の娘である。
あからさまにユウトに対して敵意のこもった目で睨みつけるすもも。
桧木はすももからユウトを隠す様に前へ出ると、冷たく注意する。
「御花畑君、態度に気を付けなさい。
ユウト君は既にファンの心を鷲掴みにしている。
ユウト君に対する敵意丸出しの態度を、皆はどう思うだろうか?」
「富クン!?
僕にそんな――」
「そのダサい呼び方も止めてもらおうか。
不快でしかない!」
「そんなッ、
ベッドではいつもッ」
「御花畑君!」
桧木は圧の強い声ですももを遮る。
その顔には『余計な事を!』と書いてある。
自分達の関係がユウトにバレてしまった事に苛立ちを隠せない。
桧木はいつもはキレイに別れるのを心掛けていたのだが。
そもそも都合のいいすももとの関係を終わらせる気は無かったのだが。
ユウトの前で余計な事を喋ったすももに対する怒りが抑えられない。
まだユウトの前では猫を被っていたかったのに!
ゆっくりと時間を掛けて狩るつもりでいた、それだけの価値のある獲物の前で、ハンターである事をバラされて許せるはずが無いのだ――
桧木は物腰柔らかな外面を完全に捨て、すももを冷ややかな視線で射貫く様に見据えて言い放つ。
「まだ分からないのか?
君とはもう終わったんだ!
二度と僕に付きまとうなよ?
今後はこんな風に声を掛けて来るのも許さない。
分かったらサッサと失せろ!」
「‥‥ッ!
富ク‥」
≪ギロリッ≫
「‥‥ッッ
う‥うぅぅッ!
酷いよ、あんなに愛し合った僕をこんなにあっさり捨てるなんて!
もうソイツに乗り換えたんだ!?
許さない!
僕、ソイツを絶対許さないからッ!」
キンキン響く声で恨み言を言いながら走り出すすもも。
ユウトの側を通る際、涙に濡れた目を怒りで染め、殺す勢いでユウトを睨みつけて去って行った。
桧木はホッとした。
ポカンとしたユウトの目は、今の会話を何一つ理解していないのが明らかだからである。
このままこの細くしなやかな腕を引いて裏門から学校を出て、すぐ近くの行きつけのホテルのベッドで絡み付きながら今の会話の説明をしてやろうかな――
桧木がその目に危険な炎を灯してユウトの腕を更に強く掴んだ時――
そんな感覚、本当にあったんだな‥‥
一月下旬の私立橘高校入試の日、校門を駆け抜けて来た彼に釘付けになった。
ヨーロッパの由緒正しい貴族が所有している年代物の絵本に描かれている美少年。
そんな印象を持った。
こんな美少年が日本に居るのかと思った。
そこに居るだけで視線を奪われるなんて。
視線を奪われるという事は、心を奪われるという事なんだろうか。
ふっ――バカな。
僕は誰にも心を奪われたりしない。
一生、誰のものにもならない。
誰にも負けるつもりはない。
それなのに何故?
視線を外す事が出来ないのだろう?
走る君。
アンバーローズの柔らかそうな髪が風に揺れて。
アンバーの明るい瞳は陽の光を受けて金色やオレンジ色に輝いて。
白い肌――ああ、ハーフなんだな。
髪も瞳も自然で似合っていて本物だと分かる。
何て美しい少年なんだ――
お伽話から迷い込んで来た様な美少年は何語を話すんだろう――
『すいませんッ!
ちょっと寝坊しちゃって!
試験、まだ間に合いますか!?』
バリバリの日本語だった。
不覚にも一瞬、軽く気絶してしまった。
見た目とのギャップが凄過ぎる――
一ヶ月ちょっと前の、初めてユウトを見た日の事が桧木の脳裏にドッと蘇る。
あの時、何が起きた?
『極上のネコちゃんを見つけた。
啼かせる時が楽しみだ』
そう呟きながら、不埒な想像が出来なかった。
畏れる自分がいた。
怯む自分に初めて出会った。
何故?
僕に何が起きた?
答えを探るのを拒絶しながらも今日までずっと心の奥を乱し続けてきた何か――
「富クン何してるの?
その子…あ!お前は!
中坊が何してんのさ」
心の迷宮に踏み入ろうとしていた桧木の思考を、キンキンとした声が停止させる。
声の主は御花畑すもも
金髪に染めたストレートヘアを腰まで伸ばしている10人並みの美少年だ。
本当は髪を銀髪に染めたかったのだが、理想の銀髪に染まらなかった為、綺麗に染まった金髪で手を打った。
理想はあるが妥協も知っているバランス感覚のそこそこある男――いや、男の娘である。
あからさまにユウトに対して敵意のこもった目で睨みつけるすもも。
桧木はすももからユウトを隠す様に前へ出ると、冷たく注意する。
「御花畑君、態度に気を付けなさい。
ユウト君は既にファンの心を鷲掴みにしている。
ユウト君に対する敵意丸出しの態度を、皆はどう思うだろうか?」
「富クン!?
僕にそんな――」
「そのダサい呼び方も止めてもらおうか。
不快でしかない!」
「そんなッ、
ベッドではいつもッ」
「御花畑君!」
桧木は圧の強い声ですももを遮る。
その顔には『余計な事を!』と書いてある。
自分達の関係がユウトにバレてしまった事に苛立ちを隠せない。
桧木はいつもはキレイに別れるのを心掛けていたのだが。
そもそも都合のいいすももとの関係を終わらせる気は無かったのだが。
ユウトの前で余計な事を喋ったすももに対する怒りが抑えられない。
まだユウトの前では猫を被っていたかったのに!
ゆっくりと時間を掛けて狩るつもりでいた、それだけの価値のある獲物の前で、ハンターである事をバラされて許せるはずが無いのだ――
桧木は物腰柔らかな外面を完全に捨て、すももを冷ややかな視線で射貫く様に見据えて言い放つ。
「まだ分からないのか?
君とはもう終わったんだ!
二度と僕に付きまとうなよ?
今後はこんな風に声を掛けて来るのも許さない。
分かったらサッサと失せろ!」
「‥‥ッ!
富ク‥」
≪ギロリッ≫
「‥‥ッッ
う‥うぅぅッ!
酷いよ、あんなに愛し合った僕をこんなにあっさり捨てるなんて!
もうソイツに乗り換えたんだ!?
許さない!
僕、ソイツを絶対許さないからッ!」
キンキン響く声で恨み言を言いながら走り出すすもも。
ユウトの側を通る際、涙に濡れた目を怒りで染め、殺す勢いでユウトを睨みつけて去って行った。
桧木はホッとした。
ポカンとしたユウトの目は、今の会話を何一つ理解していないのが明らかだからである。
このままこの細くしなやかな腕を引いて裏門から学校を出て、すぐ近くの行きつけのホテルのベッドで絡み付きながら今の会話の説明をしてやろうかな――
桧木がその目に危険な炎を灯してユウトの腕を更に強く掴んだ時――
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
筋肉好きな変態と付き合うまでの話
クリア
BL
筋肉っていいな!って思いつきから始めた作品です!なので色々ぶっ飛んでます。主人公大和 翔(やまと かける)と日向 ヒロ(ひゅうが ひろ)の2人のピュアラブ?です。ピッチピチの高校生2人です!色々拙いところがあるのでごめんなさい。男前だけど、可愛い、ピュアなのが大好きです。
マッサージの痛さは実体験です。本当に痛かった。
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる