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第四章

21 第二王子

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アル達が王家の控室を出て少し歩いた所にソワソワと落ち着かない様子の男‥‥

第二王子がいる。


珍しい黒髪に金の瞳‥‥いつも周りを魅了する華やかな容姿の彼だが‥‥

アル達三人の前では地味男に見える事に第二王子の側近が驚いている。



「あっ、兄上! 兄上とお呼びしてもよろしいでしょうかッ!?」



廃王子達より一年遅く、東宮の王妃を母に生まれた第二王子。

彼は会った事も無い不遇の兄たちに強く憧れている。

原因は母、東宮の王妃。

何やら弾けた文化を持つ世界からの転生者だと噂される彼女。

廃王子達を『尊い』だの『推し』だのと崇める彼女の影響を受けたらしい。

いつもは落ち着いた柔和な雰囲気で人々の人気を集める第二王子が‥‥



「兄上ッ、私は第二王子‥‥いえ、実際は第四王子‥‥ハッ!?」



子犬の様に憧れの兄達に駆け寄ろうとしたところ、兄達の真ん中を歩くその美しい人――アルに気付く。


チラリ。
(by アル)


「ハァウッ!?」
(by 第二王子)


「‥‥フッ」
(by アル)


「あ‥‥あ‥‥あの!
私は‥‥何度もあなたの夢を見た事がありますッ!
そんな‥‥まさか実在の方だったなんて‥‥
あぁ‥‥夢で何度もお会いしました!
あなたは、私の運命‥」



バババッ!


すっかり憧れの兄達の存在を忘れていた第二王子の前にその憧れの兄達が立ち塞がり、アルを隠してしまう。

美しくも恐ろしい人間壁から放たれる威圧がハンパない。



「ヒィィッ!?」



耐えきれず床に座り込む第二王子に憧れの兄達は言葉を掛ける。



「今見た少年は幻だ。
すぐに忘れろ!」
(by シリウス)

「君が王太子に内定‥‥いや決定したぞ。
ソッチをガンバレ!」
(by デネブ)



何が何だか分からない第二王子に、人間壁からヒョイと顔を出したアルが尋ねる。



「翼竜は好き?」


「「‥‥アル?」」


「えッ‥‥翼竜‥‥
アッ、はい!
好き‥‥大好きです!
絵で見た事しか無いのに、なぜか大好きなんです!」



第二王子は嬉しい気持ちで力いっぱい答える。

美しい人は『‥‥フフッ』と笑って、



「私は今シリウス様の西の屋敷に滞在しているのだが‥‥
そこの森にベガとアルタイルという可愛い双子がいる。
ベガは赤い瞳に黒い体、アルタイルは金の瞳に赤い体。
可愛い双子の仲良し翼竜だ。
機会を見て会いに来るといいよ」



と。



「「アル? 何故そんな事を‥‥」」



と、憧れの兄達が不満気な声を上げるも、



「急ぐので失礼するよ」



アルがそう言って歩き出せば、廃王子達もそれに続く。

そうして去って行く三人をキラキラしながら見送る第二王子。

追いかけたい気持ちを抑えられたのは、先程憧れの兄達が放った威圧の影響がまだ残っているから‥‥



「だ‥大丈夫ですか? 殿下‥‥」



第二王子の側近が床に這いつくばったまま心配そうに主に尋ねる。



「ああ‥‥お前同様、体が痺れて立つ事さえままならない‥‥
だけど心はかつてないほど満たされている‥‥
だって私は、運命の人を見つけたんだから‥‥」



夢見る様な恍惚の表情でそう答える主に戸惑う側近。

(‥‥先ほどプロキオン卿が、我が主が王太子に決定したと仰った‥‥
いい加減な事を仰るお方ではないから、事実に相違ない‥‥
私自身、現王太子殿下より、我が主の方が王太子として相応しいと思って来た‥‥
これまで水面下で王太子の交代が協議されて来たという噂は本当だったのだ!
とうとう、我が主が王太子に決定したのだ‥‥!
‥‥だが、このタイミングで‥‥)



「ムフッ、シリウス兄上の西の屋敷へ翼竜に会いにいくぞ!
早速、最速スケジュールを調整してくれ!」



(我が主が‥‥)



「ああっ‥‥楽しみだなぁ~‥‥
アル殿‥‥だよな?
兄上達が『アル』とお呼びになっていたから‥‥
手土産は何がいいだろうか?
変に値の張る物ではアル殿に『重たい男』と思われてしまうよな?
やはり花束に御菓子‥‥ありきたり過ぎか?
ああ~~~ッ、悩ましい‥‥でも嬉しい‥‥ムフ、ムフフ、ムフン‥‥」



(ポンコツに‥‥‥‥くッ‥!)



握りしめていた為しっとり皺くちゃになったハンカチ。

側近はそのハンカチでそっと涙を拭うのだった‥‥‥
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