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アル
21 大切な想い出
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「‥‥最後に一つ‥‥いいですか?」
「‥‥え? なあに? 私にできる事なら何でも‥‥はわッ!?」
僕はスピカ嬢のふわふわした髪にくちづけする。
「‥‥キャッ!! ‥‥あ、アル君ッ!?」
「ごめんなさい。
スピカ嬢のふわふわした髪があまりにも素敵だから‥‥
我が儘聞いてくれて、ありがとう。
大切な想い出にします。」
「‥‥行かないで‥‥」
「え? よく聞こえな‥‥」
「い、いいえ‥‥いいえ!
気を付けて! と言ったのよ!
じゃ、私は部屋に戻るわね!
旅の無事を祈ってるわ!」
「ああ、はい!
ありがとうございます!」
この屋敷で、一つだけ良い想い出が出来た。
ゆるフワ‥‥コホン!
い‥‥急ごうっと。
逃げるからには、逃げ切らなくちゃね!
痛タタタタ‥‥
―――どうやって部屋に戻ったのか分からないまま自室のドアを閉めるスピカ。
そしてそのまま立ち尽くす。
髪染めが入っていた瓶を絶対見つからない場所に隠したり。
一晩中眠っていて何も知らない体を装うためにベッドに入って寝たふりしたり。
やるべき事はシンプルなのに。
何故か一歩も動けない。
アル君‥‥無自覚‥‥なの?
無自覚タラシ?
天然コマシ?
口づけされた髪が熱い‥‥
髪から熱が全身に伝わって何かフワフワする‥‥
「素敵?
私の髪が?
いつも必死にどうにかまとめているクセッ毛が?」
小さく声に出しソロリソロリと姿見に向かう。
か、髪を確かめてみなくっちゃッ
「‥‥ハッ!?」
姿見に映る自分の顔に目を瞠る。
今まで見た事のない表情の自分。
自分の容姿は‥‥決して称賛される様なものではないと自覚している。
ようく自覚しているのに‥‥
鏡の中には、自分でも魅力的だと思わずにはいられない女の顔があった。
「これが、私‥‥?」
「私、こんな表情、出来たの?」
ううん、出来ない。
きっと作ろうと思っても出来るものじゃない。
「‥‥私ったら‥‥
何てバカなの‥‥」
スピカは自分の愚かさを自覚し、
人生で愚かさは宝だと気付く。
「いつか、また会えるかしら‥‥
ふふっ、いずれにしろ‥‥」
髪染めの空き瓶を隠し、ベッドで寝返りを打ちながら、呟く。
「私の一生の推しが決まったわ‥‥!」
瞳に強い光を湛えた彼女は、美しく笑った。
「‥‥え? なあに? 私にできる事なら何でも‥‥はわッ!?」
僕はスピカ嬢のふわふわした髪にくちづけする。
「‥‥キャッ!! ‥‥あ、アル君ッ!?」
「ごめんなさい。
スピカ嬢のふわふわした髪があまりにも素敵だから‥‥
我が儘聞いてくれて、ありがとう。
大切な想い出にします。」
「‥‥行かないで‥‥」
「え? よく聞こえな‥‥」
「い、いいえ‥‥いいえ!
気を付けて! と言ったのよ!
じゃ、私は部屋に戻るわね!
旅の無事を祈ってるわ!」
「ああ、はい!
ありがとうございます!」
この屋敷で、一つだけ良い想い出が出来た。
ゆるフワ‥‥コホン!
い‥‥急ごうっと。
逃げるからには、逃げ切らなくちゃね!
痛タタタタ‥‥
―――どうやって部屋に戻ったのか分からないまま自室のドアを閉めるスピカ。
そしてそのまま立ち尽くす。
髪染めが入っていた瓶を絶対見つからない場所に隠したり。
一晩中眠っていて何も知らない体を装うためにベッドに入って寝たふりしたり。
やるべき事はシンプルなのに。
何故か一歩も動けない。
アル君‥‥無自覚‥‥なの?
無自覚タラシ?
天然コマシ?
口づけされた髪が熱い‥‥
髪から熱が全身に伝わって何かフワフワする‥‥
「素敵?
私の髪が?
いつも必死にどうにかまとめているクセッ毛が?」
小さく声に出しソロリソロリと姿見に向かう。
か、髪を確かめてみなくっちゃッ
「‥‥ハッ!?」
姿見に映る自分の顔に目を瞠る。
今まで見た事のない表情の自分。
自分の容姿は‥‥決して称賛される様なものではないと自覚している。
ようく自覚しているのに‥‥
鏡の中には、自分でも魅力的だと思わずにはいられない女の顔があった。
「これが、私‥‥?」
「私、こんな表情、出来たの?」
ううん、出来ない。
きっと作ろうと思っても出来るものじゃない。
「‥‥私ったら‥‥
何てバカなの‥‥」
スピカは自分の愚かさを自覚し、
人生で愚かさは宝だと気付く。
「いつか、また会えるかしら‥‥
ふふっ、いずれにしろ‥‥」
髪染めの空き瓶を隠し、ベッドで寝返りを打ちながら、呟く。
「私の一生の推しが決まったわ‥‥!」
瞳に強い光を湛えた彼女は、美しく笑った。
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